約45億4000万年前に地球が誕生し、地質学的証拠がほとんど見つかっていない冥王代の次の時代である始生代(太古代)。
この時代は、ようやく当時の様子を垣間見ることができる地質学的証拠が見つかった最初の時代でもあります。
その始生代(太古代)の様子を知る手がかりについてまとめてみました。
始生代(太古代)
冥王代の次の時代が始生代(太古代)で、真核単細胞生物が現れる原生代まで、約40億年前から25億年前までを指します。
ちなみに、始生代というのは動物を基準とした呼び方で、国際的には太古代と呼ばれています。地質からみて,始生代(太古代)というのは,バラバラだった大陸地殻が衝突・合体し,小型の大陸を作り始めた時代といえます。
始生代はさらに、原始生代、古始生代、中始生代、新始生代の4つに分類されます。
始生代(太古代)の地球表面
イスアの地層から38億年前には海が存在していたと考えられています。つまり、水が気体ではなく、液体として存在できる程度には地球の表面は冷えていたということです。
ただ、堆積岩の分析から30億年より前の海水温度は60~120度と高温だったと推定されています。
始生代を通じて、大気には酸素はなく、窒素と二酸化炭素が主体でした。
27億年前頃から大陸周辺にシアノバクテリアが形成した大規模なストロマトライト(シアノバクテリア類の死骸と泥粒などによって作られる層状の構造をもつ岩石)から酸素が放出され始めます。
しかし、その酸素は縞状鉄鉱床の形成に消費されてしまい大気中には移行してはいなかったようです。
始生代の地球を知る手がかり―最古の岩石 アカスタ片麻岩―
始生代から地殻を構成する岩石が見つかり始めます。
発見されたまとまった岩石のうちでもっとも古いものが、カナダのスレーブクラトンのアカスタ片麻岩で約40億年前に形成されたと考えられています。
ただ、残念なことに、この最も古い岩石からは形成後の激しい変成作用のため、当時の地球表層の環境をうかがい知ることはできません。
片麻岩は変成岩の一種で、肉眼的に不連続な鉱物の集合による葉状組織(片麻状組織)をもつ岩石のことです。片麻状組織をもつ変成岩は、全体として強い葉状組織を持つ片岩と葉状構造のない粒状岩との中間にあたります。
ちなみに、変成岩とは一次的な岩石(原岩)が熱や圧力の影響や水や空気との化学反応などの作用を受けて、その岩石を形成する鉱物種の構成や岩石の外見構造が変化した岩石のことです。
始生代の地球を知る手がかり―イスア緑色岩石帯―
当時の地球表層の環境がわかる最古の地層はグリーンランド西部にあるイスア地域のイスア緑色岩石帯です。これは、1960年~1970年代にかけて行ったグリーンランドにおける鉱物資源探査の結果わかりました。
イスアには,グリーンランド語で「地が消え果てる場所」という意味があるように、そこから先は大地が大陸氷河に覆われ見えなくなります。
イスア地域の岩石は38億年前の海底に噴出した溶岩と堆積岩からなっています。ほとんどの岩石は変成してしまっていますが、中には変成を免れ当時の状態を残しているものもあります。
38億年前のイスア地域の地層から見られているものに、枕状溶岩・縞状鉄鉱床・炭酸塩岩・礫岩層があります。
ちなみに、38億年より前の地層が残っていないのは、現在よりも高温のマントル対流のため、当時形成された地殻がすべてマントル内部へとリサイクルされてしまったためとも、地球と月が同時に大規模な隕石衝突を受けて当時の地殻が破壊されてしまったためともいわれています。
枕状溶岩
これは名前の通り、枕か俵を束ねたような形をしています。
枕状溶岩があるということは、その形成過程を考えると、溶岩形成当時、そこが水底であったということです。
枕状溶岩は次のような過程を経て形成されます。
まず、海底で高温の溶岩が海水に触れて急冷され、急冷された部分には筒状の薄い殻ができます。しかし、内部はまだ溶けたままの状態です。そのため、次々と溶岩が流れ出ると、押されて殻が破れ、再び海水と触れて殻ができるということを繰り返して作られたのです。
縞状鉄鉱床(しまじょうてっこうしょう)
