2017年に政治問題から忖度(そんたく)という言葉が一躍注目されました。
この言葉を見た時、私は「えっ何て読むの?すんたく?」と、漢字が読めませんでした。
昔からあった言葉だけど、メディアで注目されるまでは日常では使わない言葉だったと思います。
言葉は使わなくても、誰かに忖度することはとてもよくある行動です。
忖度は、家族、友人、パートナー、先生、上司、同僚などあらゆる人間関係の中で日常茶飯事に行われています。
特に、幼少期の子どもにとっては生きるか死ぬかというくらいの重みがあります。
親子関係が今うまくいっていないなら、幼少期の自分が親に対してどうだったか振り返ってみると改善に向けての気づきが得られるかもしれません。
今回は、親子間での忖度とその問題について考えてみます。
忖度(そんたく)するとは?
「忖度」の意味を辞書で調べてみました。
他人の気持ちを推しはかること。推察する。
長澤規矩也編『携帯新漢和中辞典』(三省堂、昭和53年第35刷)
「忖」も「度」もおしはかるという意味。
使い方はこんな風に使います。
- 相手の心中を忖度する。
- 最愛の人を亡くした彼女(彼)の心を忖度する。
- あの人は人の気持ちを忖度するような人ではない。
忖度には良し悪しがある
忖度は、人の気持ちを推しはかることなので、それ自体は良いも悪いもありません。
誰かが悲しがっている時、その気持ちを汲み取り寄り添えるなら、相手は癒され心は平穏へと向かうでしょう。
反対に、誰かの気持ちを先回りし過ぎて必要以上のことをしてしまい、残念な結果になってしまうことがあります。
忖度した結果の行動によって良し悪しが分かれるのだと思います。
親子間でよくみられる忖度の光景
親子関係は、あらゆる人間関係の基礎となります。
子どもは生まれてから親を教科書のようにして学び育ちます。
育てたように子どもは育つのです。
。
その過程でみられる忖度の光景を見てみましょう。
信頼を生む親子関係
親が病気で寝込んでいる時、子どもがそっと枕元に食べ物や飲み物を置いてくれる光景。
このような場合、「嬉しいなぁ」「優しいなぁ」「こんな配慮ができるようになったんだ」「ありがとう」といった気持ちになるのではありませんか。
逆に、子どもが寝込んでいる時に、親が早く治るように祈り、部屋の温度を調節したり、消化の良い食事を用意したり、そっと様子を見守る光景は?
あるいは、落ち込んでいる子どもの話を親がただただ聴いてあげる光景は?
我を押し付けるのではなく、親子互いに相手の状態を推しはかり、過不足のない適度な言動を取ることは親子間の信頼を深めます。
何があっても安心、安全、大丈夫。
そう思える親子関係になります。
子どもが生きづらくなる親子関係
信頼を深めるのとは逆に、言葉を使わないコミュニケーションで相手をコントロールしようとする光景があります。
言葉を使わないコミュニケーションを非言語コミュニケーションといいます。
非言語コミュニケーションでは「言葉に乗ったエネルギー」といいますか、「醸し出す空気感」といいますか、そのような目に見えないものを介して相手に気持ちを伝えます。
①コントロールしようとする親
そんなことはしていないと思われるかもしれませんが、親は意識的にまたは無意識的に子どもに自分の言う通りに動くよう圧力をかけがちです。
例えば、食事に行ったレストランで子どもがメニューを見て食べたいものを選ぼうとする時を想像してみましょう。
親が子どもに「何でもいいよ。好きなものを言って。」と言うとしましょう。
このような経験はこのコラムをご覧になる方にもおありだと思います。
果たして、無条件で「何でもいいよ」と言えているのでしょうか。
笑顔で「何でもいいよ」と言いながら、心の中で値段が高いか安いか、予算内か、食べ切ることができるかなどいろいろ考えて、親の判断でこちらの方が良いよと子どもを暗に誘導するような言葉がけや空気感を醸し出していることはありませんか。
あるいは、迷ってなかなか決められない子どもにイライラして、早くしろという態度を見せはしませんか。
「何でもいいよ」と言いながら、親の意向を汲むように、空気を読むように非言語コミュニケーションで伝えているのです。
この醸し出された空気感を子どもは読み取り、親の気持ちを忖度した結果、自分が本当に欲しいものとは違うものを選択することがよく見られます。
②親の顔色をうかがう子ども
子どもは親の喜ぶ顔が大好きです。
親の悲しんだ顔、怒った顔、不機嫌な顔を見るのが嫌です。
どなたにも幼少期を振り返ると思い当たることがあると思います。
子どもは、どうすれば親が笑顔になるかを子どもなりに考え行動します。
親の気持ちを忖度し、親の気持ちや意見に沿うように行動しようとします。
そして、親の不機嫌を怖れ、親を喜ばせねばというループに陥ると、いつも親の顔色をうかがうことになります。
ついには自分らしさを失い、親にとっての良い子を演じ続けることになります。
うまくいかない親子関係の根底にあるもの
バーストラウマは胎児期から生後三か月までのトラウマをいい、「自分には価値がない」「自分は生まれてきていけなかったのでは?」という想いを作り上げます。
インナーチャイルドは生後三か月から大人になるまでの間のトラウマをいい、「自分は愛されない」「誰にも必要とされていない」という想いを作り上げます。
このため、自分の存在価値を自分以外のどこかに見出そうとします。
親子関係においては、子どもは親に愛してもらいたいために親の気持ちを忖度し、それに沿うように努力します。
子どもは親がほめてくれたなら自分の存在を認められるという構造ができ、自分の本当の気持ちより親の満足を追いかけてしまいます。
親にとっての良い子になろうとするのです。
一方、親は親で、子どもが自分にとって良い子であることが価値証明となります。
親もバーストラウマやインナーチャイルドを抱えて生きているのです。
幼少期に親からコントロールされる体験を多くすると、それが当たり前となり、わが子にも同じコントロールをしてしまいます。
何しろ、親は子どもにとって生きる見本、手本、教科書なのですから。
厄介なのはコントロールをしたり、されたりしているのに気づかないまま、親から子へ連鎖していくことです。
このような方は要注意
- 人に自分の意見が言えない。
- 誰かに気を遣ってばかりいる。
- 人からの評価、評判が気になる。
- 何事にも我慢することが多い。
- 自分の好きなことがわからない。
- 人といると緊張する。
- 相手に感情的になられるのが怖い、苦手。
- 感情を表に出せない。
- 自分はダメ人間だと思う
など
このような方は、忖度した後、自分よりも人を優先しがちで、人生に生きづらさが出てきやすくなります。
自分らしさを失った状態です。
まとめ
忖度は人の気持ちを推しはかることなので、それ自体は良いも悪いもありません。
忖度した後どのような言動を取るかによって良し悪しが分かれます。
言動の分かれ目は、幼少期の親子関係において、非言語コミュニケーションによって親が子どもをコントロールすることが多いこと、その背景にはバーストラウマやインナーチャイルドのトラウマがあることが考えられます。