はじめに
天候気候の変化によって、体調を崩す人は少なからずいるようです。なかでも、雨の日には、気分が悪くなったり、頭痛に苦しめられたりする人が多いことから、仕事に集中できないという悩みを持っている人は少なくありません。
また、梅雨時や台風の発生する時期になると、イライラしたり、ストレスが溜まったりと、ネガティブ思考になるとともに、疲れが抜けない人もいるようです。
爽やかな晴天の日に比べて、ジメジメとした雨の日には何かと過ごしづらく、思い通りに物事が進まないといったことが原因となって、ストレスを溜め込んでしまう状況も、雨の日だから仕方がないと片付けてしまうには、少し端的すぎる側面があるかもしれません。
「なぜ、雨の日は気分が乗らないのか」、「なぜ、イライラして、ストレスを溜め込んでしまうのか」について考えを進めるとともに、そうしたことへの対処方法を少し考えてみたいと思います。そして、体調不良や気分の起伏を少しでも緩和できるような実践的な内容も紹介していこうと思います。
1、雨の日の体調不良の原因は?
近年、認知されはじめた「気象病」という病をご存知でしょうか。天候気候が悪い時に引き起こされる“頭痛”や“目眩”には、精神論では片付けられない原因があったのです。
雨が降りそうになると頭痛がする。梅雨時になると決まって古傷が痛む。季節の変わり目には体がだるくなったり、めまいが出る。あなたの周りにも、そんな人がいるのではないでしょうか?あるいは、あなた自身がそんな症状を抱えているかもしれません。このように、気象や天気が変化すると発症したり症状が悪化したりする病気は「気象病」と呼ばれています。
気象病には、痛み、めまい、狭心症、低血圧、ぜんそく、うつ病など、さまざまなものが含まれます。特に痛みは、昔から「古傷が痛むと雨が降る」などの言い伝えがあり、天気との関係が知られてきました。
(NHK解説委員室「気象病とは何か」(視点・論点)2017年09月12日(火)https://www.nhk.or.jp/kaisetsu-blog/400/279793.html)
現在、日本国内で気象病に悩まされている人は、愛知県医科大学学際的痛みセンター客員教授佐藤純氏によると「推定1000万人を超えると考えています」と訴えます。実際に診察に訪れない人を含め推定1000万人となると、自分には関係のない病だとは言い切ることはできないでしょう。さらに、この病は女性に多いという特徴を持っているようです。
気象病を引き起こす最も大きな原因が気象変化だといわれ、雨や雪が降る日をはじめ、台風などの風が強い日などといった気圧の変化によって、症状が急激に変化するといいます。
低気圧や高気圧という言葉は、天気予報などでよく耳にする言葉ですが、実際に見たり、影響を考えたりすることは難しいと思う人が多いかもしれません。イメージとしては、山登りなどの高低差がある場所へ出掛けた時のことを想像するといいでしょう。山登りの際に、袋に入ったスナック菓子を持っていくと、封入されている空気が膨張してパンパンに膨らむという現象を聞いたことがないでしょうか。
こうしたことは、地上よりも山頂の気圧が低いために起きる現象です。山頂よりも高い気圧に抑えられていたスナック菓子の袋の空気が、山頂の低い気圧の影響をうけて、抑えられていた力が弱まり膨らむという現象です。
雨の日(低気圧の日)には、これと同じような現象が私たちの身体でも起きていると考えられます。つまり、天気の良い日(高気圧の日)にはちょうどいい具合になっていた細胞に含まれる水分が、雨の日(低気圧の日)になって膨張するということです。
細胞内の水分を目視することはできませんが、体内の調整がうまくいかない場合、体調不良が出てくるということになりますので、天候が目に見えて変化する前に体調不良を引き起こすことも、気象病の特徴かもしれません。
また、自分の頭痛から、「もうすぐ雨が降るかもしれない」などと、天候の変化をある程度予測できる人もいるということにもなるでしょう。
2、気圧の変化によって現れた身体の異常について
気象病がさまざまな体調不良を引き起こす理由には、気圧の変化が自律神経を刺激するからと考えられています。先述の山登りをイメージすると、雨の日(低気圧の日)には、細胞内の水分が膨張することで血管が膨らみ、血圧が低下していきます。
