アダトチルドレンは機能不全家族で育ち、成人した人々です。
家族が機能不全になる大きな要因は親にあるため、親の在り方が発端になっていると言えるます。
しかし子どもに対して過干渉、無関心、育児怠慢などを執拗に繰り返してしまう。
そんな親は親自身が幼少期に同じような体験をしてることが大半です。
つまりアダルトチルドレンは親子関係の一世代だけの課題ではない。
祖父母などの代から世代を超えて続く課題である場合も多いのです。
今回は「世代間連鎖」について見ていきましょう。
1.世代間連鎖とは
世代間連鎖(Intergenerational Transmission )は世代間伝達とも言われます。
最近では「貧困の世代間連鎖」「虐待の世代間連鎖」といった文脈の中で使われることも多い。
一般的には「虐待や貧困といった問題が世代を超えて伝わっていくこと」とされています。
深刻な問題が起きている場面で語られているため、ネガティブで取り除かないといけない対象として扱われていることが多い。
しかし一方で、世代間連鎖をネガティブなものと捉えすぎではないかと思います。
なぜなら、自身自身の生まれを否定することなるため、自己否定を強化することになりやすい。
また自分の子どもの対して
「ネガティブな影響を与えてしまうのではないか」
と過剰に不安になってしまうことがあるからです。
世代間連鎖は文字通り世代を超えて伝わっていくもの。
本来はポジティブ・ネガティブ、またどちらとも言えない様々な側面があるものです。
「アダルトチルドレンからの回復」の観点からすると、世代を超えて何が伝わってきたのか。
全体像を見た上で、ありがたく受取りたい部分、また改善したい部分はどこにあるのかを捉えた方が有効です。
2.世代を超えて伝わるもの
幅広く「世代間連鎖」を捉えた時、どんなものが世代を超えて伝わってきているでしょうか
(1)命
もっとも大事なことは人類の歴史の中で世代を超え、脈々と命が伝わってきたということではないでしょうか。
少子化・人口減少の日本。
毎年数十万人の規模で人口が減る時代だからこそ、今後あらためて命が伝わることの意義がクローズアップされてくるでしょう。
一方で機能不全家族に育ったアダルトチルドレンは自己否定感が強く、中には「自分は生まれなければ良かった・・」と思う方も当然いるでしょう。
だからこそ
「祖父祖母・両親の世代などを通じて、自分に命を授けられて良かった」
と自然と思えるようになることは、負の世代間連鎖を止めた一つの指標になるのです。
(2)基本的な生きる技術
生まれて間もない子供は一人では何もできません。
食事をすること、
お風呂に入ること、
歯を磨くこと、
トイレにいくこと
など、
生きる上で最低限必要なことを親から教わります。
ごく当たり前にしていることでも、親から伝わったことを改めて認識するのも有効です。
(3)知識・知恵
言葉、人付き合いの方法など様々なことを親から学びます。
両親が日本語を話す家庭であれば、子供は自然と日本語を習得していくでしょう。
もし両親がフランス語を話す家庭であれば、子どもは自然とフランス語を習得していくでしょう。
また人と会った時の挨拶も、どんな風に声をかけるのか。
お辞儀やハグなどどうすれば良いのか、属した文化などに合ったものを両親から学んでいきます。
他人や物事に向き合う知識や知恵は生まれたばかりの子供にはありません。
周りの大人、主に両親を通じて教わったり、親の背中を見てやり方を自然と身に着けてきたのです。
(4)観念
親が直接子供に語り伝えることもあれば、明確に言葉にしなくとも親が持っている観念を
「世間や世の中はこんなものだ」
と自然と受け取ることが多い。
人格形成の時期である幼少期に身に付いた観念は、無意識の内にその方の世界観、人生観となっていることも多い。
(例)
ポジティブに働きやすいもの
「人生には困難なこともあるが、なんとかなるものだ。」
「夫婦・家族とは安心・信頼できるものだ」
「ちゃんと頑張れば、お金は入ってくる♪」など
ネガティブに働きやすいもの
「男性(女性)とは信頼できないものだ。」
「お金は悪いものだ」
「努力は報われないものだ」など
(5)体験(喜びや心地良さの体験、トラウマ体験など)
自分が親からされて嬉しかった体験や心地良かった体験を自分の子どもにも与えたくなる。
本人は覚えていなくても…
幼児期に抱きしめたり、抱っこしたりされ愛された経験を多く持っている人は、自分の子供を前にした時に自然と同じ行動がしやすい。
しかし幼児期に愛された原体験が少ない人は、自分の子供を目の前にした時にどうして良いか分からなくなることがあるのです。
そして逆のパターンとして、自分が傷ついたり、満たされなかった体験を持っている人。
