生命の神秘ーあらゆる生命のルーツを探るー

生命の誕生は未だ謎に包まれています。

最初の生命の起源においてさえも19世紀に入るまでは、「生物は親なしで無生物(物質)から一挙に生まれることがある」という自然発生説が主流でした。

現在は、非生物的な有機物がいくつか集まってできる「液滴」が細胞の起源として有力ではないかと考えられてはいますが、未だ結論が出ていないというのが現状です。

この記事の目次

進化論という概念

進化論という概念

無の状態から最初の生命体がどのように誕生したのか結論が出ていませんが、私たち人間をはじめとした地球にいる生物の祖先をたどるとどうなるのかという研究もなされていました。

この考え方の根本となるのが進化論です。

進化論とは、生物は不変のものではなく長期間かけて次第に変化してきたという仮説(学説)です。それに基づいて考えると現在みられる様々な生物は全てその過程のなかで生まれてきたと考えられるわけです。

進化論というとチャールズ・ダーウィンが最初に浮かびますが、最初にそのもととなる考えを提唱したのが、古代ギリシャの哲学者アナクシ・マンドロスです。彼は「生命は海の中で発展し、地上に移住した」と主張しました。
彼が生きていた時代は、紀元前610年ごろ~紀元前546年とされていますので、その当時から進化論のもとになる考えはあったということになります。

さらには、古代ギリシャの自然哲学者エンペドクレス(紀元前490年ごろ~紀元前430年ごろ)は、非超自然的な生命の誕生を論じ、後の自然選択に類似した概念を書いています。

ギリシャから遠く離れた中国でも荘子(紀元前369年ごろ~紀元前286年ごろ)が進化思想を持っていたとされています。

その後、ギリシャの進化思想はローマに受け継がれたのですが、ローマ帝国の没落とともに失われてしまいました。

ダーウィンの進化論

ダーウィンの進化論

今では一般的に受け入れられている感じもする進化論ですが、ダーウィンが提唱した当時でさえ多くの批判や反論を受けていました。

チャールズ・ダーウィンが行った功績は、進化論を単なる仮説から理論にまで高めたことです。

1859年11月24日に出版した『種の起源』の中で、生物は自然選択によって常に環境に適応するように変化し、種が変化して多様な種が生じるという進化の概念を提唱し、それを多くの観察例や実験による間接的な証拠を提示したのです。

自然選択とは、生物がもつ性質は個体間に違いがあること、性質の一部は親から子に伝えられること、環境収容力(ある環境において、そこに継続的に存在できる生物の最大量)が繁殖力よりも小さいため生まれた子の一部しか生存・繁殖できないことから、より環境に適応した性質をもつ個体が生き残り、次世代に子を残しやすいため、有利な個体が持つ性質が維持・拡散するというメカニズムです。

この進化論の発想をもとに、あらゆる生命の元をたどっていった結果、あらゆる生物の祖先としてLast Universal Common Ancestor(LUCA:最終普遍共通祖先)が浮かび上がってきたのです。

あらゆる生物の祖先、LUCAとは

あらゆる生物の祖先、LUCAとは

Last Universal Common Ancestor(LUCA:最終普遍共通祖先)は、あらゆる生物の祖先と考えられています。LUCAは、生命現象を持っている個体(生物)で1つの細胞からなりたっています。
1つの細胞(単細胞)からなる生命現象を持っている個体(有機体)のことを単細胞有機体といいます。

LUCAは、40億年前にはすでに存在していたとされています。LUCAは極めて頑強で、酸素がなく非常に高温で、鉱物の豊富な極限環境でも生存できるということがわかっています。

LUCAの遺伝情報を詳細に分析したのがハインリッヒ・ハイネ・デュッセルドルフ大学の生物学者チームです。LUCAのものだったであろう355の遺伝子を特定し、『Nature Microbiology』に発表しました。

すべての生物は、真核生物ドメイン、真正細菌ドメイン、古細菌ドメインの3つのドメインに分けられます(3ドメイン説)。
LUCAは、真正細菌と古細菌の起源と考えられています。ちなみに、3つのドメインの残りの1つである真核生物は結論は出ていないものの古細菌から進化したとする説が有力です。
真核生物は核が核膜に覆われている生物のことで、さらに動物界、植物界、菌界、原生生物界に分類されています。つまり、私たち人間も真核生物の中に分類されるというわけです。

真正細菌とは

真正細菌とは

真正細菌とは、sn-グリセロール3-リン酸の脂肪酸エステルより構成される細胞膜をもつ原核生物です。というと、難しく聞こえますが、いわゆる細菌・バクテリアのことです。
ちなみに、原核生物とは、明確な境界を示す細胞核を持たない細胞からなる生物です。真核生物と比較した場合、はるかに小さく、細胞核やミトコンドリアなどの細胞内小器官がほとんど見当たらないといった特徴があります。原核生物は、大きく系統の異なった2つのグループ、真正細菌と古細菌から構成されています。

