地球の大気中に酸素が出現し、生物が進化し始めた原生代。
この時代は大きく、新原生代、中原生代、古原生代の3つに分けられます。
では、それぞれはいったいどういう時代だったのでしょうか。
まずは、古原生代からその時代に起こったとされる全球凍結を中心にみていきましょう。
古原生代の概略
原生代のうち最も古い時代がこの古原生代です。
およそ25億年前から16億年前までを言います。
長期にわたる多段階的な過程を踏んで大陸が安定したのがちょうどこの時代であるとされています。
そして、この時代に地球上に生息する生物は大きな変換期を迎えます。
光合成によってエネルギーと酸素を作り出すシアノバクテリアの登場です。
それによって大気中に酸素が出現し、今まで酸素がある状態で生息していた嫌気性菌は地球上からほとんどいなくなってしまいました。
地球上に生息する主な種の入れ替わりが起こったわけです。
これが大酸化イベント(Great Oxygenation Event)です。
これによって生命は進化を遂げていきます。それを象徴するかのようにこの時代にすべての真核生物の発祥となったとされるCrown eukaryotesが誕生するのです。
全球凍結という試練
大陸が安定化し、大気中に酸素が出現するなど生命の進化にとって重要な要素がそろってきたとはいっても、生命が生きていくためにはまだまだ地球は厳しい環境にありました。
というのもこの時代は、全球凍結(Snowball Earth)があったのです。
全球凍結という言葉から推測されるように赤道付近も含め地球全体が完全に氷床(ひょうしょう)や海氷に覆われた状態となったわけです。
ちなみに氷床とは、地球型惑星など地表面がある天体の、地表部を覆う総面積5万km2以上の氷塊の集合体のことで、海氷は読んで字のごとく海水が凍結したものです。
氷河期と全球凍結
地球誕生以降、何度となく寒冷な気候に支配される時代がありました。これが氷河期と呼ばれるものです。現段階でわかっている最初の氷河期は29億年前と古原生代よりも古く、南アフリカでその痕跡がみつかっており、ポンゴラ氷河時代と呼ばれています。
驚くことに最も新しい氷河期である新世代後期氷河時代は現在も続いており、単に最近の約1万年は氷河期の中の比較的温暖な間氷期とされています。地球の長い歴史をみると1万年というのは、ほんの一瞬に過ぎないのかもしれません。
この氷河期の中でも特に厳しい時代に全球凍結という現象がおきたとされ、スノーボールアース仮説と呼ばれています
全球凍結は、現在までに少なくとも3度、約22億年前,7億年前,6億年前に起きたとされています。
この仮説が提唱されたのは、1992年と比較的最近で、カリフォルニア工科大学のジョー・カーシュビングが専門誌に発表しました。その後、1998年にハーバード大学のポール・ホフマン教授が南アフリカのナミビアでのキャップカーボネイトと呼ばれる原生代の氷河堆積物の直情を覆う炭酸塩岩の層を調査し、その結果などをまとめてサイエンスに投稿し、脚光を浴びることになります。
そして、この過酷な環境である地球凍結によって跳躍的な生物進化が起こってきたとされています。
スノーボールアース仮説以前
スノーボールアース仮説が提唱されるまでは、地球全体が凍結した時代があったということはありえないとされていました。
というのも、いったん地球全体が凍結したのであれば、その状態が今も続いているはずだと考えられていたのです。地球全体が凍結し、地球の表面がすべて白い氷雪で覆われてしまったのであれば、太陽光エネルギーの大半は宇宙空間へ反射され、地表温度はさらに低くなり、再び太陽光で溶かすということはできないだろうというのが主な見方でした。
つまり、現在の温暖な気候と液体の状態にある海の存在や地球に今もなお生命が存在していることが地球凍結などなかった証拠であるとされていたのです。
スノーボールアース仮説とは
地球が完全に凍結したとしても再び温暖な環境を取り戻す過程を提示し、地球史上に地球全体が凍結した状態が存在した可能性を示したのがスノーボールアース仮説です。
地球全体が凍結した状態から復活できた要因としては、火山活動によって二酸化炭素などの温室効果ガスが蓄積していったことが考えられています。
現在の地球のように液体の海があれば、大気中にある二酸化炭素は海に吸収されます。そのため、大気中の温暖化ガスの濃度はある程度に抑えられ、その温室効果によっておこってくる温度上昇も抑制されます。
ところが、地球全体が凍ってしまい、海が液体の状態で存在しないとなると大気中の二酸化炭素はほとんど吸収されません。そのため、火山から放出された二酸化炭素は大気中に蓄積していくことになります。
その結果、約2000年もたつと二酸化炭素の濃度は現在の400倍程度にもなると考えられるのです。つまり、その高濃度の温室効果ガスによって、今とは比較にならないくらい大きな温室効果を発揮していたわけです。
それによって、大気の温度は最大で 100 ℃ 近くも上昇し、平均気温は 40 ℃ 程度となって氷床が溶けだし、全球凍結状態から脱出したのではないかとされています。
では、もう一点の地球全体が凍結しなかった証拠と考えられていた生物についてはどうなのかというと、地球表面全体が凍結した状態であっても深海底や火山周辺の地熱地帯のように凍結せずに、一定の温度が保たれる場所はあり、そこで生きながらえてきたのではないかと考えられているのです。
全球凍結を示すもの
地球がいったん全て凍結されたとしても再び元の状態に戻ることができるということは、スノーボールアース仮説で証明されました。
そうなってくると全球凍結が起きたと考える方が妥当だと思われる地質的事象がいろいろあることがわかりました。
たとえば、世界各地でみつかっているこの時代の氷河堆積物ですが、当時の赤道付近と推定されている場所、つまり当時の地球上でもっとも暖かい場所であろうところからも発見されています。
それ以外にも、氷河堆積物の直上に厚い炭酸塩岩層(キャップカーボネイト)が発見されることが多いことも全球凍結が起きたことすれば説明が容易になります。というのも、キャップカーボネイトがあるということは同じ場所の気候が極地気候から熱帯気候へ急激に変化した可能性を示しているからです。
さらに、縞状鉄鉱床の存在も全球凍結があったということを後押ししています。
というのも、縞状鉄鉱床が作られたということは、二価の鉄イオンが海水中に多量に存在していたということになります。ところが、ふつう鉄イオンは酸素と結合して沈殿してしまうため海水中にため込むということができません。
しかし、海洋が凍結すると海水と大気はガス交換することができなくなり、海洋深層水は酸素が非常に少ない状態となります。そのため、熱水起源の鉄イオンが大量に蓄積できるというわけです。
それが氷の誘拐とともに表層へと上がってきて、シアノバクテリアなどの光合成によって生じた酸素と反応し、酸化鉄となって大量に沈殿し鉄鉱床となったと推測されるからです。
そして、炭酸塩岩炭素同位体分析から、この期間は生物による光合成が殆ど停止していたことが分かっています。つまり、生物圏に壊滅的な打撃があったということを示しており、これは当時、大きな地球環境の変化があったとしても不思議ではありません。
まとめ
一見、単なる過酷な環境と思える全球凍結ですが、別の側面からみると生命の進化にとっては欠かせないものだったようです。
地球大気が急激に酸素で満ち溢れ、真核生物が出現するきっかけとなった大酸化イベントも全球凍結によってもたらされたともいわれています。
それを考えるとものごとを多角的にとらえることの重要性を感じるとともに、我々人類が地球に誕生したことは奇跡的なように思えました。