私たちは常に時間の経過の中で、場所を変えながら生活しています。つまり、時間と場所の交差する一点に存在しているのです。それ以外には存在しようがないのですが、日常生活において、私たちはその存在を忘れているのではないでしょうか。
「二兎を追う者は一兎をも得ず」という諺もあるように、欲を出して同時に二つのことをうまくやろうとしても、結局どちらも失敗するとの意味は言わずとも知れたことわざです。
現在、マルチタスクが素晴らしいと聞くこともありますし、何かをしながらことを成そうとする「ながら生活」を推奨する傾向にもあるようです。しかし実際のところ、効果はあまり臨めないようです。
その理由の一つとして、「心ここにあらず」状態であるから物事が進まないのではないでしょうか。周囲から当事者をよく観察すると、何かに気を取られて目下の事案がおろそかになっている様子で、それは集中力が欠けた状態であることが確認できることでしょう。
日常生活の中でも「新聞を読みながら食事する」姿を見ると、新聞に夢中になって、食べる方がおろそかになり味などわからない…。食事に夢中になると新聞が読めなくなるなど…。このように、私たちはひとつのことにしか意識は向かないということについては、日常生活を振り返るとよくある風景のように思います。
今回注目したい内容は日常生活の中にある「その時その場」を意識して「その一瞬に全力集中」する方法です。あたりまえの内容のように感じるかもしれませんが、改めて見つめることで自らの生活に“節度”と“更なる充実”を感じていただけると思います。
1生命の存在を確認する
私たち人間は、過去から未来へ流れる時の中に生きています。しかも一点にとどまることはなく、絶えず場所を変え、移動しながら生活しています。
私たちの生命が存在している“点”は「その時その場」に限られています。そして、その“点”の積み重ねが“線”となり、“面”となって拡がっていきます。
或る一定の成功を収めた人物の話や、物事を達成に導いた先人たちの話に耳を傾けていると、私たちは“面”にばかりとらわれ、“点”を見つめていることがよくあります。そうなると成功の道筋から離れ、嘆き苦しみ落胆することも少なくありません。
実は、私たちが見つめなくてはならない本当のポイントは“点”なのです。「今」の一瞬一瞬に私たちの生命はあり、今いる場所で「全力集中」した生き方が、自分自身の生命を輝かせる生き方となるのです。
2全力でその時その場に臨む
「その時その場」を意識して「その一瞬に全力集中」することが功を収める秘訣であることは理解しているでしょう。にもかかわらず、なぜ物事はうまく運ばないのでしょうか。さまざまと考えられることはありますが、ひとつあげるとするならばあなたが、優秀すぎるからかもしれません。
不思議に感じられる人もいるかと思いますが、優秀な人ほど大事なことを見分けられなくなることが多いのです。その理由に、断ることを極端に嫌う風潮にあると考えられます。また優秀な努力家が陥りやすい失敗の道筋には次の順序があります。
第1段階「目標をしっかり見定め成功へと一直線に進んで行く」
第2段階「成功した結果『頼れる人』という評判を得る」
第3段階「やることが増えすぎて時間とエネルギーがどんどん拡散される」
第4段階「本当にやるべきことが出来なくなり、方向性を見失う」
第5段階「規律なき拡大路線に陥り失敗する」
(『マンガでよくわかるエッセンシャル思考』かんき出版)
第1段階と第2段階の流れであれば、多くの方が実践されている道筋でしょう。しかし第3段階に入る手前に分岐点があることに気がつかずに進んでしまうからほころびや崩壊が始まります。そして結果的に第5段階へ行き着くのです。
第5段階でいう「規律なき拡大路線に陥り失敗する」というところでは、アメリカの有名なビジネスコンサルタントであるジム・コリンズが、著書『ビジョナリーカンパニー3衰退の5段階』(日経BP社)のなかで、成功した企業がいかに衰退するかを分析しました。コンリンズによると、失敗の主な理由は企業が「規律なき拡大路線」に陥ったことだといいます。
つまり、多くを求めすぎたために衰退していったということになります。このことは企業だけの問題ではなく、そこで働く個々人にも当てはまります。人に頼られ、さまざまな依頼をこなすことで成功してきたという体験から、そのやり方が正しいと信じてしまうケースです。
それまでの正しいと思っていたやり方を変えることは難しいことです。しかし失敗の道に落ちた時ほど、場面転換をする好機はありません。
