生物の陸上進出が始まった後の地質時代、デボン紀。
「魚の時代」とも呼ばれたこの時代。生物がさまざまな進化を遂げていたにもかかわらず、後期には生物種全体の82%が絶滅したとされる大量絶滅が起こります。
この時代の地球に何があったのでしょうか。
当時の地球環境や生物などを中心にみていきましょう。
概要
デボン紀は古生代の中ごろ、シルル紀の後の時代です。
約4億1600万年前~約3億5920万年前までがデボン紀にあたります。
この時代は、当初はイギリス南西部、コーンウォール半島にあるデボン州に分布するシルル紀の地層と石炭紀の地層に挟まれる地層をもとに設定されました。
このデボン紀の地層をデボン系と呼ぶのですが、シルル~デボン系は、日本に分布する含炭酸塩岩の地層としては最も古く、その分布は南部北上山地・飛騨外縁帯・黒瀬川帯の3つの構造帯に限定されています。
希少価値が高く、その多くが天然記念物に指定されています。
炭酸塩岩は、主に石灰質の殻や骨格を持つ生物の遺骸が集積することで形成され、その形成は、大気中からの炭酸ガスの除去と結びついていて、地球表層での炭素循環の重要な一翼を担っています。
ちなみに、シルル・デボン系境界は、世界の層序学において地質年代測定の基準となっているチェコスロバキアのプラハの西にあるBarrandian地域を国際的標準としています。
そして、このBarrandianという名称は、この地を克明に調査した偉大な地質学者Joachim Barrandにちなんでつけられました。
陸上の環境
ユーラメリカ大陸の出現
デボン紀の始め、約4200万年前に最古の超大陸であるローレンシア大陸や現在のユーラシア大陸の北西部を構成するバルティカ大陸、アバロニア大陸が衝突し、ユーラメリカ大陸が生まれました。
ユーラメリカ大陸は、赤道直下に位置し、オールド・レッド大陸とも、オールド・レッド砂岩大陸とも呼ばれています。
ユーラメリカ大陸は、ヨーロッパ(ユーロ)とアメリカをあわせた呼び名で、名前の通り北アメリカとヨーロッパを含む大きな大陸です。
現在の北アメリカ東海岸、グリーンランド、スコットランドがユーラメリカ大陸の一部であったとされています。
そして、このユーラメリカ大陸は、後のペルム紀には大規模な超大陸であるパンゲア大陸の一部となりました。
このユーラメリカ大陸の東側から南にかけて比較的狭い海を挟んでゴンドワナ大陸がありました。
ユーラメリカ大陸は、脊椎動物初上陸の舞台であったとも言われています。
そして、ゴンドワナ大陸の北岸沿いで、またユーラメリカ大陸とゴンドワナ大陸の間でも脊椎動物の移動・交雑があったことが化石記録からわかっています。
カレドニア山脈の形成
デボン紀前期~中期は比較的温暖な気候であったとされていますが、中期~後期にかけてユーラメリカ大陸とゴンドワナ大陸が合体し始め、パンゲア超大陸の形成が始まります。
それに伴い、カレドニア造山運動が活発化しました。
造山運動とは、大山脈や弧状列島を形成するような地殻変動のことです。
そして、カレドニア造山運動によって形成されたのが、ユーラメリカ大陸を南北に走るカレドニア山脈です。この山脈が形成されたころには高さ8000メートルを誇っていたとされています。
そして、この山脈の出現が、生物にも新たな進化の段階をもたらしました。
というのも、この高い山脈によって雲の流れはせき止められ、麓には多量の雨が降り注いだのです。それは、河川となり、海へ流れるようになり、淡水域という新たな世界を生み出しました。
カレドニア山脈の麓に流れる河川に沿って動植物が大陸内部にまで進出しました。
そのときの大陸内部の気候はというと、乾季や特に大規模な乾燥期が生じていました。それによって乾燥に強い生物の種の誕生を促すことになったのです。
しかし、落葉樹の出現で有機堆積物が増えたこともあり、乾燥地では火事が頻繁に起き、生態系にまで影響を与えたとされています。
最古の森林形成
また、この時代に最古の木であるアーケオプテリスなどのシダ植物が繁栄して最古の森林を形成しました。
アーケオプテリスは、シダ類といっても現在よく見かける草状のシダとは異なり、樹木のように発達する木性シダです。しかも古代の木性シダは、現世の木性シダとは比べ物にならないほど大きなものがあり、その外観はあたかも樹木のようでした。
成木になると30メートル近くに達するほど大きかったとされています。
とはっても、樹木と違ってその幹には年輪はなく、あくまで茎が成長したものです。
そして、その繁栄によって形成された森林の拡大によって湿地帯も同時に形成されていきました。
これら河川、森林、湿地帯の存在が生物種の進化を支えていたのです。
海洋の環境
この時代に陸上では新たな段階を迎えていましたが、それに伴って海洋の状態も変わっていきました。
その最も大きな要因が河川から流れてくる栄養(ミネラル)です。
これによりコケムシやサンゴが大規模なコロニーを形成するようになりました。
コケムシは岩にくっついている姿が植物のコケに似ていることからそう呼ばれていますが、立派な動物で、大きさは1mmくらい、硬い骨格があり、集まって群体を形成します。
このコケムシやサンゴが作るコロニーに、腕足類、ウミユリ、三葉虫、甲殻類、オウムガイなどが生息し、豊かな海を形成していました。
デボン紀は、「魚の時代」といわれています。
