はじめに
近年、「終活」という言葉を聞く機会が増えました。「人生の終わりのための活動」の略といわれると、どうしてもマイナスに考えて、活動しにくい側面があるようです。
こうしたマイナスの見方・考え方を持つ方々からは「終活の必要性を感じてはいるものの、実際には何もしていない」という声が多く、終活について動き出している人は、現在5人に1人といった割合だそうです。
必要性を感じながらも何もしないのは、具体的に何をしたらいいのかはっきりせず、漠然としていることが挙げられます。「内容や、手順がわからない」「やり方がわからない」「どこから手をつけたらいいのか不明瞭」というように、「何もしない」というよりは「できない」というような状況に陥っているようです。
反対に、活動を始めている人の動機は、様々とあるようですが「子供達や残していく家族に“負担”をかけたくない」という想いを持った方が圧倒的に多いようです。
また、終活の必要性を実感するキッカケに「親の介護」を挙げ、「長年、母の介護に携わったことが予習となった。この経験を自分の終活に活かしたい」と話す人もいます。
特に女性は、男性よりも平均寿命が長く、その他の様々な理由から“おひとりさま”になる可能性が高いことから、終活への関心は男性よりも女性の方が高まっているような状況といえるかもしれません。
2011年に邦画『エンディングノート』が話題となり、2012年には“終活”がユーキャン新語・流行語大賞の候補に選ばれています。今後、“終活”は、日本の高齢化社会をひもとくキーワードとして、ますます注目されていくことは間違い無いと考えられますが、その言葉の意味をどのように捉えるかで、拡がりは変わっていきます。
今回は「人生の終わりのため活動」としての“終活”ではなく、「人生の終わりを考え・見つめることを通じて、今をよりよく、自分らしく生きるための活動」としての“終活”に注目してみたいと思います。
1、いつ始めればいいの?
「気力」「体力」「判断力」を必要とする“終活”において、自分自身の健康状態は非常に大切な要素となります。今は健康でも、「いつ、どこで、どうなるかわからない」ということが、全ての世代に共通しています。だからこそ「いまっ!」と感じた時が重要なポイント(はじめどき)になります。
実際に終活をしている人のタイミングを見てみると、「定年退職後」「還暦」「古希」といった「人生の節目」のタイミングを捉えて活動を始めている人も少なくないことから、決められた活動開始時期はありませんので、自分自身のタイミングで初めてみることが大切になります。
また、終活には、取り組む必要のある内容が多数にあります。取り組む内容にもよりますが、それぞれにかかる時間を見積もり、「◯ヶ月で終わらせよう!」というような期限を設けて、初めてみることも大切な要素となりますので押さえておくといいでしょう。
そして、物事を始めるタイミングが良くても「継続することが難しい」と話す人もいるようです。こうした時には、自分を助けてくれる“伴走者”的立場の人やモノを活用してみることで継続しやすくなります。ここでは、素晴らしい伴走者となりうる人・モノを紹介しましょう。
1)優れた指南書の活用
終活の全体像と取り組み内容、取り組み方がコンパクトにまとめられている本との出会いが大切です。自分自身で良書と巡り会えるように、探してみてはいかがでしょうか。
2)優れたエンディングノートの活用
必要なことを記入しながら、終活の準備が進められるので便利です。
3)講座やセミナーの活用
概略やポイントを掴むために役立ちます。積極的に質問し、不明点はその場で解決できるように進めていくことが大切です。
4)弁護士などの専門家の活用
相続や遺言書の作成など、専門家の助言を受けながら進めたほうが良いこともあります。お住まいの地域などで開催される無料相談会も増えていますので、そういった相談会へ参加して、得たヒントも参考となることでしょう。
5)共に進む仲間を探す
「あの人も頑張っているし…」との想いが励みになります。講座やイベントへの参加を通じて、同じ問題意識を抱える終活仲間との出会いを楽しむ余裕を持つことが大切になります。
5つの伴走者を紹介しましたが、自分自身にしっくりとくる伴走者は見つかりそうでしょうか。自分1人で始める“終活”かもしれませんが、共に活動を支援してくれる伴走者は、とても心強い見方になってくれます。
さらに、自分自身へのご褒美を用意しておくことも大切でしょう。「終活が完了したら、旅に出かける」計画を立てたり、「美味しいものを食べる」ことであったりと、自分へのご褒美を用意しておくことで、やる気も湧いてくるものです。
