生きづらさを抱えるアダルトチルドレンは「機能不全家族」の中で生まれ育ち、成人した人々です。
しかし自分が育った家族が本来持つべき機能を果たしていなかったのかどうか、振り返ってすぐに分かる人もいれば、なかなか気づかない人もいます。
幼い子供は生活の術(すべ)や社会そのものを両親を通じで学びます。
そのため自分が育った環境の不健全さに気づきにくい。
また「親はいつも正しく、問題があれば全ては子供が悪い」と繰り返し親から決め付けられていると、問題を目の前にした時に反応的に自分を責めてしまうクセが出来てしまい、原因は両親にあるという事実を受け入れにくくなるからです。
そのため自分が機能不全家族で育ったのかどうか知ること、認識することが生きづらさを解消する大きなステップとなることが多いのです。
機能不全家族とは
機能不全家族とは家族が持つべき機能が十分に働いていなかった家族のことを指します。
子供に対する家族の機能について様々な解釈がありますが、下記のようにまとめることができます。
子供に対して
・生存を守る
・安全と安心を与える
・愛情と帰属感を与える
・自尊心を育てる
・自立した生活をするためのスキル(技術)を身に着けさせる
こういった機能が十分に働いていなかった家族とはどんなものなのか、具体的にみていきましょう。
機能不全家族の例
機能不全家族には成人した当事者が気付きやすいものと、ネガティブな感情の抑圧や親に対する潜在的な罪悪感などによって当事者が直ぐには気付きにくいものがあります。
【A】気付きやすいもの
(1)子供に対する過保護・過干渉
子供の安全を確保したり、欲求を満たすために世話をしすぎることを過保護。子供の意思や自主性などを認めず、コントロールしすぎることが過干渉であると言えます。
■過保護の具体的な例
「子供が望んでいることを、やってあげ過ぎること」
・子供がお菓子やおもちゃを欲しがると、必要以上に買い与え過ぎてしまう。
「子供が自分でできることでも、親が手を出してやってあげ過ぎること」
・自分で着替えるをできる子供なのに、親が、着替えを手伝ってしまう。
■過干渉の具体的な例
「子供が望んでいないこと、嫌がっていることをやり過ぎること」
・子供が嫌がる塾や習い事を、無理やり長くいつまでも続けさせることなど。
「子供の行動のほぼ全てを親が管理すること」
・宿題が終わったら、ピアノの練習、その後は塾…などと子供が息つく暇を与えず、寝るまで指示を出すなど。
こういった状態が続くと子どもが自立するためのスキル(技術)を身に着けたり、自主性・自発性を育むことが難しくなってしまいます。
(2)ネグレクト(育児・養育の放棄)
親が子供の生存・成長のために必要なものを与えず放っておくことをネグレクトと言います。
具体的な例
■基本的な生存・生活に関わるネグレクト
日々の食べ物、住まい、衣服などの提供を怠ること
・十分な食事や栄養をあたえない
・風呂に入れたり歯みがきをしない
・毎日おなじ服を着させたままにする
■情緒的ネグレクト
子どもの要求や言動を放置すること
・泣いていても無視して放置する
・子供の感情や要求に無関心
・遊びやゲーム、ネットなどに熱中し、子供を無視する
■教育的ネグレクト
子どもを小学校に行かせないなど最低限必要な教育を受けさせないこと
・行政などへの必要な届出や事務手続きをしない
・学校や幼稚園に行かせない
■医療的ネグレクト
必要な医療を受けさせずそのまま放置してしまうこと
・病気になっても適切な治療を受けさせない
(3)情緒的な虐待(自尊心・自己肯定感の破壊)
自尊心とは自分は何かが出来ると思えること、自分には価値があると思えることです。
あるがままの自分を受け入れ認める「自己肯定感」と言い換えてもいいでしょう。
自尊心が健全に育ち、自己肯定感が高い状態は自己中心的であったりうぬぼれることではありません。
自分に価値があると分かっている人は、他人にも同じように価値があると捉えているからです。
自尊心・自己肯定感が高い人は自信があって決意・決断がしやすいため対人関係が良好になりやすく、様々な事柄を達成しやすくなります。
逆に自尊心・自己肯定感が低い人は自信がなく、なかなか決意・決断ができず、対人関係においても流されやすく、目標を達成することが難しくなってしまいます。
親から繰り返し「お前はダメだ」といった否定的な言葉や態度を取られ続けると、子供は自分自身に価値を見出せず、希望も持てず、自尊心・自己肯定感が育たなくなってしまいます。
(4)親がなんらかの依存症にかかっている
アルコール依存症、ギャンブル依存症、買い物依存症など親がなんらかの依存症であると、子どもの生育にしっかり関わることが出来ません。
(5)親が精神的疾患の状態にある
精神疾患は心の病気で思考や感情に大きな影響をおよぼします。
親がうつや双極性障害(躁鬱病)、不安障害、統合失調症などの疾患を持っている場合、子供の成長にキチンと向き合うことは難しいでしょう。
(6)身体的な虐待
身体的虐待は、親が子どもに、殴る、蹴る、水風呂や熱湯の風呂に沈める、カッターなどで切る、アイロンを押しつける、首を絞める、やけどをさせる、異物を飲み込ませる、厳冬期などに戸外に閉め出す、などの暴行をすることを指します。
子どもは、打撲や骨折、頭部の外傷、火傷、切り傷などを負い、死に至ることもあります。
身体的虐待は、周囲から分かりやすく、顕在化しやすいが、洋服の下の見えない部分にだけ暴行を加えるタイプもあります。
虐待は両親からだけでなく、祖父祖母・兄弟から受けることもありますが、これを防げない両親に課題があると言えるでしょう。
(7)性的な虐待
性的虐待には、子どもへの性交や、性的な行為の強要・教唆、子どもに性器や性交を見せる、などがあります。
