《はじめに》帰国子女の幸せは親で決まる
親の仕事の都合で海外で生活することになった子供の人生は親との関わり方で決まると言っても過言ではありません。
多感な時期に自分の選択ではなく外国で暮らすことになった子供にとって、親との信頼関係ができているかいないかはその後の人生に少なからず影響を与えます。
親子関係が子供に与える影響は帰国子女に限ったことではありませんが、幼少期に異なる文化圏をまたぐ生活をしていた子供は日本で育った同じ年代の子供よりも多くの刺激を受けます。
そのような生活の中では様々な困難に直面しますが、親との関係が良好であれば一緒に協力して乗り越え、その経験が自分の力で人生を切り開いていく強さになっていきます。
しかし、もし親と十分な信頼関係が築けていない場合、子供は大きな波に一人で翻弄されていると感じ、心に傷を負い、人生に対して消極的になってしまう可能性があります。
今回は帰国子女の子供たちが豊かで幸せな人生を送るために親が知っておくべき大切な事をお伝えします。
1.命懸けで子供を守るという覚悟
日本とは常識の異なる外国での生活では様々な危険が子供たちの周りに存在しています。
そのため、親には命懸けで子供を守るという覚悟が必要です。
それは決して子供を過保護に育てるということではありません。
外国に住んでいるとその土地や国の常識に合わせなければならないと思ってしまいます。
現地のコミュニティと協調することはとても大切なことですが、何もかも鵜呑みにしていると弊害が出てきます。
私は、長男が5歳の時に家族でニューヨークに移り住みました。
アメリカでは1年生の前にキンダーというクラスがあり小学校の勉強が始まります。
長男も引越して直ぐに現地の小学校のキンダーに入りました。
しかし、英語が全く話せなかったので先生や友達の言っていることが分からずに教室の中をウロウロしたり、教室から出てしまうことが何回もありました。
英語が少し理解できるようになってからは勝手に歩き回ることはなくなりましたが、1年生の時の担任の先生から自閉症の可能性があるから専門の医師に診てもらうように言われました。
私は最初かなり動揺してしまい、同じ小学校に子供が通っていた日本人の先輩ママに相談しました。
すると彼女から「絶対に精神科に行かせてはダメ」というアドバイスをもらいました。
自閉症と診断されてしまうと精神安定剤を飲まされ学校からもそのように扱われてしまうし、何より子供自身が自閉症であることを言い訳にして挑戦しなくなってしまう、と言われたのです。
結局、私は長男を病院へは連れていきませんでした。
その後も何回も診断を受けるように言われましたが「日本に帰国してから考える」と言って断り続けました。
帰国してからも精神科に行くことはなく、長男はちょっと個性的ですが元気に育ち、現在はアメリカの大学に通っています。
もし当時の先生の言うことを鵜呑みにして自閉症と診断されてしまっていたら長男の個性と健康を潰してしまっていたかもしれません。
2.親の弱さをさらけ出す
慣れない外国での生活は大人である親でもとても悩みます。
日々のストレスの中で、長男の事ではとても心配して泣いたこともありました。
長男を叱ってしまったり、夫と喧嘩になったこともありました。
でも、大事な子供のことで悩んで心配して泣くことは自然なことだと思うのです。
私は自分のそういう弱い部分を子供たちにさらけ出してきました。
逆に、弱い部分を必死で隠そうとすれば子供も親に迷惑をかけていると感じて罪悪感を持ってしまいます。
また、親のありのままの姿を見せることで子供も自然体で生きていいと思えるようになります。
当時は相当悩んだ事でしたが、ずっと後になって長男にその話をすると「え?そんなことがあったの?」と全く覚えていませんでした(笑)
その後も私は色々な場面で弱音を吐いたり、泣いている姿を見せてきましたが、去年の長男からのクリスマスカードにはこう書かれていました。
「精神的に苦しみながらも仕事を頑張っていることをすごく尊敬しています。いつも相談に乗ってくれて感謝しています。」
特に教えてきたわけではないですが、親が何かに向き合って乗り越える姿を見て子供はちゃんと学んでくれているのだと思います。
3.子供を100%信頼する距離感
