最初の大量絶滅があったオルドビス紀後期に続く時代であるシルル紀。
古生代で三番目に古いこの紀に、生物たちは本格的に陸上へと進出を始めました。
生命は初めて大量絶滅という危機を経験した後に、新たな舞台へと足を踏み入れることになったこの時代はどういう時代だったのでしょうか。
その当時の地球についてみていきましょう。
概要
シルル紀は、地球の地質時代の一つで、約4億4370万年前から約4億1600万年前を指します。
この時代は、スウェーデンの最大の島であるゴトランド島の島全体がシルル紀の化石サンゴ礁から構成されていることから、1950年ころまではこの島にちなんでゴトランド期とも呼ばれていました。
今のシルル紀という名称は、1835年にスコットランドの地質学者であるロデリック・マーチソンとアダム・セジウィックがつけたものです。
彼らは、イギリスのウェールズ山地の研究で、旧赤色砂岩層の下位にある海産化石を多く産出した地層に対して、この地方に住んでいた古民族である「シルリア族」にちなんでシルル紀と名付けました。
この紀の地質学的特徴である赤色砂岩は、砂粒の表面が酸化鉄鉱物でコーティングされたものです。つまり、この時代には大気が酸化的になったということです。
赤色砂岩は新旧の2つに分けられています。
イギリスのシェトランドからウェールズにまで分布するシルル紀後期~石炭紀までの地層が旧赤色砂岩です。ちなみに、スコットランドの首都エディンバラの市街を作っている石材は、約4億年前にあったこの旧赤色砂岩です。
そして、グレートブリテン島イングランド中央部に分布する、ペルム紀から三畳紀初期の地層を新赤色砂岩といいます。
シルル紀の生物
ゴンドワナ大陸に分厚い氷床があったオルドビス紀後期から一転、シルル紀になると地球は温暖な気候になり、氷床が溶け始めました。
その結果、生命のない荒涼とした大地には、多数の河川が流れ始め、海の水位は上昇しました。浅海は広がり、汽水域と呼ばれる淡水と海水の入り混じった状態も広がっていきました。
これによってシルル紀の生物の舞台も海から川へと広がりを見せるようになったのです。その後、生物は本格的に陸上へ進出することになります。
シルル紀の頂点捕食者ウミサソリ
これらの多彩な生息域を網羅していたのが、ウミサソリです。
ウミサソリは、オルドビス紀に登場し、シルル紀からデボン紀にかけて栄えた肉食系水棲動物です。特にシルル紀においては海中における頂点捕食者として君臨していたとされています。
生物群としては、約2億年という長い間生き続けていましたが、約2億5140万年前の大量絶滅を乗りきることができず、地上から姿を消しています。
ウミサソリは多くの水生昆虫のように背中を下にし、後足をオールのように使って泳いだと考えられています。大きな目と力強い鋏を持っていることから、この種が肉食性であったのではないかとされています。
ウミサソリ類には、5cm大の小さなものから3mもある巨大なものまでさまざまな種類のものがいました。また、脚や尾などをさまざまな形に変え、浅海から淡水域、そして地上へと生息の場所を広げていったのです。
ユーリプテルス
ユーリプテルスは、ウミサソリ類の代表的なグループでオルドビス紀からデボン紀にかけて、現在のヨーロッパや北アメリカの海に生息していたとされています。
このグループには多くの種がおり、体長は24cm前後(20-30cmのもの)から、最大1mに及ぶものまでいたそうです。
大きな頭に大小一対ずつの目を持ち、頭の形は雄と雌で異なっていました。最後部の脚はよく発達しており、前には鋏がなく、尾の先は尖っていたようです。
スティロヌルス
そして、ウミサソリの中で歩いていたと考えられているのがスティロヌルス。
たいていのウミサソリ類は ユーリプテルスのように6対ある脚のうちの最後部の脚は遊泳するための平らなパドルの脚になっていましたが、このスティロヌルスには遊泳する脚はなく、とても長い脚をしていました。
剣状の尾先を持っていましたが、足跡化石から尾を引きずった痕跡はなく、サソリのように尾を上げていたと考えられています。
プテリゴートゥス
史上最大の節足動物と称されるほどの巨体だったのが、プテリゴートゥス。
全長は2mを超え、比較的小さい頭と多くの体節と長いスパイク状の尾を持っていました。体の前部に6対の脚を持ち、その一番前がロブスターのように大きなハサミになり、最後部の一対がオールのように発達していたようです。
泳ぐのに適したこのオールのような脚と平たい尾を使って、広大な海を遊泳していました。
ウミサソリの陸上進出
小型のウミサソリの中には、現在のクモ類が持っている書肺(ブックラング)という器官と同じようなものを持っているものがいました。
書肺というのは、血管に富んだ薄い葉状のものが重なり合って構成されています。この葉状の隙間を空気が通り、ガス交換が行われています。書肺のようなものがあるということは空気呼吸ができたのではないかと推察されるわけです。
書肺を持ったウミサソリは、おそらく河口付近の砂州に上陸し、潮溜まりに生息する小さな甲殻類を食べていたのではないかとされています。
シルル紀の中ごろには、サソリとして陸上での生活をしていたと考えられています。
ちなみに、生物が陸上で生活していくためには、以下に示すいくつかの条件が必要になってきます。
・水中の浮力に頼ることなく陸上の重力に耐える体
・乾燥に耐える体
・大気中の酸素を利用する呼吸の仕組み
・栄養を大気や大地からとる手段
・子孫を水に依存することなく残せる仕組み
それに加えて、地球側の条件として、紫外線から身を守るためオゾン層が形成されている必要があります。
陸上進出の鍵 オゾン層
今でこそ地上から高度15~30km程度のところにあるオゾン層ですが、地球誕生のときからあったわけではありません。
地球誕生当時は、生命に有害な紫外線が地上に降り注ぎ、地上はとても生命が生きていける環境ではなかったのです。
オゾンが大気中に形成されるためには、大気中に酸素が必要になってきます。
大気中に酸素があると太陽光の働きによってオゾンができます。しかし最初、酸素が薄いうちは、オゾン層は地上付近にありました。地上の紫外線の強度も今よりもずっと高かったため、生命はしばらく海洋にとどまっていました。そして、オゾン層がしっかりと形成されてから生命は地上に進出してきたのです。
オゾン層が現在の状態にまでなったのが、約4億年前と推察されています。
陸上植物の出現
シルル紀後期には、水辺で大気中に体を出していた植物(シダ植物の仲間のリニア、クックソニア、ゾステロフィルムなど)が見つかっています。
シダ科であるマツバランは、原始的な葉のない維管束植物で、シルル紀末の地層からみつかっています。マツバランは、完全に水から独立した生活ができるようになっていました。
これら植物の陸上進出には体を支えるための支持細胞の発達が不可欠でした。その中心的な役割を果たしたのが細胞壁です。
細胞壁は、紫外線に対する耐性、微生物や動物による病害・傷害への防御応答など、植物が過酷な陸上環境で生き延びるために欠かせない様々な役割を担っています。
リグニンという物質が細胞壁の形成に必要となってくるのですが、シルル紀後期にリグニンを持った植物が登場したのです。
当時は、リグニンを分解できる微生物がいなかったので植物は腐りにくいまま地表に蓄えられていきました。
まとめ
生物が本格的に陸上進出を果たしたシルル紀についてまとめてみました。
地球誕生から約40億年。
長い年月をかけてこれに向かって準備してきたかのように、この時期にあらゆる条件が整って初めて生物が本格的に進出し、活動の場を広げていったのです。
この時代が、その後の進化にとって大きなターニングポイントともいえるでしょう。