性的虐待は、本人が告白するか、家族が気づかないとなかなか顕在化しません。
実父や義父などから暴力や脅しで口止めをされているケースも多く、また年齢が低いほど子どもは性的虐待を受けていることを理解できないこともあります。
性的虐待は、実母や義母などの女性から男の子どもに対しても起こります。
(8)宗教にのめり込む親
宗教にのめりこむ親は価値観の全てを宗教の教義に合わせます。
また信者に布教(教えを広げ信者を獲得すること)を勧めるため、他人にも同じ価値観を求めることがあります。
そのため生育途上の自分の子どもに対しては半ば強制的に同じ価値観を求めることが起こりやすくなります。
子どもの意に合わない場合は親との断絶やトラウマを生じさせやすくなってしまいます。
【B】気付きにくいもの
(1)ワーカーホリック(仕事にのめり込む親)
親が仕事に集中するあまり家庭や子供のことが疎かになるのはありがちです。
両親とも働くことが多い昨今では、父親・母親とも仕事にのめり込み、子供がおいてけぼりになってしまうケースがかなりあります。
仕事によって得られた収入があれば子供の生存に必要なもの揃えることが出来ます。
しかし両親との情緒的なつながりを持てなければ持てないほど、子供には孤独感が生まれやすく、家族への帰属感が少ないため、精神・感情的にも不安定になりがちです。
親が自分のために働いていることを聞かされていると、親に対する寂しさや不満を抑えやすく、大人になっても当時の感情を想いだすことに困難や罪悪感を感じる場合があります。
(2)親の社会的立場・職業への固執
教師、政治家、医師、土地の有力者などの子ども達の中には、親の職業や立場に相応しい振る舞いや考え方を幼い頃から強制されていることがあります。
親は自分の仕事・立場が子どもの行動によっても評価されていると強く考えているため、子どもはいつも周りから見られていると感じ、相応しい振る舞いをしてなければと大変なプレッシャーがかかってしまうのです。
親の評判を満たすために、子どもがある特定のやり方に従うよう強要されたら、自主性や自発性は育ちにくいでしょう。
過干渉の一種ですが、親の社会的な成功と結びついているため、子どもの生育に対する悪影響は見過ごされがちです。
(3)きょうだいに重い病気・障害などを持った子供がいる
きょうだいに重い病気・障害などを持った子供がいると、両親はその子どもに多くの時間やエネルギーを注ぐ必要があります。
しかし家族の関心やエネルギーが誰かに集中し、誰かがなおざりにされると家族が機能不全になりがちです。
こういった環境で育った子どもは自分の欲求や感情を抑え込みんでしまい、自分自身の願いや怒り・不満が分からなくなってしまうのです。
機能不全家族で育った影響を減らすためには
では機能不全家族で育った影響を減らすためにはどうすれば良いのでしょうか。
「アダルトチルドレン」概念の生みの親、クラウディア・ブラックが提唱する「自由への四つのステップ」を見てみましょう。
ステップ1 過去の喪失を探る
過去の体験を繰り返し語ることで、子ども時代の家族の中にあった問題や、自分の中での喪失に気づき、かかえていた感情を解放します。
親を責めることとは違い、あくまで自分自身を見つめ、囚われから解放するための作業です。
自助グループやカウンセリングの活用や信頼できる相手に話を聞いてもらうなど、安全で自分を受け入れてもらえる場で行なうことが必要です。
ステップ2 過去と現在をつなげる
過去の痛みが、現在の自分にどう影響しているかを明らかにしていきます。
感情レベルではなく冷静に自分を振り返る作業です。
自分の過去は、現在の自己イメージにどう影響している?
人間関係にどう影響している?
職場での私・親としての私にどう影響している?・・・など。
こうすることによって自分の中にある課題が明確になります。
ステップ3 自分を苦しめている観念を手放す
機能不全家族で生まれ育ち、いつの間にか身に着けた様々な観念。
「私は○○だ」「○○すべき」「○○であるべき」といったものの中で自分を苦しめているものを手放す。
そして、別の望ましい観念に置き換える作業を行います。
(例)
「他人の要求になるべく応えるべきだ」→「私はイエス、ノーを自分で決めていい」
「マイナスの感情をもつのはよくない」→「感情は自然にわいてくるもので、いい・悪いはない。すべて自分に大切なことを伝えている」
ステップ4 新しいスキルを学ぶ
新たに選びなおした観念に合わせて生きていかれるように、これまで学ぶ機会がなかったスキルを学び、練習しながら身につけていく。
(例)
・感情の扱い方
・自分を大切にする行動
・つらさに対処する方法
・ノーを言うこと ・・・など。
ステップ2~4は一人でやると考えがなかなかまとまらなかったり、意識が発散したりしがちです。
信頼できる専門家の力を借りた方が断然進みやすくなります。
まとめ
自分が生まれ育った家族のことを振り返ること、当時起こったネガティブな状況を敢えて見ることは、時には感情的に大きな痛みを感じることもあるでしょう。
わざわざそんなことをしなくても良いのではないかと思うかもしれません。
しかしその痛みを感じるその場所は生きづらさを解消し、自分らしく楽に生きる一つの「起点」のありかを示しているのです。
痛みは決して楽なものではありませんが、それを乗り越えた時、痛みの体験はあなたの人間的な魅力や発揮する能力を高める力にもなるのです。
参考文献
Coping in a dysfunctional familyby,Raymond M. Jamiolkowski,Library Binding;1998
Changing Course,Claudia Black,Hazelden Publishing;2002