現在では絶滅してしまっている種類も含め6種すべて存在していたのはこの時代だけであり、かつ無脊椎動物から脊椎動物への政権交代を果たした魚にとって重要な時代でもありました。
それまで無脊椎動物に捕食される立場だった魚類が生態系の頂点に立ち、その後の生物の進化に寄与することになったのです。
植物の進化と生態系への影響
デボン紀前期~中期にかけて陸上の植物は枝分かれをしたより複雑な形態をとるようになり、高さも2メートルに達するものも出現するようになりました。
水や養分を運搬し、植物体の機械的な支持を行う維管束を持つ維管束植物が繁栄するようになります。ちなみに、維管束植物とは、シダ植物と種子植物を指します。つまり、菌類、藻類、コケ類を除く植物が維管束植物にあたります。
陸上の植物は乾燥に対する対策をとっていたわけですが、コケ類が乾燥に対して、忌避もしくは屈服するしかなかったのに対し、維管束植物は外気に接するところに防水性の外皮層を備えることで水分のロスを節約していました。
とはいっても、外皮層ですべてを覆ってしまうと大気中の二酸化炭素を取り入れることができなくなるため、気孔を進化させていきました。
この維管束植物の繁栄がデボン紀中期・後期にかけて河口域や淡水域に豊かな生態系を形成することになります。
デボン紀後期には樹高20メートルにも達するシダ植物の一種であるトクサ類、シダ類からなる大森林が形成され、種子を持つ植物が出現しました。
シダ植物が受精の際に水が必要であるのに対し、種子は外界の水に頼ることなく受精を可能にしました。より陸上での生活に適応した種へと進化です。
さらにこの種子の存在は、動物との共進化にとっても重要であったとされています。というのも種子は多くの栄養を蓄えており、動物にとっての重要な栄養源ともなったのです。
いっぽう、これら陸上植物の繁栄は、大気中の酸素濃度を高める結果となり、山火事のリスクを増やす要因ともなったとされています。
魚類の進化と両生類の出現
陸生植物の繁栄によってユーラメリカ大陸の広大な浅い海、三角州、入り江に泥の生態系が形成され、水底の無脊椎動物を捕食する体に鎧をまとう板皮類(ばんぴるい)が繁栄しました。
板皮類は、その存続期間は短く、シルル紀に出現し、デボン紀末までにはほぼ姿を消してしまいペルム紀には絶滅したされています。
この板皮類から進化し分かれたのが、軟骨魚類(サメなど)と硬骨魚類です。
硬骨魚類は、さらに条鰭類(じょうきるい)と肉鰭類(にくきるい)に分かれました。
浅海域ではプランクトンを捕食する遊泳型の極魚類(きょくぎょるい)とそれを捕食する軟骨魚類や硬骨魚類が繁栄しました。
シルル紀にいた無顎甲皮類(顎を持たず左右対になった胸鰭や腹鰭を持たず頭が甲板で覆われたもの)や腹足類(軟体動物門腹足綱の貝の総称)、二枚貝類、オーム貝類はデボン紀でも大きな変化もなく繁栄していました。
ただ、アンモナイトはその形態を変えていきました。ちなみに、アンモナイトは進化の過程で殻の小さなものから大きなものへ、殻の表面はなめらかなものから凹凸のものへ、縫合先はより複雑になる傾向があり、示準化石として重要な役割を果たしています。
また、三葉虫の多くは減少し、これには顎を持った魚類や頭足類(オウムガイやアンモナイトなど)の出現が関係あるのではないかとされています。
デボン紀の前期、3億9000万年前ころに遊泳力の優れた条鰭類が広がり始め、それによって遊泳性の棘魚類は河川などの淡水域、肉鰭類は底生という棲み分けが起こりました。
そして、この底生となった肉鰭類から四肢類様魚類を経て四肢類へと進化する系統が生まれることになります。
初期の四肢類様魚類とされているのが3億9500万年前ころに生息していたケニクティスで、初期段階の内鼻孔を持っていました。
その後、3億7200万年前には両生類に分類される水棲四肢類のエルギネルペトンが出現しました。
魚類様四肢類から両生類への変遷は非常に急激に起こったとされていますが、それは生態系が非常に豊富であったこと、干満の影響や曝気(曝気)など環境ストレスによる淘汰が起きやすかったことが原因ではないかとされています。
特に、酸素分圧の急激な低下は、陸棲を促す要因になったと考えられています。
デボン紀末の大量絶滅
3億7200万円前、8割ほどの生物種が絶滅するという大量絶滅がおこりました。
このときの大量絶滅には、海に住む生物と淡水に住む生物の間に大きな開きがあり、大量絶滅は主に海の中で起こったということがわかっています。
また、二枚貝に似た腕足類では、赤道近くに住む種類が91%も絶滅したのに対して、高緯度の冷たい海に住む種類では27%にとどまっており、この時期に大規模な寒冷化が起こったのではないかと推測されています。
つまり、もともと冷たい海に適応していた種であれば、寒冷化が進んだとしても暖かいところに逃げれば生きながらえることはできますが、暖かい海でしか生きられない種にとっては地球の寒冷化はそのまま死に直結する問題だったのではないかということです。
まとめ
「魚の時代」といわれるデボン紀についてまとめてみました。
関係の薄そうな陸上の環境変化がもたらした海の生物への影響や当時の環境変化が大きかったからこそ起こったであろう進化について思いをはせると生命の持つ力強さとともに、それがなかったら存在しえなかったであろう人類の誕生の神秘性とそれをもたらした環境の必然性の不思議を感じざるをえません。