「産後クライシス」という言葉はN H Kのあさイチという情報番組で最初に提唱されたようです。夫婦に子供が生まれた後に、夫婦関係が急激に悪化することをいうようです。
私のまわりや自分自身も含めて、産後に夫婦喧嘩が増えた、産後夫のことが嫌いになった、夫への不満ばかり出るようになった、という話はよく聞きます。
産後の状態をより深く理解し、産後を夫婦の危機にしないために出産前からどのようなことを覚悟しておけばよいでしょうか。
1.産後は夫婦の最大の危機である
産後に配偶者への愛情が冷めたり、離婚が発生しやすかったりすることを示唆するようなデータがいくつかあるようです。
ベネッセ教育総合研究所による調査では、配偶者を本当に愛していると実感する人の割合が、男女ともに妊娠期においては、およそ74%と全体の3/4程度であったのが、子供が2歳に成長した時点では、夫が51.7%と約半数、妻は34.0%と1/3程度に減少しています。特に妻側での低下がやや多いようです。
ベネッセ総合教育研究所
https://berd.benesse.jp/jisedai/topics/index2.php?id=4398
また厚生労働省によるひとり親世帯の調査報告書によると、離婚した時の子供(末子)の年齢で最も多いのが、「0~2才」であり、およそ全体の4割の方がこの時期に離婚されています。
厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188147.html
離婚の原因をどう切り取るかは個々のケースで異なるとは思うのですが、「産後クライシス」により愛情が冷め、離婚に発展してしまうことが実際あるかもしれないということです。
本来は、産後は新たな生命を授かり、1人の人間を育てていくという大変貴重で、学びの多い時間のはずです。
そのような貴重な時期に、夫婦関係を悪化させないためにも、出産後に一体どのようなことが起こるのか、少し理解を深めてみましょう。
2.妻の産後の身体面・生活の変化
出産により赤ちゃんが誕生することで、夫婦2人だった生活はある意味一変します。
妻はホルモン変化によって感情的に不安定になり凶暴化する
凶暴化という激しい言葉を使ってしまいましたが、少しデフォルメさせてもらって女性の産後の状態を、お伝えしてみようと思います。
出産により、女性の身体は大きな変化を体験します。
まずは、それまで妊娠を維持するためにたくさん出ていた女性ホルモンが一気に減少します。
エストロゲンとプロゲステロンです。
一気に抜け毛が増えたり、産後うつとは厳密には区別するのですが、出産直後の精神的な落ち込み(マタニティブルーズのひとつ)の原因ともいわれています。
私は第一子を出産直後に、産院から退院して家に帰る前日に、旦那の一言が許せずに泣き続けるという、それまでにない経験をしました。
旦那の一言とは「明日、蟹買いに行ってくるね」でした。退院して、新生児と一緒に初めて家に帰るのに、蟹を買いに行くとは何事だ!と怒るのではなく悲しすぎて泣いていました。
旦那にしたら「お祝いかねて買ってくるわー」という呑気な感じだったかと、今になって想像できますが、その時は全く普通に受け止めることができませんでした。
普段なら反応しない出来事に、いつもとは違う反応をしてしまうのです。
また出産後は、母乳を赤ちゃんにあげるためにそのためのホルモンがたくさん分泌されます。
母乳を作るホルモンのプロラクチン、そして、幸せホルモンともいわれる、母乳を噴出させ子宮復古を助けるオキシトシンです。
オキシトシンによる影響で、母親は赤ちゃんに対し愛情を抱きやすくなる面もあるのですが、一方で、母子の安全な環境をおびやかしてくるような、不快な刺激に対して攻撃的になるということが知られています。
よく、子熊を連れた母熊が、他の雄などに対して凶暴になる様子と同じです。
もし、父親が母子の安全で快適な環境を妨げるような行動をとったりすると、父親は敵とみなされてしまうかもしれません。
人間の場合、具体的には、赤ちゃんを寝かしつけている最中に大きな音を立てて、酔っ払って帰ってくるなどでしょうか。
オキシトシンの影響で、このような刺激があると母親は出産前によりも数段、イライラしたり怒りを感じる可能性は高いかもしれません。
ホルモンの増減により、出産前にはありえなかった、妻の感情的に不安定な一面や、攻撃的な一面がでてくるかもしれないのです。
妻は24時間365日体制のブラック勤務にげっそり
また、産後は赤ちゃんのお世話で、妻の生活もそれまでとは一変します。
赤ちゃんの授乳は、産まれてしばらくは、3時間おきが基本です。朝も夜もありません。
夜中寝てくれる赤ちゃんであれば、母親は少し助かります。
しかし、まだこの地球のリズムに合ってきてない赤ちゃんは、夜も関係なく目が覚めて、泣いたり、おっぱいやミルクを欲しがったりします。
はじめは慣れない授乳に、30分くらいかかり、(母乳の出が悪い場合は1時間とか)そのあとオムツチェックとオムツ交換、新しいものに交換したと思ったら、さらに赤ちゃんはウンチをして、また交換。
寝具やタオル、衣服などが汚れたらそれらを取り替えないといけないこともあります。洗濯物がどんどん増えていきます。
そんなこんなでてんやわんわしていると、1時間や2時間なんてあっという間に過ぎていきます。
そして、あとおよそ1時間後にはにまた授乳だと思いながら、寝てない赤ちゃんを抱っこやトントン、または、再度母乳をあげたりしながら寝かせるのです。
次の授乳までもうすぐだな、ゆっくり熟睡なんでできないな、寝てもきっとまたすぐ起こされるんだな、、こんな生活いつまで続くんだろう。あと最低でも1ヶ月は続くよな、、と絶望的な気持ちになることもあるかもしれません。
