私達が毎日の習慣で使っている言葉にはとても深い感謝の意味があるのをご存知でしょうか?
それぞれの意味を知ると昔から日本人は生きていることへの感謝の気持ちを大切にしてきたことが分かります。
美しい日本語の意味を知ることで、日常生活がさらに豊かに幸せになると思います。
1.こんにちは
「こんにちは」という言葉はどの年代にも使える挨拶の言葉です。
最近では外国に行っても「コニチハ」と声をかけられることがありますから、年代だけでなく国境を超えた日本語の代表的な挨拶の言葉ですね。
「こんにちは」を漢字で書くと「今日は」となります。
一般的には今日とはTodayのことですから「今日は」と言ったらその後に言葉が続くことを連想させます。
実はその通りで、「今日は」の後にはある文章が続いていました。
「こんにちは」の語源について、哲学者であり作家の境野勝悟さんが高校生に向けて行った講演をまとめた『日本のこころの教育』の中でこう説明されています。
『いまでも、太陽のことを「今日様」と呼ぶ地方はたくさんあります。高知の土佐では「こんにちさん」、新潟の刈葉では「こんにっさん」、岐阜ではこれがなまって「コンニッツァマ」と呼びます。これらはいずれも太陽の意味なのです。
夏目漱石の小説『坊っちゃん』の中にも、「そんなことをしたら今日様(太陽)へ申し訳ないがなもし」というようなセリフがありますね。
昔は、どの地方でも太陽のことを「今日様」と呼んだのですから、「今日は」という挨拶は、「やあ、太陽さん」という呼びかけであったのです。』
つまりこの「今日様」が現代の挨拶で使われる「今日は」の語源のようなのです。
境野さんはさらにこう説明しています。
『「元気ですか」の元気とは、元の気という意味ですから、太陽の気をさすことになります。つまり、「今日は、元気ですか」とは、あなたは太陽のエネルギーが原因で生きている身体だということをよく知って、太陽さんと一緒にあかるく生きていますか、という確認の挨拶だったのです。
それを受けて、「はい、元気です」と答えます。つまり、「はい、太陽さんと一緒に元気に生きていますよ」と応答するわけです。』
昔から日本人は天照大御神に対して深い信仰心を持っていました。
朝になると太陽が昇りたくさんの光と恵みで明るく照らしてくださる。そのおかげで人間は生きることができる。
日本人は太陽の光に包まれて生きられることへの感謝を日常の挨拶にしてお互いに確認し合っているのですね。
2.さようなら
「さようなら」は「こんにちは」への返事の挨拶です。
「さようなら」の意味について境野さんはこうお話ししています。
『それから、「さようなら(ば)、ご機嫌よう」となります。「機嫌」とは、「気分」とか、「気持ち」という意味です。したがって、「さようなら、ごきげんよう」の意味は、「太陽さんと一緒に生活しているならば、ご気分がよろしいでしょう」となります。
「今日は、お元気ですか」「はい、おかげ様で元気です」「さようなら、ご機嫌よう」
これが、わたくしたちの挨拶の基本だったのですね。』
昔の日本人は自然の中での厳しい生活や貧しい暮らしの中で生きなければなりませんでした。
それでも毎日を光で満たしてくれる太陽への感謝を忘れないために「こんにちは」「さようなら」という挨拶を交わしていたのだと思います。
未だに世界ではテロや戦争が起きています。
最近では日本も北朝鮮からミサイルが飛んできたりして、じわじわとその脅威を感じるようになりました。
日本では昔のような飢えや貧しさはなくなりましたが、同時に生きていることへの感謝の気持ちも薄くなってしまっているかもしれません。
感謝が完全になくなると人間のエゴが膨らんで滅亡への道を進み始めます。
今こそ「こんにちは」と「さようなら」の美しい言葉の意味を理解して感謝の気持ちを確認し合う時なのかもしれませんね。
3.いただきます
食事を食べる前の挨拶である「いただきます」の語源は、神様にお供えしたものを食べる時や位の高い人から物を受け取った時に頭の上(頂)に掲げたことに由来すると言われています。
「いただきます」には食事を準備してくれた人達への感謝と共に、食べ物として命を捧げてくれた動物・植物への感謝の気持ちも込められています。
人間は動物・植物などの生き物の命を食べて生きています。
他の生き物の命をいただいて自分の命にしているんですね。
数年前に、突然お米が喉を通らなくなったことがありました。
何回咀嚼しても飲み込めなくなってしまい、その原因を師匠に聞きました。
師匠はたった一言こう言いました。
「お米は一粒一粒に命が宿っているからね」
その時の私はとても忙しく、食べる時も他のことを考えていて、ほとんど咀嚼しないで飲み込んでいました。
食べ物への感謝を全く忘れてしまっていたのです。
「お米の一粒一粒に命が宿っている」という言葉を聞いて、ボロボロと涙が溢れ出しました。
そして、ひとしきり泣いた後に心を込めて「いただきます」と言ってからお米を一口食べました。
するとちゃんと飲み込むことができるようになっていました。
師匠はその時に別の話もしてくれました。
大切に育てられた食肉用の家畜は人間のために命を捧げる覚悟ができている、というのです。
前述したように、人間は生き物を食べないと生きていかれません。
そのことを本当に理解している生産者は、やがて屠殺することになる家畜に全身全霊で愛情を込めて我が子のように育てるそうです。
家畜の命を無駄にしないように、食べた人が本当に健康に幸せに生きていけるように。
そうやって育てられた家畜は自分の運命を受け入れているため屠殺される時の苦しみが少なく上質な食肉になるのだそうです。
こうやって準備された料理を目の前にした時、自然に手を合わせて心からの感謝を込めて「いただきます」と言いたくなるのだと思います。
4.ごちそうさま
皆さんはお箸を横向きに置くのは日本だけに残った習慣だというのをご存知でしょうか?