冒頭の文章で「二兎を追う者は一兎をも得ず」と触れたように、私たちは複数の条件を同時に満たすことが出来ないのです。仮に出来たように感じていることでさえ、簡単なミスが出てくるのは集中力に欠けた状態を具現化しています。
すなわち物事をひとつに絞って取り組むことが、質を高め良好な結果をもたらすことになるのです。
というものの私たちの思考は「どうずれば両方できるか?」と考え始めます。これこそが間違った認識です。
全てを優先しようとするのは、何も優先しないのと同意です。さらに「何を諦めたら良いのか?」ではありません。「何に全力を注ぐのか?」と、考え方を切り換えることです。小さい違いかもしれませんが、積み重ねることで人生に大きな差がついてくるのです。
3日常生活で出来ること
日常生活の中で、私たちにできることは何があるでしょうか。それは「あたりまえと感じることでさえ、しっかりと受け止めて全力で取り組むこと」です。
その当たり前のひとつひとつをしっかりと受け止めて全力で取り組むことで、これまで見えなかったことが見えてくることでしょう。
以下は日常生活でよくみかける「その時、その場」を切り取り列挙しました。“ものは試し”と意識してやってみてはいかがでしょうか。
3−1目が覚めた時
毎朝の目覚めについて「必要があって目が覚めた」とみて、目が覚めたらそのまま1度起き上がって、周りを見回してみましょう。もし起床するには早すぎるようであれば、見回した後に改めて眠りに入れば良いのです。また早起きに挑戦しようとしている場合は、狙った時間まで1時間を切っていればそのまま起きてしまう方が良いでしょう。二度寝をしては、狙った時間に起きれないどころか、1日を後手で過ごすことになってしまいます。気をつけていきたいものです。
3−2食事をする時
食卓にご馳走が運ばれてきたら、食事の時間が始まります。「いただきます」の挨拶で良く噛みよく味わいながらいただきましょう。そして「ごちそうさま」の挨拶で食材や調理者に対して感謝を表しましょう。
テレビや新聞、雑誌を見ながら食していたのではせっかくの食事を味わうことができません。しっかり、食事に意識を向けて味わいましょう。
3−3車を運転する時
ハンドルを握り、走り始めたら、うっかりなどということはできません。正面を見て運転に集中し、道路標識や周囲の車、人に心を配っていないと危険が伴います。もし考えごとをしながら運転をするようなことがあれば、信号無視や交通事故が起こっても不思議はないのです。しっかり意識を向けて、丁寧に運転しましょう。
3−4仕事をする時
経営者、会社員、主婦を問わず仕事に取り掛かったら、しっかり意識を向けて魂を打ち込んで精一杯にやり抜くことが大切です。気を抜いていたり、ぼんやり働いているようでは思いもよらない失敗や事故を招きかねません。
3−5休憩する時
心も体もゆっくりと休めることが大切です。休む時に思い切って休めない人は、仕事もいい加減になりがちです。仕事をしながら休むことを考えたり、休憩しながら仕事のことが気になっていては、どれも中途半端となってしまいます。休むときもしっかりと休むよう意識してみましょう。
3−6寝る時
“寝てまで心配する”ということが昨今では多いようです。寝る時間がきて、布団に横になっても、考え事を続けたり、テレビを見たり、寝タバコをしたりする人がいます。そういった人は寝つきが悪いばかりでなく、朝の目覚めも悪くなります。布団に入ったら、何も考えることなく心と身体を休めることに専念してみましょう。そうすることで熟睡できるだけでなく、翌日の働きも活発となるのです。
最後に
「その時、その場」の意識を明確にすることは、生活に“節度”をつけることになり、“更に充実”した毎日を送るための秘訣です。そして同時に自分自身にとっても、その時その場を全力集中して生活していることで、心の満足感や達成感を得ることにつながります。
今日1日を悔いなく生きることが、一月を作り、一年を作り、自分自身の一生を築きあげることに繋がっていきます。それは人生に於いて無上の喜びとなるでしょう。
全力で生きる心得は、小さな私利私欲を捨てた日々の行動に鍵があります。簡単で意識しやすい標語として「働きの心得」を提案し、終わりとします。
「は」…ハツラツとした返事
「た」…たのしいことを見つける
「ら」…らくらくとした身のこなし
「き」…きびきびとした行動
どれかひとつ心がけながら、日常の生活や業務に意識的に盛り込んで生活してみてはいかがでしょうか。意識しただけで今まで気がつかなかったものに出会えることでしょう。
その“気づき”こそが転換点です。新しい一歩を踏み出していきましょう。