冬は風邪をひきやすいといわれています。
というのも気温が低くなると身体が冷えて免疫力が低下します。
さらには、シベリア高気圧の影響で乾燥した空気が暖房の影響でいっそう乾燥してしまい、ウイルスが飛び散りやすい状況を作ってしまうのです。
風邪をひくと1回の咳で10万個、1回のくしゃみで100~200万個のウイルスを空気中にばらまくとされ、「ゴホン10万、ハクション100万」ともいわれています。
そこで、今すぐできる風邪予防の一つである鼻呼吸の効果についてまとめてみました。
空気が乾燥するとなぜ風邪をひきやすくなるのか
そもそも空気が乾燥するとなぜ風邪をひきやすくなるのでしょうか。
風邪の原因は、80~90%がウイルスによる感染です。
風邪のウイルスは200種類以上ともいわれていますが、その多くは気温が低く空気が乾燥した状況では空気中に漂っている量が多くなります。
というのも湿度が高い状況だと風邪を引いた人がウイルスをまき散らしたとしても、すぐに地面に落ちてしまいます。
ところが、湿度が40%以下になるといっきにウイルスの落下速度が遅くなって、長い間ウイルスが空気中を漂うことになるのです。
ちなみに、今話題の新型コロナウイルですが、こちらの感染経路は2つあります。
1つが接触感染。
そして、もう1つがエアロゾルを介した感染です。
エアロゾルとは、気体とその気体中に浮遊する固体もしくは液体の粒子のことです。
10月13日に理化学研究所は世界最高の計算速度を誇るスーパーコンピューター「富岳」を使って、飲食のときの飛沫の拡散などを計算した結果を公表しました。
それによると話をする人の正面よりも隣に座るほうが5倍もの飛沫を浴びたそうですが、湿度が低いと飛沫が小さくなり、拡散しやすいということも分かりました。
つまりは、空気が乾燥した状況の方が呼吸を介してウイルスを取り込みやすくなるということです。
いっぽう、空気が乾燥することで防御面の方も弱くなることが分かっています。
エアロゾルを介した感染の防御の最前線となる鼻やのど、気管の粘膜や粘膜にある繊毛(せんもう)が乾燥してしまい、その働きが鈍ってしまうのです。
粘膜や繊毛は、外から入ってくる細菌やウイルス、ほこりなどの異物をキャッチし、身体の外へ追い出す働きがあります。
その働きが鈍くなることで、鼻やのど、気管に炎症が起き、風邪をひきやすい状態になってしまうのです。
今は新型コロナウイルス感染症対策として、マスクをつけて行動しているからエアロゾルを介した感染は起きにくいので大丈夫と思っていませんか?
実は、マスクをつけることで口呼吸が習慣化していることがあると指摘されています。
口呼吸が習慣化されると感染症だけではなく、他の病気の要因にもなってきます。
人間本来の呼吸は鼻呼吸
哺乳動物の中で口呼吸をするのは人間だけです。
そもそも哺乳動物にとって、口は食事をするためのもの、鼻は息をするためのものだったのですが、進化の過程で言葉を発するようになり、口でも呼吸ができるようになったとされています。
つまり、鼻呼吸は人間本来の自然な呼吸法なのです。
鼻腔は沢山の繊毛がついた粘膜細胞で覆われていて、通過する空気を温め、湿度を上げます。
その繊毛で小さなごみや化学物質、細菌やウイルスを絡めとって、のどや肺まで届かないように防いでくれています。
また、鼻腔の奥のところは脳を包んでいる頭蓋の底部と接しているため、鼻腔を冷たい空気が通るときに脳底部にある血管を流れる血液を冷やし、脳を効率よく冷却してくれるそうです。
口呼吸は病気のもと
口呼吸をすると冷たく乾燥した異物だらけの空気が直接、のどにあたることになります。
更に、口の中は乾燥するので、ウイルスや細菌などの病原体が繁殖しやすい状態になります。
つまり、口呼吸は、病原体に対して「繁殖しやすい状況を整えておいたので、どうぞいつでも入って下さい」と言わんばかりの状況を作り出します。
そう考えると口呼吸によって病気を引き起こすことがあるというのも納得がいくでしょう。
