はじめに《帰国子女は常識知らず?》
海外で育った帰国子女が日本で暮らし始めると空気を読めないと思われがちです。
それは海外の空気と日本のそれが違うので慣れるまでに時間がかかるからであって、決して彼らが鈍感だからではありません。
別の国にはその国の常識があります。
当然のことながらその国で生活している以上はそこの空気を読んで生きていかなければなりません。
しかも国境を接している国や他民族が生活している国では常識や価値観も多岐に渡ります。
混在する常識や価値観を敏感に読みながら生きていかなければならないのです。
その中で生きていくためには「個」がとても重要なのです。
しかし、日本では集団の中で上手く生活していくことを求められるため、できるだけ「個」を抑える必要があります。
集団生活を重んじる日本の社会に「個」を重んじる海外から帰ってきた帰国子女がそんなに簡単に馴染めるわけがありません。
外国で暮らしていた時のように言動していると「空気を読めない」「自己主張が強い」「生意気」と言われてしまうのです。
しかし、両極端な常識や価値観を経験した帰国子女には新しい時代を切り開いていく可能性があります。
今回は、帰国子女がどのように自分らしさを花開いていくかを段階を追ってお話していきたいと思います。
第1段階 日本と海外の常識の違いで悩む
知人の息子さんはイギリスに9年間住んだ後、中学1年生の時に日本に帰国しました。
中学校に転校した初日に担任の先生から「分からないことがあったら何でも質問して」と言われたので直ぐに手を挙げて質問したそうです。
するとその先生から「そんな事も分からないのか」と言われてしまいました。
「何でも質問してと言われたのに、、、」とその子は思いました。
その後も何度か同じようなことが続き、結局その子は日本の学校が嫌になってしまいイギリスの寄宿学校に戻ることになったそうです。
日本で生まれ育った子供達であれば自然に身につく常識も帰国子女にとっては初めての事である場合がほとんどです。
掃除、給食、和式トイレ、授業の受け方、テスト、等々、ほとんど全ての事が分からないと言ってもいいかもしれません。
海外では分からない事があれば何でも質問するのが当然ですし、ユダヤ教徒にいたっては「質問する子供が良い子」という教育を受けていて幼い頃から議論をする習慣があるほどです。
しかし日本では「空気を読んで察する」ことが求められます。
どちらが良い悪いではなく常識が異なるのです。
多くの帰国子女はこの常識の違いに悩みます。
先生や同級生と楽しく学校生活を送りたいのは彼らも同じなのですが、どうやって振舞えばよいのか理解できないことが葛藤になります。
第2段階 自分を抑える
帰国子女は今まで暮らしていた外国での常識と日本の常識の違いの間で悩み、自分を抑えてしまう子も多いかもしれません。
何か言ったり行動したりして非常識と思われるくらいなら、なるべく自己主張せずにおとなしくしていようとしてしまうのです。
帰国子女は普通の日本人に比べてザックリ大雑把で鈍感と思われがちですが、多感な時期に様々な人種、宗教、習慣、文化から刺激を受けて繊細な感性を持っている子供も多いです。
そのため、人一倍傷つきやすく深い心の傷になってしまう場合もあります。
彼らの悩みを本当に理解して一緒に解決してくれる友人や大人の存在はとても重要なのですが、そういう存在に出会えない場合、自力で解決しなければならないのが現状のようです。
そのため、多くの帰国子女が一旦は自分を抑えて心を閉ざす時期を多少は経験するのかもしれません。
第3段階 違いを受け入れる
ここからは大きく2つの道に分かれるようです。
帰国子女の経験を「思い出」にして日本に馴染んだ生活を送る帰国子女と、自分を解放して「個」を開花させる帰国子女です。
前者は、日本での集団生活に溶け込むために帰国子女である自分を極力出さずにいるタイプです。
自分から海外での経験を他人に話すことはないですし、話したとしてもほんの一部分を人生の思い出として触れるだけです。
両極端の常識や価値観の違いを肌で感じて理解しているので、通常より空気を読むことにも長けていきます。
そのため、瞬時にその場に合わせて行動することができるようになります。
このタイプは集団の中で異なる意見や対立が生まれた時にも調整するのが得意です。
一方後者は、帰国子女として育った経験を自分の強みにして独特の個性を発揮するタイプです。
このタイプは一見「変わり者」として見られることも多いですが、「自分は自分」と割り切れれば割り切れるほど強烈な個性となりコミュニティの中で旋風を巻き起こすことが可能です。
明らかに普通の日本人とは異なるメンタリティを持っているので日本での生活に息苦しさを感じて再び海外に出る人も多いですが、日本人としてのアイデンティティのメリットも十分に理解して認めることができれば日本と世界の架け橋になる存在になっていきます。
どちらのタイプにも共通して言えることは「違いを受け入れる」ということです。
前者は、自分と周りの日本人との違いを受け入れることで自分自身を上手く微調整しながら日本に溶け込んでいきます。
後者は、違いを受け入れた結果、独特の常識や価値観を生み出して社会と調和していきます。
おわりに《空気が読めないから新しい発想が生まれる》
帰国子女の2つの生き方それぞれがこれからの日本にとって宝になると思います。
帰国したばかりの頃は空気が読めないと疎まれることもあるかもしれませんが、空気が読めないからこそ常識を超えて社会が発展するような新しい発想が生まれてくるのです。
毎年1万人以上の子供達が海外から日本に帰ってきます。
それはつまり、毎年1万人もの日本の宝が増えているということです。
私達大人にできることは、海外で稀有な経験・体験をした帰国子女がそれを抑え込むことなく安心して楽しく成長できる環境を整えていくことではないでしょうか?
そうすることで、彼らにとって日本は大好きな母国になります。
そして大好きな母国から世界をさらに素晴らしいところにしていくアイディアや活動を生み出してくれると思います。