外国に住んでいれば余計に子供のことを心配して悩みますが、そんな自分を受け入れつつも100%信頼して子供の主体性に任せることも常に意識する必要があります。
長男が14歳の時に夫がエジプトに転勤になりました。
高校受験を控えた長男は日本で仕事をしている私と一緒に日本に残る予定でした。
しかし、周りに流されるままに高校に進学しようとしている長男を見て緊急家族会議を開き「お父さんと一緒にエジプトに行きなさい。お父さんの仕事をそばで見てきなさい。」といきなり言いました。
突然そう言われて長男はビックリしたと同時にガックリと肩を落としました。
エジプトに行ってしまったら大好きなゲーム仲間とも会えなくなってしまいますし、小学校以来の英語での学校生活が始まるのでまた英語を勉強し直さなければなりません。
引越までの2ヶ月間、毎日長男とじっくり話し合いました。
そして、最終的には本人の方から「このまま日本にいても甘えた生活を送ってしまうのでエジプトに行く」と言い出しました。
引越の手伝いのために一緒にエジプトに行って3週間ほど滞在しましたが、私が帰国する日の前日に長男が泣きそうな顔をして「明日、帰っちゃうんだよね」とポツリと言いました。
「まあ、がんばって」と涙をこらえて言えただけで長男の顔をまともに見れませんでした。
それ以来、物理的にも距離ができ、親である私には長男が強く成長していくことを信頼することしかできなくなりました。
たまに彼の方から電話をかけてきた時に相談に乗ることもありますが、必要とされるまでは一切手を出さないようにしています。
仕事をしている父親と外国で二人暮らしをしているおかげで、生活のことは一通りできるようになりました。
長男が17歳になる直前に二週間ほど一人でエジプトに残したことがありました。
その時に近所の日本人のお友達がお家に招待してくださったことがあり、手土産にハンバーグを焼いて持っていったと後で言っていました。
外国に暮らしているからこそ、親が信頼して適切な距離感で接することで子供は自然に自立していくのだと思います。
4.親自身のインナーチャイルドを癒すことの重要性
子供のことを命懸けで守る覚悟や、親が自分の弱さをさらけ出すことや、子供のことを信頼して適切な距離を置くことは、実際にはなかなか難しいものです。
その原因に親自身のインナーチャイルドがあります。
インナーチャイルドとは生後直後から青年期にかけて作られる心の傷です。
衝撃的な出来事がなくても、親や学校の先生から言われた何気ない言葉や日々の体験からインナーチャイルドはできてしまいます。
インナーチャイルドがあると親は子供に自分の果たせなかった夢や想いを投影してしまいます。
つまり、そのつもりはなくても、子供に過度の期待をかけたり、こうあって欲しいという願いを押し付けてしまうのです。
インナーチャイルドは非言語でも子供に伝わります。
親の方が押し付けたつもりはなくても、子供は親の期待を敏感に察知して自分の意思とは関係なく親が望む人生を選ぼうとすることもあります。
子供自身が本当に望む人生を送るためには親のインナーチャイルドを癒すことがとても重要です。
そうすることで、親と子が上下関係ではなく対等に協力し合える人生のチームメイトになっていくことができるのです。
《おわりに》子供との関係を通して親の可能性も広がる
子供が成長することに全身全霊で関わることで親も未知の可能性に気づくことができます。
長男が自閉症を疑われた時、私はとても弱く、学校の言う通りに精神科を受診して特別学校に転校させることまで考えてしまいました。
しかし、家族でたくさん話し合い、色々な人の話や経験を聞き、長男のことを理解しようと努めました。
その結果、この子はこのままで大丈夫!と思えるほど強くなっていました。
その時の経験が今の自分の仕事にも活きています。
外国で子供を育てる苦労を経験し乗り越えてきたからこそ、当時の私と同じような悩みを抱えている方々のご相談に乗って一緒に解決することができるようになったのです。
子供は生まれた瞬間からたくさんのギフトを持ってきてくれます。
そして、その後も親と一緒に育っていく過程で更に多くのギフトを渡し続けてくれます。
もし、目の前の子供の問題に悩んでいてそのギフトが見えなくなっていたら是非一度ご相談にいらしてください。
きっと、お子さんだけでなく、親であるあなた自身の可能性も広がります。