2、準備の対象は「自分」と「家族」のことを念頭に置く
人生の最期を理想的なものにしようと考えと、念頭に置くべきポイントは「自分」と「家族」のことに絞られてくるでしょう。さらに、それぞれに考えるべきポイントには、次の4項目が大切になるでしょう。
1)お金・モノ
財産(預貯金、保険、株式証券、各種カード、不動産など)や所有物を明らかにし、不用品は整理して処分します。遺産分配のトラブル防止策には「遺言書の作成」をします。
2)医療・介護
寝たきりや認知症になった時に望む暮らしかたや、病名や余命の告知、延命治療の希望などについてあらい出しておいて、家族や然るべき人と共有します。
3)葬儀・お墓
自分が望む葬儀や供養のスタイルについて明らかにし、家族や然るべき人と共有しておきましょう。見積書の取り寄せなど具体的に準備しておくと遺族の金銭・精神的な負担も軽減されます。
4)想い・思い出
アルバムや日記の整理、自分史の作成、家族旅行による思い出づくりなど…これまでのことを振り返ることで、今の自分にとって本当に大切なものが見えてくることでしょう。こうした場合にも「エンディングノート」の活用をお勧めします。
「自分」と「家族」と限定してしまうと、組織に属する人や経営をされている人にとっては、不足事項が浮かんでいるかもしれません。しかし、ここで取り上げていることは最低限考えられる項目であって、完璧な内容ではありません。
準備対象として考えられる“他者”に「何を残すのか」という問いについては、“自分”と“家族”のことを考えたのちに、時間を確保して考えてみてはいかがでしょう。
3、終活は、早く始めるほどメリットは大きい
ネガティブな印象を持ちやすい終活ですが、「死や人生を見直すキッカケになった」「不安が解消されて前向きになれた」等々の想いを抱く人は多く存在しています。
終活は、人生の引継ぎにむけた総仕上げですので、「気力」「体力」「判断力」を必要とします。物事の大きいものについては、即断することができないものもあるでしょう。だからこそ、早く始めるほどメリットは大きくなるのです。
考えを深めていくことで整理すべき内容は数多く出てきますが、まずは「お金・モノの整理整頓」「万一の備えや希望」「家族と自分の想いの共有」について考えてみましょう。
1)お金・モノ・ことの整理整頓
終末期の人生設計にあたり、自分自身の経済力の把握は必須です。お金・モノ・ことを整理整頓しておくことは、心のリフレッシュ効果にも繋がります。
2)万一の備えや希望
自分自身の万一(介護、終末期医療、葬儀、相続など)を考えた積極的な準備は、周囲への負担を最小限にします。
3)家族と自分の想いの共有
「死を見据えた思い出を振り返ることで、周囲への感謝が生まれた」と実感する経験者は多数存在しています。
取り組み始めると細かなことにまで気がつくようになりますが、まずは紹介した内容について考えを深めてみてはいかがでしょう。
整理を進めながら共有を重ねることで、自分のやりたいことや想いや考えを再確認することができるようになります。すると、ネガティブに捉えていた“終活”への考えが、ポジティブなものに変換されていくことに気がつくようになります。
4、最後に
「納得いく人生を送ることができた!」と誰もが思いながら逝きたいと願うものですが、そうはいかないのが現実に多くあるようです。
1,000人の死を見届けてきた終末医療の専門家がまとめた『死ぬときに後悔すること25』(致知出版社)から、後悔の一部を紹介しましょう。
・自分のやりたいことをやらなかったこと
・行きたい場所に旅行しなかったこと
・他人に優しくなかったこと
・愛する人に「ありがとう」を伝えなかったこと
・健康を大切にしなかったこと
・自分の葬儀を考えなかったこと
・遺産をどうするか決めなかったこと
こうしたことを踏まえて、どのようなことで後悔しそうでしょうか。「後悔先に立たず」といわれていますが、終活に取り組む方々にとってこのようなことわざはあてはまらないでしょう。なぜなら、死を迎える時に後悔しないための終活になるのですから…。
そのためにも、まずは自分が後悔しそうなことを全て書き出してみるのはいかがでしょう。
そして、書き出したことをひとつずつ解消していくことに時間をかけてみてはどうでしょうか。まだまだ、間に合います。
“今”をよりよく、自分らしく生きる活動としての“終活”に取り組んでみてはいかがでしょうか。