はじめに
皆さんは「御朱印(ごしゅいん)」のことをどのくらいご存知でしょうか。
昨今、御朱印を集めるために、神社やお寺に参拝する人が増えているといわれています。参拝の証としての御朱印の収集ブームに対して、神社やお寺の関係者からは「参拝のきっかけになる」と歓迎の声が聞こえる一方で、「集めることだけが目的となり、参拝そのものが軽く見られてしまう」という心配の声もあるようです。
実際に、先日お会いした某県K神宮の社務所職員Aさんに伺った話では「字が汚い」「もっと綺麗に書いて欲しい」「書き置きなんていらん!」と、参拝者からいわれることで、筆を握ることが怖くなったと悲しみの声を耳にしました。
近年の御朱印ブームによって、若い人が神社やお寺に興味を持ってくれることで、幅広い年齢層での参拝客は増えるものの、本来は信仰や参拝の趣旨のものがゲーム感覚でないがしろにされている現状では、神社・お寺の関係者からすると、もどかしさを抱えているのではないでしょうか。
今回は、「御朱印とは、何か」ということを切り口に、多くの方々が神社やお寺に気持ちよく訪れ、参拝し、御朱印を授かる時の参考に活用していただけたら幸いです。
1、御朱印の起源
現在では、神社を参拝した証としていただく「御朱印」ですが、その起源は奈良・平安の昔、神社仏閣に書写した経典を奉納した際にいただいた「納経受取書付(のうきょううけとりかきつけ)」ではないかといわれています。つまり、神社へ、仏教に関するものを写経した書を、奉納した証明書がはじまりではないか?ということになります。
ここで気になるのは「神社に写経を奉納?!」という疑問です。しかし、歴史を遡るとあまり不思議なことではありません。例えば、源平合戦の時代に、平清盛が「神仏習合思想」の影響を受けて、「厳島神社の御祭神は、十一面観音がお姿をお変になったのだ」と解釈して写経した書を神社へ奉納したといわれており、一方で、神社やお寺が同じ場所にあった土地もあるほどです。
このように納経は徐々に世間にも拡がりをみせていき、神社やお寺から「納経受取書付」をもらうようになったことが、月日と共に納経せずに参拝のみをした場合にも、証明を書いてもらうように変化していったと考えられています。
現在の御朱印のように、神社の朱印が中央に押される形式は、明治時代に普及したといわれていて、大正・昭和時代になると鉄道の普及によって、「旅の思い出」として参拝した神社の御朱印を集めることが楽しまれるようになります。
そもそも「御朱印」と呼ばれるようになったのは昭和に入ってからであり、それまでの呼称は「社印(しゃいん)」「印證(いんしょう)」「御判(ごはん)」「御印(みしるし)」などと呼ばれていたそうです。
古来、日本では「印」は神聖なものとして位置付けられてきました。「印」が祭祀に関わっていた時代があることや、現在でも「印」を祀る神社があることが物語っているといえるでしょう。
また、古くには神社やお寺では朱印を押した「牛玉宝印(ごおうほういん)」を厄除けの護符として頒布していたことから、「朱印」には神仏の力が宿ると考えられていたのです。
このような歴史からも分かるように「御朱印」は神様や人々の信仰心とともにあるからこそ意味があり、それ故に神聖なものであるといえるのでしょう。
それにもかかわらず、近年の「御朱印ブーム」によって、御朱印集めをする人が増えてきたこととともに、インターネット等で「御朱印」や「御朱印帳」が転売されている事例が見受けられ、御朱印に関するトラブルも発生していると見聞きするようになりました。
最低限のマナーを守らないごく一部の人のために、場合によっては他の参拝者が御朱印を受け取ることもできない状況になってしまっては、神社やお寺だけでなく、参拝をしている私たちまで悲しい気持ちになってしまいます。
節度を持って、心清らかに参拝し、御朱印をいただけるような行動にしていこうではありませんか。
2、ご朱印帳を手に入れよう
御朱印を受け取るために、まずは、自分の気に入ったご朱印帳を準備しましょう。
御朱印は、芸能人にもらうサインのように「記念に、Tシャツに書いてください!」「この大学ノートに書いてください!」「この冊子(パンフレット等)に書いてください!」などと頼めるものではありません。
実際に、社務所の方からそのようなケースがあると聞き、私自身、耳を疑いました。しかし一方では、御朱印を額装し、祖先の遺影と並べて飾るほど尊ぶ人もいます。そこまではなくても、せめて、御朱印専用の帳面を準備することが、最低限のマナーといえるのではないでしょうか。
御朱印帳は、御朱印をお願いする神社やお寺の社務所で購入するのが正式とされているようですが、現在では、一冊の御朱印帳の1ページごとに異なる神社の朱印をもらうスタイルも確立されているので、お気に入りの1冊を準備して、参拝すると良いでしょう。
