はじめに
「終活」という言葉が一般的になったのは、2010年の新語・流行語大賞にノミネートされた頃からだといわれ、その後に専門団体の発足や関連書籍の出版などで一気に広がった背景があるようです。
近年、「終活を始めてみようか…」と動き出す人の中には、現在の社会現象を鑑みて、次世代に大きな負担をかけたくないという人もいるようです。
その社会現象とは、日本の少子高齢化が急速に進んでいることから、子供が一人の家庭や、子供がいない家庭、未婚者が珍しくない現象を考えての行動といえるでしょう。
また、残される遺族に対して、モノの処分や片付けによって負担をかけさせたくないという想いやりから、動けるうちに自分のものは自分で整理を進めていこうという考えが広がっているからだという見方もできます。
終活に関する内容としては、「エンディングノート」、「遺言書」、「財産分与」、「生前整理」、「医療」、「葬儀」等々が挙げられますが、今回は「生前整理」に関するものとして「モノの整理」について取り上げていきます。
1、モノの整理は「自分の整理」と「遺品の整理」に分類できる
終活には、「気力」「体力」「判断力」が必要になります。モノの量は年齢と共に増えていきますが、それらを整理する「体力」や「判断力」の低下には逆らうことができないのが“老い”の現実といえるでしょう。そのためにも、モノを増やさない工夫、思い切った身辺整理が必要となります。
「老い」にまつわる整理は、「自分の整理」と「遺品の整理」のふたつに分類することができますが、中でも、「自分の整理」では、「自分のための整理」と「残された家族のための整理」のふたつに分類されます。
「自分のための整理」として不用品処分を行うと、住環境や心がスッキリします。遺品整理を専門業者に依頼する人たちも増えています。ちなみに、遺族が処分に困る遺品のワースト5は、第1位から「写真」、「布団」、「本」、「コレクション」、「衣類」の順になります。故人の想いが詰まったモノほど遺族が処分に困惑する姿が伺えそうです。
2、わりきりも肝心。「それは、本当に必要なの?」
「何が、どこに、どれくらいあるのか家族にわかるようにしておきたい」、「親が車椅子を使うことになり、動線を確保するため、あわてて部屋を片付けることになった」など、終活世代の身辺整理にまつわる事情は様々です。
経験者の多くは、「持ち物を減らし、あるべき場所に収めることで、気持ちもスッキリして前向きになれた」と話しています。体・頭・心の3つをフル回転させる“身辺整理”は、終活のウォーミングアップに最適です。
身辺整理の成功の秘訣は「捨てるor残す」を明らかにすることです。つまり「わりきり」が肝心となります。
長年にわたり抱えてきたモノの量が膨大な方もいることでしょう。一度に片付けようと意気込むと挫折しがちです。そのためにも、計画を立てることがポイントです。清掃時間、場所、内容を決めて計画的に進めていきましょう。また、片付ける時は、「本当に必要なの?」と考えながら進めていくことが大切になります。
3、本当に持つべきモノの数量を決める。
永い人生を彩ってきた膨大なモノの整理・処分は、「気力」と「体力」ともに、かなりのエネルギーを要する作業となります。
そこで、取り掛かる前に「なぜ片付かないのか?」について理由を考え、書き出してみると良いでしょう。原因が分かれば対処法も明らかになり、片付けやすくなります。もしかすると、衝動買いや使ったモノを元に戻さない癖の見直しにつながるかもしれません。どんな持ち物をどのくらい持っているのかについて、把握したことはありますか?案外、思っている以上にモノを持っていることも多いのです。
片付け前後の様子を携帯カメラなどで撮影しておくと良いでしょう。片付ける前と後との歴然とした“見える化”は自分自身の励みになりますし、「散らかさない、増やさない」といった戒め効果にもつながります。
4、捨てる基準や期限を決めて取り掛かる
大量のモノを残したまま亡くなると、遺品整理で、家族や親族に経済的・心理的な負担をかけることになります。日頃から身辺整理をしっかりとしておけば、負担の軽減につながります。
「気力」、「体力」、「判断力」が衰えてからでは手遅れになる可能性もあります。ズルズルと先延ばしにせず、確実に終わらせるためには「何を?(対象)」だけでなく、「いつまでに?(期限)」を決めてから取り掛かりましょう。
作業を快適かつ効率的に進めるためには、予め「捨てる基準」を決めておくことが大切です。「◯年以上着ていない衣類は処分する」というように数字を使ったルールを定めます。捨てるかどうか迷った時は、「なぜ取っておきたいのか?」「いつ必要なのか?」、「どこで使うのか?」、「誰と使うのか?」といった問いを立て、モノと自分の関係を問い直してみることもオススメです。
