生きづらさを抱えるアダルトチルドレンとは

「自分のことがなかなか好きになれない」
「何のキッカケで、すぐに落ち込みやすい」
「精神的に苦しくて、毎日生きることが自体が大変」・・

など、現代社会の中で生きづらさを感じる人は少なくありません。

その要因は自分が生まれ育った過去の家族関係の中にあるかもしれません。

「ありのままの自分を肯定的にみるのか、否定的に見るのか」
「他人とどう付き合っていくのが良いのか」など。

人間の思考・感情に大きな影響を及ぼす考え方・感じ方の原型は幼少期に形成されていることが多いのです。

生まれ育った家族関係から負の影響を受け続けている。
そんな「アダルトチルドレン」とはどんなものなのか見ていきましょう。

この記事の目次

1.アダルトチルドレン(AC)とは

アダルトチルドレン(AC)とは

アダルトチルドレンとは「機能不全家族で育ち成人した人々」のことです。
英語名(adult children)を略して単にACとも言われます。

元々はアルコール依存症の親に育てられて大人になった人(Adult Children of Alcoholics)のことを指しました。

その後、子供に対する過干渉、ネグレクト(育児放棄)、虐待など本来の家族機能が働いていない家族で育った人達にも同様の傾向が見られることが分かってきました。

そのため現在では広く「機能不全家族で育ち成人した人々」(Adult Children of Dysfunctional Family)のことを指すようになりました。

アダルトチルドレンは誤解されることも多い言葉です。

「子供」「大人」という逆の意味で捉えられる言葉がつながっているために分かりにくい。
「子供じみた大人」「大人になり切れない人」「未熟な成人」などと思われることもあります。

一見分かりにくいこの言葉は、実は子供向けの改善プログラムの開発から生まれていたのです。

2.「アダルトチルドレン」という言葉が生まれた経緯

「アダルトチルドレン」という言葉が生まれた経緯

アメリカのソーシャルワーカーであるクラウディア・ブラック。
1970年代後半に新たな仕事を得て、アルコール依存症の親元にいる子供向け「心理・感情の改善プログラム」の開発に取り組もうとしていました。

そのため対象となる子供達を集めようとしました。
しかし当時、彼女のクライアントは既に子育てを終えた世代の大人が多かったのです。

そこでクラウディアは考えました。
「現在子供ではないが、既に大人になった彼らにも子供時代がある。」
「彼らを”成人した子供”として対象に加えてみてはどうだろうか?」

そして年代ごとに対象を分けることにして、それぞれのグループに名前を付けたのです。

それは
・ヤングチルドレン(young children)
・ティーンエイジチルドレン(teen-aged children)

そして成人した子供を表す
・アダルト・エイジド チルドレン(adult-aged children)でした。

そこからアダルトチルドレン(Adult Children)の言葉が出来たのです。

言葉が生まれたキッカケは小さな思い付きでした。
しかしその後、この言葉はクラウディアが出版した本に記載したことから一躍注目を浴びるようになりました。

当時アルコール依存症は家族の恥として他人に話すことをタブー視されていました。
また依存症家庭で育った子供への影響が大人になっても残り続けることは知られていなかったのです。

一見分かりにくいがインパクトのある「アダルトチルドレン」という言葉。
米国でアルコール依存症や機能不全家族で育った人達のケアに注目が集まる、大きな流れを生み出していったのです。

3.機能不全家族とは

機能不全家族とは

機能不全家族(dysfunctional family)とはどんな家族を指すのでしょうか?

