「自分は一体何のためにこの場所に存在し、働いているのだろうか…。」この種の疑問を持つ時、日常生活や職場環境上での危険信号が点灯したと考えてもいいかもしれません。さらに新鮮味のない日々の繰り返しが、生命の存在価値や、働きにまつわる意味を我々に考えさせるとも捉えることができそうです。
また、現在オートメーション化された時代において、人間が機械の一部のように動くことで、自らの能力を発揮させる場所がないとの見方もできます。すると、先述した疑問がより強く浮かび上がってきます。
こうした考え方は“個性”をなくすだけでなく、精神的疲労が蓄積される原因としても考えられます。こうしたネガティブな感情を転換させるひとつとして、私たちに備わっている創造力を伸ばすことに注目してみてはいかがでしょうか。
はじめに
私たち人間には他の動物たちと違い、物事をさまざまな角度から見ることができる力を持っています。さらに、大きなものを創造する力(創造力)も備わっていることについては、多くの方々が認識していることでしょう。だからこそ人類は、現在の文明社会を築き上げることができたと理解することができます。
しかし、あまりにも便利すぎる世の中で、我々の創造力は希薄になり、生きる喜び(生きがい)を感じることができない状態に陥り、与えられることが当たり前と考えている側面があるのではないでしょうか。
そうした与えられるだけの生活を続けていくことで、働きを通した喜びを感じることが難しくなるだけでなく、自分自身の成長や進歩を感じることが少ない生活へと繋がりやすくなる可能性があります。そのひとつのが「上手くいかないことがあると、自分以外の誰かのせいにしてしまう」という現象です。
一般的には望ましくない現象のひとつですが、このように感じた時こそ、自己改善の道筋を歩むチャンスがきたのだと、考え方の転換をしてみてはいかがでしょうか。
今回は創造力と喜び(生きがい)の関連について展開していきます。さらにどうすれば創造力が開発されるのかについても触れていきたいと思います。
1とらわれる心を捨てる
私たちは固定観念に縛られていることが多いです。一度こうと思い込むと、なかなかその意識から脱けだすことができないと感じたことがある方は多くいるのではないでしょうか。この考えが新しいものを産み出す障害になっています。
こうした意識に囚われている心を捨て、心の柔軟性を養うことで、新たな気づきを得て、自らの心にも落とし込みやすくなります。
例えば
「50円持っていき、35円の買い物をしたところ、お釣りを5円しかもらわなかった。なぜでしょう?」
ひとつのクイズとして取り上げたものですが、どのように回答されますか。ちょっとした引っ掛け問題で、人間の囚われる心を逆手に取った質問です。
多くの方は“50円”と聞くと、“50円玉”をイメージすることが多く、そうなればお釣りは“15円”という発想になります。
しかし、50円は10円玉5つでも50円です。会計時に40円を出して、5円が返ってくるのは当たり前のことですから、不思議なことはありません。
少し意地の悪い問題ですが、柔軟な見方、考え方からいろいろな発想が出てくることを捉えておきたいものです。
こういった創造性を開発するためには、自分の心の中でいつの間にか作り上げてしまった制限の中でしか動けない状態にあることを認識し、その制限から何とか脱し、新しい分野に出て行こうとする考え方がポイントです。
その考え方の基にあるのが“自由”という言葉の認識です。日常的に使われる“自由”という言葉の定義を確認しておきます。
自由【じゆう】…他からの制限や束縛を受けず、自分の意思・感情に従って行動すること。またその様子
(『新明解国語辞典第6版』)
つまり「自由」とは様々なものから制限されずに、思いのままに思ったことや、信じていることを発するような状態と言えるでしょう。今回取り上げた“自由”とは、私たちを縛り付けているものからの脱却を図る道筋といってもいいかもしれません。しかし無茶苦茶な理屈を掲げて、自分勝手に行動してくださいと提唱しているのではありません。先述した“自由”の定義に「自分の意思・感情に従って行動する」とあるように、心の奥深くにある“意思・感情”を取り出して行動することで、純粋無垢な心に帰ることをいっているのです。
素直にそのものを受け入れる姿勢に立ち返り、食物に対しても、住宅や衣服においても、ただただその環境を“感謝”して受け入れることが大切です。
反対に、目の前に与えられたものに対して、嫌がり、恐れ、怠け、不足不満の感情を周囲に表すことは“わがまま”な態度として、周囲に不快な思いをさせてしまうことになるでしょう。
目の前にやってきたものごとを〈嫌だな…〉と思うと同時に、よい考えは浮かばなくなります。すると物事はうまく運ばないばかりか、実に困った現象を引き寄せる結果になってしまうのです。
逆境の時こそ、ものごとをそのまま受け入れ、創意工夫を凝らしていくこと、これまでになかった新たな発想に恵まれ、アイディアが閃くことでしょう。
2失敗を活かす