現在の鉄鉱石の90パーセント以上が先カンブリア時代に形成された縞状鉄鉱床から供給されていますが、この鉄鉱層の成因は謎に包まれています。
以前は先カンブリア時代の無酸素状態であった海水中に溶けていた大量の鉄が生命現象の発展に伴って光合成で発生するようになった酸素によって酸化され、沈殿したという点で意見が一致していましたが、最近ではそれも怪しくなってきたようです。
とはいえ、縞状鉄鉱層が海水からの化学的沈殿物であろうということ、いずれも38億年前〜18億年前に作られたものという点では意見は一致しています。
前述したように当時シアノバクテリア(真正細菌)の光合成によってつくられた酸素は、ほとんどがこの縞状鉄鉱をつくることに使われ、大気中の酸素は増えず、20億年前になって急に大気中の酸素が増え始めたと考えられています。
炭酸塩岩
炭酸塩岩は炭酸カルシウムを主体とする堆積物の総称です。炭酸塩鉱物には主として calcite(方解石)・aragonite(アラレ石)・dolomite(ドロマイト)があります。
炭酸塩岩には他の堆積岩には見られない重要な地球科学的情報が記録されています。
というのも、炭酸塩岩は基本的に生物起源の粒子で構成された優れた示相岩(地層の堆積した当時の環境を知る手がかりとなる岩)であり,化石の保存が良く古生物学や化石層序学的研究の主材であるという特長をもっています。
また,炭酸塩岩の安定同位体比や微量元素成分には堆積時の環境情報が記録されているため、炭酸塩岩は古環境研究において最良の題材なのです。
ちなみに、同位体とは元素の性質を示す「陽子」の数は同じなのに「中性子」の数が異なるため、全体の重さ(=質量数)が異なる原子のことです。
地球上には100を越える元素が存在しますが、それぞれの元素に「同位体」が存在します。
多くのものは不安定であり時間が経つと崩壊するので、放射性同位体と呼ばれます。しかし、この同位体の一部には安定に存在するものがあります。それを安定同位体と呼びます。水素(H)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、イオウ(S) といった安定同位体が生態学の研究でよく用いられ、これらの安定同位体の存在量を測定することで、物質の起源・生成機構や食物網内での各種動物の位置付けなどに関する情報を知ることができるのです。
それによるとこの時代は、現在とは異なった炭素循環様式が存在していたようです。
その要因として、22億年前以前の高二酸化炭素分圧と22億年前以前に周期的に現れる高メタン濃度海洋の存在が考えられています。
礫岩層(れきがんそう)
礫とは直径2mm以上の石ころで,地表に露出した岩石が河川や土石流によって運ばれて堆積したものです。
この時代の礫は、引き延ばされた白い石英砂岩(せきえいさがん)を多く含み、変成作用を受けています。
大陸地殻の主に主に花崗岩(かこうがん)類からなり、花崗岩類を構成する主要鉱物である石英と長石であることから,当時すでに,大陸地殻ができていたことがわかります。
イスア地域の地質構造―付加体(ふかたい)―
イスア地域の地質構造は付加体の特徴を示しています。
付加体というのは、海洋プレートが海溝で大陸プレートの下に沈み込むときに、海洋プレートの上の堆積物がはぎとられ陸側に付加されたものです。
つまり、当時の地球ではすでに「地球の表面がプレートと呼ばれる何枚かの固い岩板で構成され、このプレートが対流するマントルに乗って互いに動いている」とするプレートテクトニクスが機能していたと推定されるのです。
ちなみに、私たちの住む日本列島も多くの部分はこの付加体からなると考えられています。
まとめ
地球の手がかりが見え始めた始生代(太古代)を知る手がかりについてまとめてみました。
しかし、地球創生に関わるこの時代の地球についての多くは未だ謎に包まれています。
地球の海洋の水はいつ,どのようにしてもたらされたのかといった水の起源についても未だ結論が出ていません。
こういった手がかりの積み重ねによって少しずつその謎が戸騎亜がされていくのかもしれません。