とはいえ、マスクをしているから口呼吸していても大丈夫と思うかもしれません。
しかし、口呼吸が習慣になってしまうと様々な問題を引き起こすことが分かっています。
1つめが免疫力の低下です。
先ほどいったような病原体が侵入し、繁殖しやすい状態になったうえに、その病原体と闘う力も低下するわけですから、感染症にかかりやすくなります。
それだけでなく、口呼吸をしている人の方が気管支喘息やアレルギーを起こしやすいということも分かっています。
2つめが口やのどの乾燥によって唾液の分泌が減ることです。
これは大した問題ではないと思われるかもしれませんが、唾液が減ると虫歯や歯周病にかかりやすくなったり、口臭がひどくなったり、喉やリンパが炎症を起こしやすくなったりします。
意外なところでは、身体が緊張状態と勘違いして、睡眠中も身体が休まらないということもあるそうです。
3つめが舌や口の筋肉の筋力低下です。
舌の位置が正しくなくなったり、歯並びが悪くなり、噛み合わせが悪くなったりします。
それだけでなく、顔のゆがみが生じ、たるみやしわ、二重あごの原因になるそうです。
最近では、アレルギー性鼻炎や扁桃腺肥大によって口呼吸をしている子どもが増えています。
子どものときから口呼吸でいると顎や顔面の筋肉、顎の骨の発育、顎および舌の位置に影響が出てくるだけでなく、味覚にも影響があるという報告があります。
4つめが血中の二酸化炭素濃度の低下です。
これは、口呼吸により必要以上の二酸化炭素を吐き出すことによって起きるとされています。
二酸化炭素濃度が低くなると臓器に酸素を補給する動脈が収縮して細くなり、末梢の循環が悪くなります。
さらに酸素を運んでいる赤血球が細胞近くの毛細血管のところで酸素を手放しにくくなってしまうのです。
つまり、細胞全部に酸素が十分に届かなくなります。
そのため、代謝が低下し、太りやすくなったり、疲れやすいだけでなく疲れが取れにくくなったり、不安になりやすくなったりしてしまうのです。
5つめが脳の前頭葉の慢性疲労状態を作り出すことです。
2013年に近赤外線によって口呼吸と鼻呼吸のときの脳の酸素活動を調べた報告によると、口呼吸の方がより前頭葉の酸素消費が多かったそうです。
つまり、口呼吸だと前頭葉が休まらず、慢性的な疲労状態になりやすくなります。
そのため、注意力が低下したり、学習能力や仕事の効率が落ちたりということが起こってくるのです。
口呼吸から鼻呼吸に変えるには
口呼吸を鼻呼吸に変えるにはどうしたらよいのでしょうか。
まずは、口呼吸によって衰えている舌や口の筋肉を鍛えることが重要です。
推奨されているのが、「あ〜、い〜、う〜、べ〜」と口や舌を大きく動かす「あいうべ体操」と呼ばれるものです。
とくに声を出す必要はありません。
1日30回を目安に行うとよいでしょう。
もう一つが眠るときに口が開いてしまわないように口をテープで止めるという方法です。
くれぐれも肌に負担がかかるようなテープは選ばないようにしてください。
途中ではがれてしまっても構いません。
まとめ
鼻呼吸が自然な人間本来の呼吸です。
生まれたばかりの赤ちゃんの時にはみんな鼻呼吸をしているそうです。
それが、言葉を発するようになると口でも呼吸するようになります。
残念ながら現代の日本人の多くは、口呼吸をしているとされています。
あまり呼吸に意識を向けたことがないという人もいるかと思いますが、
ちょっと自分の呼吸について振り返ってみてください。
鼻呼吸でこの冬を乗り切っていきましょう。
参考)Increased oxygen load in the prefrontal cortex from mouth breathing: a vector-based near-infrared spectroscopy study. M. Sano et. al. Neuroreport Dec 4;24(17):935-40. 2013