始生代(太古代)は、地球の歴史を考えるうえで重要な2つの変化が起こった時代といわれています。
1つが大陸の生成。
そして、もう1つが表層環境の酸性化に伴う生命の発生と進化です。
つまり、この時期は他の太陽系の惑星とは違った星、私たち生物が住める惑星になるための土台を作っていた時代ともいえます。
その一番の決め手になるのが、『太陽との距離』です。
H2Oが液体として存在できる環境が大陸地殻をつくり、生命の住める星へと地球を変えていったのです。
生物の生きていた年代を知る手がかり
初めて地球上に生命が誕生したのは、約40億年前とはるかかなた昔。
冥王代もしくは始生代初期には全生物共通祖先(LUCA)が現れ、始生代には多様化が進んだといわれています。
最初の生物の証拠は一切残っていない状況で、どのようにしてその生物の性質や年代を知ることができたのでしょうか。
これは、化石記録と分子系統解析とを比べることで可能になったとされています。
化石
まずLUCAが地球上に誕生し、その後まず古細菌と真正細菌に進化し、古細菌もしくは古細菌に近縁な生物から真核生物の本体が進化したと考えられています。
つまり、冥王代~始生代の生物はせいぜい細菌レベル。肉眼では見ることができません。なのに、どうして当時の化石から生物がいたことが分かるのでしょうか。
化石というとある程度の大きなものを想像されるかもしれませんが、始生代(太古代)の化石となると通常発掘されてくるのは、わずか数 µm (1 µm = 1/1000 mm)ほど、とかなり小さい「微化石」です。
このごく小さな化石の分析の一役を担っているのが放射性同位元素です。
生物が無機炭素を固定して有機物を合成する際には,軽い同位体(12C) を選択的に取り込むことが知られています。
この現象は、同位体では、電子軌道上にある電子の数が同じなので化学反応性には差がないけれど、質量数には差異があるので、拡散などが含まれるような過程や化学反応の速度において同位体の違いによる差異が生じることで起こってきます。
具体的には、12Cと13Cの間での質量差は8%程度で、二酸化炭素(CO2)で計算すると2%程度になります。そのため、気孔から葉緑体への拡散のような動的なプロセスでは質量数の大きい13Cの割合が低下しやすいのです。
このような現象が当時の生物でもおこっているため、始生代(太古代)の堆積岩の中の 12C と,より重い 13C の存在比を調べることで、生物がいたかどうかが分かるのです。 12C が濃縮されていることが示せれば,その時代に生物がいて炭素を固定していたことが分かります。
38 億年前の岩石中の炭素の同位体組成を分析すると、近くで見つかった無機炭素(炭酸カルシウム)に比べて炭素が軽いことが分かりました。つまり、その岩石中の炭素の粒は生物の痕跡ということになります。
地球温暖化がもたらした新たな発見―世界最古の化石―
2016年と最近になって、世界最古の生物化石がグリーンランド南東部、万年雪の縁沿いにあるイスア・グリーンストーン帯という37億年前と推定される地層からみつかりました。万年雪が解けたことにより露出してきたのです。
見つかった化石は細菌のコロニーが堆積物や炭酸塩を固めて作った層状構造をもつ岩石で、ストロマトライトと呼ばれるものです。つまりは、古代の水中に細菌がいた証拠です。
さらには、2017年になってカナダのケベック州北部で採集された結晶の中から見つかった管状の微小な構造物が、37億7000万~42億8000万年前の生物由来の化石ではないかという報告がなされました。
というのもカナダの微化石は鉄を豊富に含む鉱物からなり、大きさはまつ毛の数分の1ほどで、海底の熱水噴出孔のまわりにいる今の微生物が作る構造物とそっくりなのだそうです。
この発見は、生命誕生の主要な舞台は熱水噴出孔のまわりの温水とする説を裏付けるものではあり、これが真実だとすれば地球が安定し始めてすぐ生命が誕生した、つまり、地質活動が落ち着いてきた途端に生命活動が始まったということになります。