家族が持つべき機能として様々なものが考えられますが、分かりやすいのは下記の五つではないでしょうか。

(1)生存

人間として生存するために必要なものがあります。

衣食住と言われるように日々の食べ物、住まい、衣服がなければ人は生きていくことはできません。

しかし親の育児放棄や精神的な疾患などによって生存に必要なものが子供に提供されていないケースもあります。

(2)安全と安心

家族はそこにいる人にとって安全で、安心感のある場所あるべきです。

しかしケンカやいがみ合い、暴力ざたの多い家庭もあります。

たとえ身体的な暴力がなかったとしても、争いごとの多い家庭は子供を不安にさせてしまいます。

(3)愛情と帰属感

人間は家族から愛情や帰属感を学びます。

自分が無条件に受け入れられていること、家族の一員であることは、子供にとって大きな心のよりどころとなります。

もし充分な愛情や帰属感を得ていなければ、子どもは欠乏感を感じてしまい、心の中に不安定な部分を抱えてしまいます。

(4)自尊心

自尊心とは自分は何かができると思えること、自分には価値があると思えることです。

自尊心が高ければ精神的、感情的にも安定しやすく、人生で出会う困難も乗り越えやすくなるでしょう。

子どもの自尊心が育てられるかどうかは家庭にかかっています。

(5)自立した生活をするためのスキル(技術)

親の大きな責任の一つは子どもたちに自立できる技術を与えることです。

生まれたばかりの赤ちゃんは何も出来ません。

生育過程の中で身だしなみなど身の回りのことを整えたり、挨拶など人との付き合い方を学んだりすることなど、自立に向けて様々なスキルが必要です。

また完璧主義や過保護な親の存在が、自立できるスキルを子どもが学ぶ障害になることもあります。

子どもに対する過干渉の姿勢が子どもの学ぶ力、ひいては生き抜いていく力を奪ってしうまうのです。

家族が持つべき機能を挙げましたが、全てが完璧な家族はほぼ無い。
一人一人の人間が完璧でないのと同様に、完璧な家族もまた無いと言っていいでしょう。

日常的に親が子どもに暴力を振るうなど明らかな機能不全を除くと、「家族機能が充分働いている家族」と「機能不全家族」の間はハッキリした境界線があるわけではありません。

どの家庭でも程度の差はあれ、家族間のコミュニケーション、過干渉、放置・放棄の課題があります。
であれば、現代のほとんどの家庭が機能不全家族であり、その度合いが強いのか弱いのかの違いと考えると良いでしょう。

4.アダルトチルドレンの傾向

アダルトチルドレンの傾向

機能不全家族で育って大人になったアダルトチルドレンにはどんな傾向があるのでしょうか。

(1)自分に自信が無い。自分自身に対して批判的

家族の中で多くの批判にされされてきた子ども。

ありのままの自分を受け入れられることがなく、親が求める完璧や理不尽な批判を繰り返し聞かされると、誰でも自分はその通りなのだと信じるようになってしまいます。

(2)何か問題が起こると過度に自分のせいだと考えてしまう

大人の力を借りないと生きていけない小さな子どもにとって、両親は自分の生存のカギを握り、力では超えることの出来ない存在。

何か親から理不尽なことをされたとしても、圧倒的な存在の前では子どもは無力感を感じ、原因は自分の方にあると考えてしまいます。

これが繰り返されることで、思考のパターンができあがり、目の前で何か問題が起きると過度に自分のせいだと考えるようになってしまうのです。

(3)楽しむことが苦手

子供時代が楽しいものであればあるほど、大人になっても楽しむことはごく自然なことになります。

しかし子供の心を傷つけることがたくさんあって、楽しませることが少なかった家族の中で育つと、楽しむことに慣れなくなってしまいます。
時には楽しむことに罪悪感さえ抱くこともあります。

(4)親密な人間関係を築きにくい

「優しくて暖かい人間関係」を求めていたとしても、なかなか実現できない。

なぜならば人間関係のモデルである両親の関係があまり健全ではなかったため、「優しくて暖かい人間関係」とはどういうものか、実感としては分かっていない。
むしろ無意識のうちに「健全な関係」を慣れていない居心地の悪いものだと感じてしまいがち。

そのため時には自ら「健全な関係」を破壊し、人間関係に苦労してしまうことも多い。

(5)状況の変化についていくのが苦手(慌ててやすい)

家族の中がギクシャクしていて、両親がイライラ・怒りなどの感情をいつ向けてくるか分からない状況で育った場合、。
子供はいつも両親の機嫌などの変化を気にとめるようになってしまいます。