個人差が大きいので一概には言えませんが、体内で何らかの変化が起き、体調不良となるケースがあるようです。これらの体調不良によって、自律神経が交感神経と副交感神経を調整できなくなるために、苛立ちや目眩、眠気や気怠さを感じさせるのではないかと考えられます。
そして、自律神経は女性ホルモンに影響を与えやすい神経だといわれていますので、女性が気象病による症状を感じやすいのは、その影響かもしれません。また、気象病を発症させる原因として考えられているのは、気圧の変化だけではないようです。
気温や湿度の変化、生まれ持った体質や生活習慣などによっても、身体に不調を感じやすいともいわれています。なかでも、乗り物酔いをしやすい人の多くは、気象病の症状でも悩んでいることが多いそうです。乗り物酔いで発生する揺れや不快感は、気圧の変化と似たような現象だと考えられているのが理由でしょう。
そして、耳が敏感な人ほど、気象病を発症しやすいともいわれているようです。
3、気象病を予防して、憂鬱な気分を晴らすために
自分自身で天候気候を操ることは、どうしてもできません。しかし、気象病を予防するための行動や、体調不良を予測して備えることは可能です。それは、生活習慣の改善や天気予報のチェックなど、自分自身のできる範囲で動いてみることです。
まずは、気圧の変化が予想される日を確認し、自分自身に起こる可能性がある体調不良に備えておきましょう。頭痛や目眩などの症状の種類は、人それぞれですから、自分にあった薬を常備しておくことも大切なことですが、薬に頼りすぎて飲みすぎないよう注意が必要です。
雨が降りそうな日や症状が出そうな日には、大切な予定を入れないようにすることもひとつの対応策でしょう。調子が出ない日に、結果や成果を掴むための行動を起こしてしまうと、”できなかったことへの反動“が大きくなる可能性があります。そうなると余計なストレスとなるので、調子が出ない時に大きな行動を起こすのは避けた方がいいということになります。
もし、大きな商談や案件にかかる場合は、可能な限り調子が出そうな日に予定し、調子が崩れそうな日をゆっくりと過ごせる環境整備に心がけていくことができるとよいでしょう。
また、エアコンの効きすぎた部屋で長時間過ごすことも、自律神経の働きを弱めてしまうため、気象病にはよくないという見方があるようです。適度に外気に触れて、意識的に汗をかくなどの対策を考えるのも大切なことになります。こうしたことは、冷房・暖房のどちらにも当てはまる現象となります。
さいごに
雨からくる憂鬱な気分は、気圧の変化による体調不良が引き起こしているという見方ができそうです。もちろん、全てにおいて“気圧のせいだ”という見解をしてしまうには、極端な考え方となるので問題があります。
そのため、「そうした見方や考え方もある」程度に、頭の隅に置いておくことで、今後の対応についても視野が広がるのではないでしょうか。
これまで、天候気候と体調不良の関係を聞いていくと、「気のせいだ」とか、「こじつけだ」とか、「気合が足りない」等々の精神論的な言葉をかけられ、嫌な気持ちになった人も少なくないでしょう。
さらには、痛みや苦しみに悩んでいる人の中には、家族や友人にも分かってもらえず、職場や学校からも理解されないことで、休職や退職、不登校や退学という選択をせざるを得ない人もいたかもしれません。
実際に悩んでいる人は、訴えることを諦めてしまっているかもしれませんが、周囲の近しい人へ相談してみることは大切です。また、こうしたことに悩まされていない人は、相手のことを理解することを意識して、耳を傾けみる時間を設けるようにしてみてはいかがでしょう。
一番良いのは、お互いの状況を遠慮することなく話せる関係性を築くことになりますが、一方が遠慮したり、遮ったりしてしまえば、関係を深く結ぶことも、理解し合うこともできません。
自分自身の不調は、自分自身が一番感じていることですから、話すことを嫌がっていては先には進むことができません。まずは、身近な人に伝えてみることから始めてみてはいかがでしょう。
〈参考〉
NHK解説委員室「気象病とは何か」(視点・論点)2017年09月12日(火)
神戸新聞NEXT「潜在患者1000万人「気象病」との付き合い方 台風接近、通過後に頭痛やめまい」2019年10月24日06:30
記事監修:医学博士 木ノ本景子