こういった人は、同じようについ子供にしてしまうこともあります。
幼少期に虐待を経験した人が、自分の子どもをつい虐待してしまうケースは少なくありません。
(6)土地などの各種資産など
すごく現実的な面ですが…
人によっては親から土地・建物・株式などの各種資産や事業・職業を引き継ぐ人もいるでしょう。
有り難いものもあれば、ものによっては自分の人生が縛られているようでマイナスに感じるものもあるかもしれません。
もし既に引き継いだものがあれば、何を引き継いだのか改めて明確にしておくことも世代間連鎖を捉える上では有効です。
敢えて幅広く、世代間連鎖を見ることは恵みと課題の両方を見ることにつながり、負の連鎖を止めることをスムーズに進めやすくなります。
3.世代間連鎖のメカニズム
自分が親からされたことを、なぜ自分が親になった時に自身の子供にするのか。
このメカニズムについては色々な見方があります。
(1)「自身の親の子育て方法」を我が子の育成のモデルとする
自分の子どもに対する接し方に考える時、一番に思いつくのは、親が自分にしてくれたやり方かもしれません。
子育て方法を学ぶもっとも身近なものは良くも悪くも自分の体験だからです。
これは現在の子育て世代よりも、両親、祖父・祖母の世代の方がその傾向がより強いかもしれません。
今は書籍やインターネットなどあらゆるところで子育て方法に関する情報が溢れています。
また子供虐待に関する認識が広がり、「子育てはこれで良いのだろうか?」と振り返るキッカケとなる情報も多い。
しかし以前はそういった情報が少なかったのです。
(2)「愛着」の世代間連鎖
ここで言う「愛着」とは、心理学者のジョン・ボウルビィが提唱した愛着理論の中に登場する概念の一つです。
英語のattachment(愛着、愛情、傾倒などの意)を日本語に訳した言葉。
養育者(親)との間に築く特別な情緒的な結びつきのことを指しています。
乳幼児期の親との関係性が良好で肯定的であればあるほど、子供が自分自身に対する「肯定感」が高くなる。
そして他者や世の中に対する安心感や主体性も高くなります。
その結果的、子供が成人し子育てするようになった際。
良好で肯定的な態度を子どもに対しても取りやすくなるのです。
(3)幼少期の体験に基づく無意識下の反復行動
虐待などネガティブな言動に対する「行動分析」の分野で使われる概念。
子どもに対して虐待的な言動を取りがちな親は、親自身が幼少期に虐待を経験しているケースが多い。
「子どもが泣く」などちょっとしたことをキッカケに、意図せずともつい虐待的な言動が出てしまうのです。
過去の体験が影響し、無意識の内に反射的・反応的に行動しているのではないかと考えられています。
4.世代間連鎖の影響
世代間連鎖の影響にはどのようなものがあるでしょうか。
敢えてポジティブなもの、ネガティブなものの両方を見てみましょう。
ポジティブなもの
・命がつながる、伝わる
・生きるために必要な基本的な技術が伝わる
・知恵や文化が伝承される
・過去の世代の教訓が世代を超えて伝わり活かされる
・喜びや豊かさの体験が次の世代にも伝わる
など
ネガティブなもの
・過去に縛られてしまい今を生きれない
・祖父、両親の存在に束縛されてしまい「自分自身」を生きれない
・過去の影響が起因となって、健康面・人間関係・金銭面などでトラブルを起こしてしまう
・つらさ、苦しさからなかなか抜けられない
・ネガティブな体験を次の世代に引き継いでしまう
など
5.望まない世代間連鎖を切るには
では、望まない世代間連鎖を切るにはどうすれば良いのでしょうか。
その方の成育環境や現在の状況によりますが、ある程度共通するものとしては下記のようなステップがあります。
【1】自分自身に起きている望まない世代間連鎖や反応パターンに気付く
【2】自身の内面にある親に対する怒りや憎しみをOKとする。
(そして親にはぶつけない)
【3】親が幼少期どのようにして育ったのかをしっかり知る
【4】自身の内面にあるネガティブな体験、感情と向き合うことを決める。
【5】幼少期のトラウマ(傷づいた体験、満たされなかった想い)をケアする
6.まとめ
一般的にはネガティブなものとして語られることの多い「世代間連鎖」。
しかしポジティブな側面もしっかり見ることによって、実は自分が受けてきた恩恵に気付くこともあります。
これは自分自身を認め、肯定する力にもなり、幸福感が増すこともあるでしょう。
一方でネガティブな側面は、幼少期の体験がきつければきついほど、ご自身で扱うのは難しくなります。
理解あるパート―ナーや友人の力を借りるのも良いででしょう。
またカウンセラーなどの専門家のサポートを得るのも良いでしょう。
世代間連鎖の負の影響を軽減することは、まさにアダルトチルドレンの生きづらさの解消につながるのです。