常に緊張状態が続いており、潜在的な不安も大きいため、大人になって両親のもとを離れたとしても、状況の変化に対応しにくく、慌てやすくなってしまいます。

(6)自分は他人と違っていると感じる(疎外感)

どのような集団の中にいても、自分以外の人たちは皆ゆったりしているのに自分だけが緊張していると考える。

しかし誰も他人の心の中をのぞいて見ることはできない。
各人がそれぞれのやり方で人に緊張を見せないようにしているのかもしれないが、結局は誰にも分からない。

家族の中で孤立しがちだったため、「自分だけ違う」という感覚を子供時代からずっと持ってしまっているのです。

(7)対人関係で依存しがち

友達を作ったり人間関係を発展させるのがひどく困難でやっかいなため、誰かが一旦友人や恋人、配偶者なってくれたらその相手にしがみつく。

たとえ解消した方がよい無価値な人間関係であったとしても、人間関係が成立しているだけでも安心してしまいます。

そしてどんなにひどい目にあっても変化を嫌って現状を維持してしまう。

(8)何が正常なのか(正しいのか)自信がない

小さい子どもにとって家庭や両親は人間関係や社会を学ぶ最初の縮図です。

安心できる家庭で育った子どもは、生き方、人との接し方など在るべきモデルをそこで学びます。
しかし機能不全家族で育った子どもは規範となるモデルがない。

そのため、何が正常なのか(正しいのか)自信がない状態になってしまいがちです。

(9)融通の利かない行動(衝動性・脅迫的な行為)

他の選択肢があるのにあまり考えずに、思いついた一つの行動をそのまま実行してしまう。

自分に自信が無く、潜在的な不安も強いため、落ち着いて思考することが苦手。
そのため衝動的な行動も多く、融通が効きにくい。

買物依存やアルコール依存なども誘発しやすい。

(10)物事を最初から最後までやり遂げることが苦手

毎日生活の中で家族の中にはちょっとした問題も起こります。

例えば家族で出かけた時に交通機関のトラブルが起こり、予定通りに目的地に着かなかったり。
家庭で使用している電化製品が壊れてしまったり。

しっかりした家庭であれば、親が健全な態度や行動によって問題の解決に向かおうとするでしょう。
(状況を冷静に見る。原因や対処策を考える。自分で解決する・人に解決をお願いする。など)

そして子どもは親が問題解決を成し遂げる過程を観察することによって、知らず知らずのうちに「問題が起こった時にどうすれば良いか」学習をしていきます。

しかし機能不全家族であればあるほど、こういった学びの機会が無く、問題が起こった時にうろたえてしまうのです。

そのため結果的に、物事を最後までやり遂げるのが難しくなってしまうのです。

(11)本当のことを言った方が楽なときでも、つい嘘をついてしまう

信頼感が無い家族の間では嘘が多くなります。
嘘をつくことが普通になってしまった家族では、子供もそれを当然のことと受けとめてしまいます。

また、ありのままを自分を否定される家族であれば、本心が言えなくなります。
たとえ自分が何か問題を起こしてしまったとても、自分の非を正直に認めることが出来なくなってしまうのです。

5.アダルトチルドレンからの回復

アダルトチルドレンからの回復

アダルトチルドレンの状態が強ければ強いほど、うつ病などの精神疾患になりやすくなります。

しかしACそのものはうつ病や統合失調症のような病名ではありません。

そのためアダルトチルドレンの改善には医師などによる医療行為をさす「治療」ではなく、「回復」という言葉が使われることが多いのです。

アダルトチルドレンの回復方法にはどんなものがあるのでしょうか。

(1)自助グループへの参加

自助グループとは、 生きていく上でのなんらかの困難や問題、悩みを抱えた人が、 同じような問題を抱えた人と自発的なつながりで結びついた集まりのことです。

それぞれの自助グループが扱っている問題は、心身疾患、アルコール等の依存症、ひきこもりなど多岐にわたります。
このような問題は口外することをはばかられる問題であることが多いため、一般的には人前で話しにくかったり、話しても理解や共感を得られにくかったりします。