しかし、気を付けておかなければならないことがあります。一部の神社やお寺では、神社とお寺の御朱印が混在していることを好まない場所もあります。そのため、神社用とお寺用に分けておくほうがよさそうです。
最近では、神社やお寺の社務所で購入せず、特定の刻印のない無地の御朱印帳が市販されています。こちらを活用する方法も問題はなく、中には、御朱印帳を手作りで用意する人も増えてきているようです。
いずれにしても、御朱印専用の御朱印帳を手に、参拝に向かってみてはいかがでしょうか。
3、御朱印をもらう時のお約束
・御朱印をいただく前に、参拝をしましょう。
神社やお寺で大切なことは、参拝をすることです。まずは、心を清らかに落ち着かせて、参拝をしましょう。
以下、参拝時の基本的な手順です。
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参拝の作法として
・鳥居をくぐる前に会釈をして、気持ちを引き締めてから境内に入ります。
・手水舎の水で心身を清めます。この動作を「手水をとる」といいます。
〉手水の作法〈
(1)右手で柄杓を持ち、水を汲んで左手にかけ左手を清めます。
(2)次に柄杓を左手に持ち替えて、同じように右手を清めます。
(3)再び柄杓を右手に持ち、左の手のひらに水を受けて口をすすぎます。
(4)口をすすぎ終わったら、もう一度水を左手に流します。
(5)最後に水の入った柄杓を立て、柄に水を流してから、伏せて置きます。
・参道の中央(正中)は神様の通り道とされているため、参拝時は参道の右側か左側のいずれかを進んで、神前へ進みます。
・御神前に着いたら会釈をし、神様に捧げる真心のしるしとして、賽銭箱にお賽銭を静かに入れます。
・二拝二拍手一拝の作法で拝礼し、会釈をしてから退きます。
〉二拝二拍手一拝の作法として〈
(1)深いお辞儀(拝)を二回繰り返します。(二拝)
(2)次に両手を胸の高さで合わせ、右手を少し手前に引き、肩幅程度に両手を開いて拍手を二度打ちます。(二拍手)
(3)そのあと両手をきちんと合わせてながら心を込めて祈ります。
(4)両手をおろし、最後にもう一度深いお辞儀(拝)をします。(一拝)
・御朱印をもらうことを、参拝の目的にしないようにしましょう。
御朱印は参拝の証ですから、参拝してこそ意味があります。スタンプラリーではありませんので、御朱印をもらうことを目的にしないようにしましょう。
御朱印は、お札やお守りと同様に、信仰に基づく尊いものですので、穏やかな心をもって、御朱印をお願いしましょう。
・御朱印帳は自分で開いて渡しましょう。
御朱印帳は書いて欲しいところを開いて、渡すようにしましょう。上下を確認して渡すことができればベストでしょう。
・書き終わるまでは静かに待ちましょう。
御朱印の書き手の方は、集中して御朱印を書かれます。書いている時に話しかけるのは避け、係りの人から呼び出されるまで静かに待つようにしましょう。
他の参拝者がいるだけでなく、今いる場所が神社という神聖な場所であることを忘れてはいけません。書いている様子を無断で撮影したり、無理に覗き込んだりすることは、やめましょう。
・下調べも忘れないようにしましょう。
御朱印の受付時間には限りがあり、それも祭事や行事でお休みのこともあるようです。事前にしっかりと下調べをしてから参拝に行かれるいいでしょう。
・御朱印帳は大切に扱いましょう。
御朱印帳は、清浄な場所に保管しましょう。また、自分の名前をきちんと記入して、大切に保管することも重要です。
・御朱印を忘れてしまった時には…
紙のかたちで、御朱印をいただける神社もありますが、いただくことができない神社もあります。そうした時には、無理にお願いする行為は避けましょう。
最後に
御朱印は、ただの記念スタンプではありません。神聖なお守りのようなものということが、ご理解いただけたのではないでしょうか。
時間を確保して計画を立てて訪れた神社で授かった御朱印を集めることは、自分自身が“いざっ!”という時の決断を迫られた時や生き方に迷われた時に、きっと背中を押してくれたり、守ってくれたりすることでしょう。
信じることで、自らの生命に力を感じたり、温かく見守られていると感じたりとする感覚が、御朱印を集めることで得られる一番のご利益なのかもしれません。
そして、「御朱印」をきっかけに神社への参拝はもちろんのこと、訪れた先の土地の文化や歴史に触れ、景色や風土を楽しむことは、心を豊にし、今後の人生において様々な感覚を私たちに与えてくれるひと時となることでしょう。
私たちの身近にある神社・お寺から授かる「御朱印」。その心持を実践される方々が大自然(神様)からのご縁に恵まれ、多くの思い出を作ることができるよう、心からお祈りしたいと思います。
参考:神社本庁ホームページ 〈https://www.jinjahoncho.or.jp/omairi/osahou/goshuin〉