多くの成功体験者からは「あの時の失敗があったから」「あの時の苦労があったから」という言葉が口を揃えたかのように出てきます。日常生活においても、失敗をせずに生きぬくことは不可能と言えるでしょう。
新しいことに挑戦すると、失敗がついてまわるのは当然かもしれませんが、日常的にやり慣れた業務や行動の中においても、大きな落とし穴が潜んでいることに注意しなくてはなりません。
昔から「失敗は成功の母」といわれるように、失敗してもその原因を追求したり、欠点を反省して改善していくことで成功に近づくことができるとの意味あいで、多くの方々に知られているでしょう。
しかし、必ずしもそうとはいえません。というのも、これまで出会った人の中には、いつも同じ失敗をする人もいれば、失敗するたびに成長する人もいたことでしょう。あるいは自分自身のこれまでの生活を振り返った時に、同じ失敗を何度も繰り返してしまうことや、失敗をしなければ手にすることができなかった成功体験もあるのではないでしょうか。
失敗はただ経験すればいいというわけではありません。失敗を活かすような考え方や行動をしなければ、成功体験に転換されないのです。当たり前の事かもしれませんが、全ては本人の心がけ次第と言えるでしょう。
しかし、失敗した直後の精神状態では、当たり前のことが当たり前に出来なくなってしまうことも多いです。その原因は、失敗したことで湧き上がってくる不安定な感情にあります。この感情のまま先へ先へと突き進み、“意地”や“根性”といった精神論で対応すると本当の成功にはたどり着けなくなってしまいます。
なぜなら、たとえ処理し終えたとしても、私たちの心の中には「わだかまり」という形で“シコリ”が残り、同じような状況がやってきた時に、また同じような失敗をする可能性がでてくるからです。
このような状況を引き起こさないためにも、失敗したらその都度、物事を整理して考ておく癖を身につけておきたいものです。
3原因の追究と積極心
1943年からマックス・プランク石炭研究所の所長を務めたカール・チーグラー氏の話です。ある仕事をしている時に、容器に不純物が付着して困らされたことがあったそうです。その不純物をなんとか取り除く事はできないかと考えたチーグラー氏は、その不純物について徹底的に調べ尽くします。
するとその不純物が、“ポリエチレン”であることがわかったのです。当時ポリエチレンの生産はイギリスのI.C.I社が1939年に工業化しましたが、そのプロセスは高温・高圧を条件とする極めて高コストの生産プロセスであり、しかも剛性が低く、使い勝手の悪い低密度のポリエチレンであったといいます。
チーグラー氏は、発見したポリエチレンの研究を重ね続け、「ポリエチレン製造用触媒(チーグラー触媒)」を発見するに至りました。この発見により高温・高圧プロセスで低密度だったものが、常温常圧化かつ高分子で生成することができるようになったのです。そして今日私たちの日常で使用されているポリエチレンに繋がっていたと思うと感慨深いものがあります。
また1956年に来日した際の講演の中で「新しい発見は合成樹脂の調査や研究について何の設備もない研究所で偶然に起こった」と語っていたと言われています。
チーグラー氏の姿勢や態度は、創造に必要なものといえるでしょう。現象化した不祥事を困ったものだと嫌がり、逃げていたのでは何の発見も発明もなかったかもしれません。さらに氏が語った“偶然”という言葉には、思いがけない出来事として率直な感想だと感じさせますが、必然的に結果を引き寄せたと捉えることもできます。
必然的に結果を引き寄せるには、中心者となる人物の心の根底にある積極的な姿勢、旺盛な好奇心と深い認知力、洞察力に富んでいることが求められるようですが、最も大切なことは、決して諦めない姿勢にあるのかもしれません。
最後に
先人に「創造は、失敗の連続を経て生まれるが、失敗の連続を乗り越えるものは何か。それは執着である。」という言葉を残した博士がいます。
“執着”という言葉には「そのものだけを思い続けて忘れられない」との意味があります。それを良い方に捉えれば、ひとつの物事に集中して取り組み続けることとしてみることができます。逆に反対の悪い方向に考え続けてしまうと、思い悩む傾向に発展してしまうので注意せねばなりません。
そして、最後に押さえておくべき点として“創造は、失敗の連続を経て生まれる”という部分です。日常生活や職場生活で失敗と感じる事柄を決して失敗だけで終わらせてはならないのです。
新しいステージにランクアップするために現れた現象だと、前向きに心を転換し、 “原因究明”と“改善策”を思案することから始めてみてはいかがでしょうか。
こうした分析を通して、これまで気がつかなかったものに焦点が当てられ、創造的に物事を進めていくことが可能となります。そしてその行動が〈楽しい〉〈面白い〉と感じられるようになった時、喜びが生まれ、生きがいに変わっていくことでしょう。
どんなに小さな発想や閃きでも、行動に移した時が成長のチャンスです。決して逃すことなく、挑戦し続けていくことをやめずに歩みを進めていただきたい。すると おのずと“創造力”が開発されていくことでしょう。