大腸菌、土壌や植物に存在する枯草菌、光合成によって酸素を生み出すシアノバクテリアなどが真正細菌にあたり、地球上のあらゆる環境に存在しています。形状は球菌か細胞の形が細長いか円筒状である桿菌、らせん菌が一般的で、大きさは1~10μmほどの小さな生物です。

真正細菌の存在が確認されたのは17世紀に入ってからです。1977年までは古細菌も細菌に含まれると考えられていました。現在では、真正細菌と古細菌は別系統と考えられており、両者は35億~41億年前に分岐したとされています。

古細菌とは

古細菌とは

古細菌とは真核生物でも細菌でもない第3の生物群で、sn-グリセロール1-リン酸のイソプレイドエーテルより構成される細胞膜をもつ生物群です。一般的にはmethane菌、高度好塩菌、高度好酸菌、超好熱菌など極限環境に生息する生物として認知されています。

ちなみに、ほかの生物はsn-グリセロール3-リン酸の脂肪酸エステルで細胞膜を構成しています。
形態は細菌とほとんど同じですが、リボゾームRNA (rRNA)から考えると進化的には真正細菌と真核生物くらいの乖離はあり、真正細菌とは別のドメインと考えられています。

ちなみに、リボゾームはあらゆる生物の細胞内に存在する構造であり、メッセンジャーRNA (mRNA)の遺伝情報を読み取ってタンパク質へと変換する機構である翻訳が行われる場です。rRNAは、リボソームを構成するRNAであり、RNAとしては生体内でもっとも大量に存在します。

古細菌を最初に他の生物から区別したのが、イリノイ大学のカール・ウーズです。

真正細菌、古細菌、真核生物の関係は現在も議論されており、結論は出ていませんが、大方の見方としては、LUCAがまず古細菌と真正細菌に進化し、その後古細菌から古細菌に近縁な生物から真核生物の本体が進化したと考えられています。

真核生物とは

真核生物とは

真核生物とは、前述したように核が核膜に覆われている生物のことです。真核生物は、さらに動物界、植物界、菌界、原生生物界に分類されています。
ちなみに、原生生物とは真核生物のうち、動物界、植物界、菌界に属さないものの総称とされています。つまり、真核生物のうち、動物でも植物でも菌でもないものが原生生物という、その他もろもろ的扱いではありますが、特徴はあります。
そのほとんどが単細胞、もしくは多細胞であってもごく小さく微生物として扱われるものです。
具体的には、褐藻類、紅藻類といったすべての真核藻類や鞭毛をもつ菌類的生物、粘菌や細胞性粘菌などの変形菌門、アメーバやゾウリムシといった原生動物などが原生生物にあたります。

真核生物の細胞は一般的に原核生物の細胞よりも大きく、場合によっては1000倍以上の体積を持つこともあります。

その起源は、遺伝子が古細菌群に近いことから古細菌の姉妹群もしくは古細菌そのものという説が最も支持されており、少なくとも20億年前には存在したとされています。
最も古い真核生物の化石は、27億年前の地層から検出されたステランと呼ばれる真核生物に由来する有機物質です。
真核生物の化石そのものも21億年前の地層から発見されています。

まとめ

あらゆる生命のルーツについて、その概念のもとになる進化論とあわせてまとめてみました。もとをただせばすべての生命のルーツは同じであることに思いをはせたると、いろいろな特性を持つ生命が存在する意義や互いを尊重することの重要性がより明確になるかもしれません。

参考)
Madeline C. Weiss et. al. The physiology and habitat of the last universal common ancestor. Nature Microbiology 1, Article number: 16116 (2016), doi:10.1038/nmicrobiol.2016.116

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この記事を書いた人

研修医期間終了後、神経内科医として主に急性期病院にて13年間勤務。
3年間の回復期病棟での勤務を経て、平成24年より在宅医療に従事。2018年5月ヘテロクリニック開設。

多くの患者さんにかかわる中で、より健康であるためには、病気にだけフォーカスをあてるのでは不十分なのではないかと実感し、医療の分野以外にも学んでいる。

高齢になっても若々しく元気な方たちの特徴から、自分らしく生きることが重要性を感じ、そのためのツールとして脳と心についての情報をフェイスブックページやホームページを通じて発信している。

日本内科学会 内科認定医、日本神経学会 神経内科専門医、医学博士、認定産業医、日本臨床栄養協会 サプリメントアドバイザー、感情カウンセラー協会認定 感情カウンセラー、リズ・ブルボーのからだの声を聞きなさいスクール カウンセラーコース終了、NLPプラクティショナー、著書に『クスリに頼らない免疫力向上計画』(みらいパブリッシング)、『脳の取扱説明書』(みらいパブリッシング)

HP:https://hetero-clinic.com/
HP:https://www.harmonista.org/
HP:https://harmonista.jp/

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