この産後の赤ちゃんのお世話の時期を、「まるで24時間の当直勤務が365日続くようなもの」とたとえる医療従事者の方は多いように思います。
会社勤務の方でしたら、24時間365日、お客様からオンコール状態で、呼ばれたらいつでも電話にでて対応しないといけない、そしてもちろん現場に駆けつけるのも当たり前、、という状態を想像してみてください。
どちらも想像するのも嫌なくらいブラック過ぎますよね。
そんな状態がいつまで続くのかめどもつかず、さらに、ワンオペ育児をしてる場合などでは夫もあまりあてにならずに、絶望的な気分になったり、いやになったり、うつになったり、怒りっぽくなったり、イライラしてしまうのは、いくら母親の仕事は赤ちゃんのお世話だと言われたとしても、そうなることは無理もないと思いませんか。
3.心理的な問題
産後のさらなる試練は、自分の内面と深く向き合わないといけない場面があるから、ともいえます。
妻はインナーチャイルドと向き合わないといけないために苦しむ
妻の中に多少なりとも、抑圧されてしまったインナーチャイルドがあるとしましょう。インナーチャイルドとは、自分の幼少期に心が傷ついたことや、満たされなかったつらいおもいのことです。
普段は抑圧して意識していないのですが、子供と向き合っていくうちに、奥深くに眠っていたインナーチャイルドが刺激され、なぜだかわからないのに、つらくなってしまうことがあります。
例えば、自分が赤ちゃんの時に、お母さんの母乳を欲しいだけもらえなかった、ということがあったとします。
この場合、自分が赤ちゃんをお世話する立場になった時、その思いが、よみがえってくるのです。
おっぱいを欲しがって泣いている我が子をみると、苦しい気持ちになったり、悲しい気持ち、そして、怒りの気持ちが湧いてきたりするのです。
しかし、これに気づいていない母親自身は、おっぱいがほしくて泣いている我が子をみて、なぜこんなにも自分が苦しかったり、怒ったりしているのかが、わからないのです。
また、例えば2歳児のイヤイヤ期と呼ばれる時期のことです。
子供のこうでないと嫌だ!という自己主張が始まり、それに対応することが、親としては振り回されすぎて、イライラして、怒りも猛烈に湧いたり、つらくてたまらないということがあるとします。
これも、自身のインナーチャイルドが刺激されている可能性があります。
我が子と同じように、自分が2~3才の時期に、自我が芽生え、自己主張を始めたとします。
自分の中ではこうでないと嫌だという思いが強烈にあるのに、うまく伝わらず、親から理解されなかったり、受け入れてもらえなかったり、ダメだと抑圧されたりした場合、その時の気持ちが思い出されて、とにかくつらくなるのです。
しかし親自身はその辛さの原因が自分の中にあるということを理解していなので、ネガティブな感情をさらに自分の子供にぶつけてしまいます。
インナーチャイルドを癒すと子育てが楽になると言われるのは、こういうことがあらゆる場面で起こってきているからです。
夫のインナーチャイルドも刺激されて家庭内はてんやわんや
さらに、今度は父親自身も、赤ちゃんの登場により自分自身のインナーチャイルドやバーストラウマが無意識のうちに刺激されて、つらくなることがあります。
バーストラウマとは、母親の胎内にいたときから生後3ヶ月までの心の傷のことです。
父親が赤ちゃんだった頃、産まれてしばらくは新生児室で過ごしていたことがあるとします。
生後すぐの母子分離は、子供にとってバーストラウマを助長させる影響があるといわれています。
例えば、妻の出かけている間、夫がひとりで赤ちゃんを1時間だけみている時のことです。
抱っこして、泣いたらミルクでもあげたらいいだろう、なんてたかをくくって気軽に引き受けたかもしれません。ところがです。
赤ちゃんが泣き止まないとします。ミルクも嫌がり、抱っこしても泣き続けます。もしかしたら、赤ちゃんはいつもと抱かれ心地が違うためにいやで泣いているだけかもしれません。でも夫は母親不在のため、赤ちゃんがさみしがって泣いていると思ったとします。
夫はこれが、またなぜだか自分でもよく分からないけれど、耐えられない気持ちになります。イライラしてきて、怒りが湧いてきたり、赤ちゃんの泣き声に逃げ出したくなる気持ちになるかもしれません。
父親自身が生後の母子分離を無意識のうちに思い出し、母親不在で泣く我が子をみて、耐えられないくらいつらい気持ちになるのです。
バーストラウマが刺激されてしまうのです。
つらさの理由もわからないので、妻が帰宅すると、ホッと安心するものの、もしかしたら、妻に対して怒ってしまう人もいるかもしれません。
もうこりごりだという気持ちになり、なんとなく育児には関わりたくないと、赤ちゃんのお世話をそのまま都合よく、母親任せにしてしまうかもしれません。
そうなると、母親はワンオペ育児にはまっていくことになり、そのまま夫が子育てを手伝わないでいると、ストレスを1人で抱え込むことになるのです。
お互いへの不満が増え、うまく伝わらないことで喧嘩になり、こじれて感情的にも爆発したり、離婚という言葉が喧嘩に出てきたりするのです。ものを壊してしまったり、相手を攻撃したり、そんなこともあるかもしれません。
4.まとめ
産後の妻の身体の変化や、生活の変化、そして子育てをしていると直面する大人たちの心の中の問題について、少し理解していただくことができたでしょうか。
産後はとにかく、妊娠期には想像もしていなかった世界が広がります。
それはネガティブなものもあれば、もちろんポジティブなものもたくさんあります。
今回はネガティブな側面を強調して書いてみましたが、これらを理解することで、産後に対して少し覚悟を決める材料になれば幸いかなとおもいます。