ところが、この構造物は、それほど確かな証拠ではないようです。
科学者の中には、これらが微生物の痕跡であること自体を疑っている人もいれば、微化石を包み込んでいる結晶の推定年代が10億年以上新しい可能性を指摘する人もいます。
分子系統解析―系統樹―
分子系統解析とは、生物の持つたんぱく質のアミノ酸配列やDNAの塩基配列を使って、生物間または遺伝子の進化的道筋(系統)を解明する解析のことです。
これは、地球上には細菌から真菌類、動植物にいたるまで数千万種の生き物が生息していますが、それらは全て共通祖先から進化したという仮説に基づいています。
共通祖先から進化したということは、全生物には関連(系統)があるということです。
この関連(系統)を形態の差異、遺伝子の違いなどをもとに作成したのが、系統樹になります。地球上のあらゆる生き物は、ただ1本の巨大な系統樹のどこかに位置づけられることになります。
始生代(太古代)の生き物―古細菌と真正細菌―
全生物共通祖先(LUCA)から古細菌と真正細菌が生まれました。これらはいずれも、はっきりとした核を持たない原核生物です。
35億年前のノースポール地層からはすでに古細菌と真正細菌の活動の痕跡がみつかっています。当時そこは、マグマ近くの地熱で300度近くなった熱水が深海の底の割れ目から噴出する熱水活動が活発な温度の高い中央海嶺であったと考えられています。
現在生きている生物の遺伝子配列の分析から「地球生命の祖先は古細菌または真正細菌のなかで高温適性を有したもの」と考えられていることとも矛盾しません。さらに、熱水は地価の割れ目を通っている間に様々な物質を溶かし込んでいるため、その近くは生命活動に適した環境となっていたと思われます。
その後、27億年前ごろからシアノバクテリアが出現し広範囲に生息し、始生代の後期には真核生物の祖先も現れたとされています。
大気の変化をもたらす生物の証拠―ストロマトライト―
30億年前ころの地層からストロマトライトという岩石が見つかり始めます。特に25億年前~6億年ほど前の地層からたくさん見つかっているそうです。
ストロマトライトという岩石は、繰り返し丸い模様(同心円状の構造)があるのですが、最近までそれができる理由は分かってはいませんでした。ところが最近になって、現在もいる生物の中に同じようなものを作るものがいるということが分かりました。
それがシアノバクテリアです。
シアノバクテリアは光合成をする生物です。つまり、太陽の光を浴びて水と二酸化炭素から有機物を合成します。そして、そのときに酸素を作り出すわけです。
そして、シアノバクテリアがたくさん生息していたと思われる25億年前から地球の表面にも酸素が現れ始めます。
これは、生物の進化にとっては大事件です。
私たちにとっては、酸素は生きていく上で欠かせないものですが、酸化する作用を持つ酸素のない環境で生きてきたものにとっては、酸素は猛毒にもなる可能性があります。
酸素を細胞の中にとりこむということは、酸素がない環境で働いていたものが酸化され、別の成分に変わってしまう、つまり機能しなくなってしまうという可能性を含んでいます。
そのため、新しい酸素のある環境で生き延びるためには、酸素のない環境を見つけて移動するか、もしくは酸素があっても生き延びることができるように酸素への対処能力を身につけるしかありません。
生物にとっては、地球上で起きた最大の変化ということになります。
この時代に酸素が増えたストロマトライト以外証拠として、縞状鉄鉱層と赤色砂岩があります。
まとめ
現在の地球環境をつくる土台となった冥王代~始生代の生物についてまとめてみました。
太陽からの適切な距離によって水が存在しえたこと、シアノバクテリアによって酸素が作られるようになったなどを考えると、生物が進化してこれたのは奇跡のようにも感じます。
技術の進歩や地球温暖化による新たな地層の発見によって、ごく最近になって分かってきたことも多く、今後もまた新たな発見がみられるかもしれません。