身辺整理は、終活の入り口であり、基本となります・膨大な量のモノと向き合う人も多いと思いますが、「気力」や「体力」と相談しながら、計画的に進めましょう。
5、生前整理をした2人の場合
生前に、不要なものはキッパリと捨てて、本当に大切なものだけを残すことで、残された人の心の負担は軽くなるものです。そして、故人の思いやりは、家族への心にいつまでも刻まれていくものですが、例外もあるようです。
事例①
2012年10月2日、41歳の若さでこの世を去った流通ジャーナリスト・金子哲夫さんの妻で、終活ジャーナリストの金子雅子氏は、次のように話します。
「夫は、生前からものの片付けを進めていました。自転車や本などはすべて引き取り先を決めてありましたし、残りは『ハードディスク2台にデータをまとめたから、現物はすべて捨てていい』と私に具体的に指示したうえで、亡くなりました」
結果、遺品の整理は非常にスムーズに進み、金子氏は「夫は病に冒されており、肉体的には余裕がなかったはずです。その状況のなかで、的確に所持品の整理をしてくれた。残される私のことを第一に思ってくれた夫を、誇らしく思っています」と、夫に対する感謝の思いを語りました。
事例②
東京都練馬区在住K氏は、父・Yさんを2年前に亡くしました。
「実家を含む不動産(1000万円分)を兄が、預貯金700万円を私(K氏)が相続するよう、遺言書が残されていました。分配については、父の生前に兄を含めて3人で相談していたので、異論はありませんでした」
十分に死後の準備をしてあるように思えるのですが、父・Yさんは大きな過ちを残して旅立ってしまいました。それは、実家にある数多くの遺品について「私の宝物だから、2人で話し合って分けて欲しい」と書き残していたのです。
「兄は貴金属など、金目のものだけを持っていってしまった。一方で、写真のアルバムなど、不要なものばかりを私に送りつけてきたのです。あまりの意地汚さに嫌気が差し、兄とは疎遠になってしまいました。すべて、父が整理していなかったせいですよ」とK氏は語ります。
父・Yさんは、死後に子供たちが自分のことを思い出してくれるように、多くのモノを残したはずでした。しかしながら、結果的にその選択が家族の仲を壊し、残された家族にとって父・Yさんは、思い出したくもない存在になってしまったのです。
二人の事例から、全ての人の事象についても同様であることは言い切れないにしても、生前に思い切ってモノを処分してこそ、逆に、大切な人の記憶に留まることができると考えられるようです。
そして、家族を見送った方々の声に耳を傾けていくと、家族に思い出される人は、きれいに旅立っていることが伺えることでしょう。
(参考:『週刊現代』第61巻第14号2019年5月4日発行)
終わりに
「終活」における生前整理「モノの整理」は、自分のためでもあり、家族のためでもあります。大量の不用品を残したまま旅立つことになってしまえば、残された家族が処分しなければなりません。
小さなものから大きなものまで、不用品の仕分けや処分には肉体的な作業とともに、金銭的な負担がかかりますが、元気に動けるうちに身の回りのものを整理・処分しておくことは、家族のためになるだけでなく、自分自身の今後の人生においても、意味があります。さらに、生活自体も軽やかになることでしょう。
また、生前整理を行うことで「楽しい」、「嬉しい」という思い出から、ワクワクする場面も出てくるでしょう。しかし、中には「イライラ」や「モヤモヤ」とした気持ちが浮かんでくる場合もあるようです。
いろいろな感情や心情、考えが思い出されることは、悪いことばかりではありません。それは、“モノ”と一緒にしまい込んでいた当時の“感情”や“心情”を、改めて取り扱うことで、簡単に整理できる“モノ(感情や心情)”があるからです。
もし、自分ひとりで整理することが難しい“モノ(感情や心情)”があるとすれば、だれかの手をかりて、インナーチャイルドや幼少期のトラウマといった問題に、取り掛かってみるのもひとつの方法です。
モノを整理することで浮き上がってきた心理的な影響については、別の機会に詳しく考えを深めていこうと思いますが、最後にお伝えしたいことは“決して頑張りすぎない”ということを念頭に置いて、行動してほしいということです。
誰かに巻き込まれるのではなく、“自分のペース”で「モノの整理」をすることが大切になりますので、できるところ…できることから始めて、必要な時には誰かの手を借りるかたちで、進めてみてはいかがでしょうか。