しかし、似たような問題を抱えた当事者同士ならば、互いの体験や考えに一定の理解や共感を示し、得ることができます。
自助グループで自分を受け入れてもらえて居場所を得ることが、やがて自分で自分を受け入れることにつながります。

大半の自助グループはボランティアで運営されており、参加費用が安いのも特徴です。

(2)カウンセリング

幼少期の傷ついたり、満たされなかった体験。
その体験は当時の視覚や聴覚などの五感、悲しみなどの感情など、言葉にならない感覚的なものとして存在します。

心に傷を受けた際の出来事や想い・感覚を言葉にして誰かに伝え、受け止められること。
そうすることで心理的にスッキリするだけでなく、囚われていた過去の事象から一歩引いて客観的に見ることにもつながります。

(3)認知の歪みをただす(認知行動療法)

認知のあり方(ものの考え方や受け取り方)が人間の気分や行動に大きな影響を与えます。

認知行動療法はこの認知の偏りを修正し、問題解決を手助けすることによって精神疾患を治療することを目的とした精神療法です。

アダルトチルドレンは
「自分は価値の無い人間だ」
「他人は怖い」
「自分の人生が上手くいくはずがない」
などの認知を知らずうちに身に着けていることが多い。

この思い込みを変えることによって、思考や感情、行動に望ましい変化を起こします。

一方で認知のあり方のキッカケとなった体験・トラウマが比較的軽い場合は有効ですが、重い場合はなかなか効果をあげにくいこともあります。

(4)医師の診断による薬物療法

アダルトチルドレンは病名ではないため精神科・心療内科など病院では直接扱うことはあまりありません。

しかしアダルトチルドレンの状態が下地となってうつ病や統合失調症を発症し、疾患症状が大変重く辛くてたまらない。
また自殺衝動が強い場合は、薬物によってまずは精神状態を安定させることも有効です。

(5)トラウマ解消のエネルギーワーク

アダルトチルドレンは幼少期のトラウマが強い人とも言えます。

強いトラウマの存在がネガティブな感情を呼び起こしたり、物事を悪い方にとらえてしまうクセを保持させ続けているのです。

トラウマ解消のエネルギーワークとはトラウマを一種のエネルギー体と捉え、トラウマエネルギーを直接軽減させる方法です。

目に見える物体・肉体を全てとする西洋医学の唯物論ではなく、気などの見えないものも含めた東洋医学的な身体構造論に基づくものです。

つらい記憶を思い起こさせずトラウマを軽減させることができるため、本人の心理的負担が少ないのも特徴です。

まとめ

まとめ

アダルトチルドレンは機能不全家族で育った人達の事を指します。
しかし親も完璧でないため、過度な干渉、無関心、感情的な攻撃など、子供に対する愛情、接し方に全く問題がない家庭はまれでしょう。

そのため程度の差があるだけで、実際は現代を生きる多くの人々がアダルトチルドレンの性質を持っていると思います。

生きづらさを感じた時、自分が生まれ育った過去の家族関係の中にその要因を探ることで道が開ける場合も多い。

アダルトチルドレン(AC)は幼少期の痛みが現在の大人の自分へ与える影響やメカニズムを解き明かす、大きなキッカケになるのです。

参考文献
It Will Never Happen to Me: Growing Up with Addiction As Youngsters, Adolescents, Adultsm, Claudia Black,Ballantine Books; 1987.
Coping in a dysfunctional familyby,Raymond M. Jamiolkowski,Library Binding;1998
Adult Children of Alcoholics: Expanded Edition,Janet G. Woititz,Health Communication;1990

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この記事を書いた人

アダルトチルドレン回復研究所 代表

高校1年の時、親子関係に悩みすぎて病気になり、胃の3分の2を摘出。その後小さな胃で生きる。
会社勤め(通信会社の営業、CSRコンサル)、病院勤務(心療内科の心理カウンセラー)を経て研究所を設立。
アダルトチルドレンからの回復に関する研究・啓発。カウンセリング、トラウマ解消ヒーリングの提供などを行なう。


HP:https://ac-recovery-lab.com

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