お箸は7世紀頃に中国から伝来したと言われています。
昔は中国でもお箸をお膳の手前に横向きに置いていたようですが、その後、外国文化が入ってきたことからフォークやナイフと同じように縦向きに置くようになったと言われています。
韓国でもお箸は縦に置きます。
ではなぜ、日本だけがお箸を横に置くようになったのでしょうか?
それは、日本人が食事で使う道具以外にお箸に重要な意味を持たせていたからなのです。
重要な意味とは、「結界」です。
昔から日本人は自然の恵みに感謝して生きてきました。
食べ物は自然が与えてくれる最高の恵みです。
豊かな自然がなければ食べ物も生まれず、私達は生きていくことができません。
そのため、自然界を汚れた人間の世界とは別の清く尊い世界として神聖視してきました。
日本人の自然を尊ぶ精神がお箸の置き方に表れています。
お箸を横に置いた手前がこの世(人間の世界)であり、向こう側があの世(神様の住む神聖な世界)というように区別をしているのです。
そして前述したように「いただきます」と感謝することで、お箸を持ち、結界を超えて神聖な世界に入っていくことができると考えていました。
食事が終わった後は「ごちそうさま」と言ってお箸を置きます。
「ごちそうさま」を漢字で書くと「ご馳走様」と書きます。
昔は食べ物を提供するために大変な苦労をしました。
文字通り、あちこちへ走り回って必死に食材を集めてきたのだと思います。
そうやって苦労して供された食事に感謝する挨拶が「ご馳走様」なのです。
一つのお料理を提供するまでにはどれくらいの人が関わっているのでしょうか?
農家の人、お料理を作ってくれる人、給仕してくれる人までは想像はつくと思います。
しかし他にも、食器を作ってくれた人、食材を運んでくれた人、食事をする空間を設計してくれた人、テーブルクロスを作ってくれた人等々、一つのお料理をいただけるまでに信じられない数の人が関わっています。
そのことを想像すると、たった一つのお料理が食べられるということは奇跡なのだと思います。
自然の恵みに感謝して「(命を)いただきます」と挨拶して食事を始め、お料理に関わってくれた人達全員に感謝して「ごちそうさま」と言って食事を終えるのは、「食べる」という行為に対する最高の敬意を表すことなのだと思います。
5.ありがとう
「ありがとう」はそのまま感謝の言葉です。
漢字で書くと「有り難う」となり、本来は「滅多にないこと」「珍しくて貴重なこと」という意味だったようです。
以前、お笑い芸人のゴルゴ松本さんが少年院に入院中の少年達に向けて行った「命の授業」というのをインターネットで見たことがありました。
ゴルゴ松本さんは体を使って漢字を表現する持ちネタでブレイクした芸人さんです。
しかし、「命の授業」は真剣そのものでした。
その授業の中でゴルゴ松本さんは「ありがとう」についてこのように話していました。
「何もない人生のことを『無難』と書く。つまり難が無い人生だ。
でもここにいるお前らの中に無難に生きている奴は一人もいないな。
つまり、お前らは『有難』だ。
ありがとうとは『有り難う』と書く。
ありがとうを心から感謝して言えるのは無難な人生を生きている奴ではなく、有難な人生を生きている奴だ。
お前らは全員、心から感謝して『ありがとう』を言える奴らだ。」
人は順境な時にはなかなか心から感謝することはできませんが、逆境の時に応援してくれる家族や協力してくれる友人がいることに深い感謝の気持ちが湧いてきます。
本来はいつでも感謝の気持ちを忘れないために、日本人は日常の挨拶に感謝の気持ちを込めたのかもしれませんね。
6.感謝することで現実は変わる
生きていると悩むこともたくさんあります。
お金、人間関係、健康などなど。
こうした悩みや問題に直面した時に感謝の気持ちが思い出せると、状況が一気に好転することがあります。
先日、あることでとても悩んでいました。
そんな時に母が「あなたには笑顔でいて欲しい。笑顔で元気でいてくれたら、それでいい」と言ってくれました。
その言葉を聞いて心の奥から感謝の気持ちが湧いてきて、涙を流しながら「本当にありがとう」と自然に言っていました。
母も私からの「ありがとう」を聞いて喜んで泣いていました。
すると、不思議なことに悩んでいたことが全て解決してしまったのです。
感謝の気持ちはポジティブなエネルギーを生み出す最も有効な方法です。
もし今、何かに悩んでいたら感謝の気持ちを込めて大切な人に挨拶をしてみてください。
皆さんの気持ちが明るくなることはもちろんのこと、目の前の相手も幸せになると思います。
日本語の美しい挨拶の言葉を大切にして、より良い現実を作っていきたいですね。