わたしの今年のテーマの一つに「終わらせる」ということがあります。
今抱えているいくつかのプロジェクト、案件、タスクを「終わらせる」ということです。
「手放す」という表現がぴったりくる人もしれません。
「始める」ことについては、様々な書籍やセミナーが存在しています。
『起業』という言葉は、事業を立ち上げて始める。ということ。
『スタートアップ』という言葉は「始めからドンドン行こうぜ!」的な意味合いでしょうか。
しかし、なかなか重い腰が上がらず、エンジンがかかるまでに時間がかかる。
始めることは「難しい」と感じる人も多いのではないでしょうか。
産みの苦しみということもあるかもしれませんが、「始める」ことばかりではなく「終わらせる」ことを意識したことはあるでしょうか?
ものごとには「終わり」が存在しています。
「終わり」を意識することによって生かされることがたくさんあります。
「終わり」があるから
いま、この世の中に存在し「生きている人」は、今生きているという「生」は意識していることでしょう。しかし人の終わりである「死」を日常的に意識するということはほとんどありません。
特に日本という、世界でも類を見ない平和な社会で生活している私たちが「死」を意識するのは、近親者の死か、生命保険を考える時くらいです。
多くの人が見たくないものかもしれませんが「死」を意識することによって、いまここにある「生」をより大切なものとして認識することができます。
人は誕生に始まり、死を迎えることによって終わりがやってきます。終わりがあるからこそ、生きている間の「人生の質」をより高めようと懸命に生きることへと繋がるのです。
ゴールの無い辛さ
もしも人間に「死」というものが存在しなければどうなっているでしょうか。
手塚治虫さんの漫画「火の鳥」では、火の鳥の血を吸って永遠の命を手に入れ、何千年も生き続ける人間が出てきます。人間としての肉体が滅びても意識は生き続けるという話しです。
マラソン等の陸上競技では、競技として定められた距離の最終地点をゴールとして走り抜くことにより、その区間のタイムを競います。
登山では、目的地の頂上へ到達し、戻ってくることを楽しみます。
始まり(スタート)があって、終わり(ゴール)があることで、その間を懸命に進み、楽しむことができるのです。
しかし、終わりがない、目的地がなかった場合はどうでしょうか?
私は去年、北海道でジャガイモ畑の中をまっすぐに続く道を歩いていました。
目的地として設定したのは道の駅でしたが、道行く先に広がるのはジャガイモ畑のみ。一向にゴールが見え無い行きの道は非常につらく感じたことを憶えています。
空は曇りだし、夏なのに肌寒くなってきます。少し雨も降り始め「いったいどこまで、いつまで歩けばいいのだろう」と不安な気持ちが襲ってきます。
ところが同じルートを辿る帰り道は、小雨が降って、疲れてはいるものの精神的には非常に楽な気持ちで歩くことができました。
それは、行きの道で距離を実感し、ゴールの存在を認識していたからです。
「終わり」を設定すること
事業(ビジネス)においては「終わりを設定」することによってビジネスがより生きてくるということがあります。
これから事業を始める人にとっては「これから始めようと思っているのに、終わることを考えるの?」と思われるかもしれませんが、これから始める「事業」という枠組みであれば「いつまでやるのか?」ということを最初に決めておくのです。
さらに付け加えるのであれば、
期限の「終わり」が来たからと言って必ず終わらなければならないわけではありません。目安としての目的地を決めておきます。
終わりをいつにするかは人や事業の内容によって様々です。
「死ぬまでやる」という人もいます。
5年、10年をめどに。という人もいるでしょう。
短期決戦!1年で結果をみてやめる。という人もいるかもしれません。
「終わり」を設定することにより、
目標設定がやりやすくなったり、期限までにやるべきタスクリストを作りやすくなったり、事業承継という点でもスムーズになる可能性があります。
「終わり」がないデメリット
事業経営の場合であれば「終わり」がないということは、いつまで続くのか分からない。ということでもあります。
残業をしていて「いつ終わるのか分からない」仕事ほどつらいものはありません。「終わり」が見えていれば、気持ちも楽になります。
事業であれば、倒産したときが終わり。という考えもあるかもしれません。実際には事業が行き詰ってから「終わり」を考えていては遅すぎで、理想的な「終わり方」とは程遠い状況に陥ってしまいます。とても幸せな終わり方とはなりません。
先ほどの「ゴールの無いルートを進む」のと同じで、事業においても終わりがない仕事は効果的な成果を生み出しにくくなる可能性があります。
また、事業承継では「社長がいつまでやるのか分からない。」ことによって後継者となる従業員が社内で育たないという側面もあります。
社長は
「自分の跡を任せられる人材が育っていないから、なかなか辞められない」と思っていて、
社員や役員は
「社長がいつまででもやってくれそうだから、大丈夫」と思っているかもしれません。
事業を誰かに継がせることなく、自分が死ぬまではこの事業を続けて、それで終わり。ということであれば、生きている間に自分自身ができる限りのことをやり切る。ということができます。
誰かに事業を引き継いでもらいたいのであれば、期限を決めることで後継者の育成や外部からの採用を考えやすくなります。
「終わり」を明確に設定することは、自分自身にとっても、事業に関わる周りの人にとっても目的地が見えやすくなり、より進みやすくなるのです。
「終わらせる」意識
話が大きくなってきましたが、あなた自身が抱えている一つ一つのタスク、案件、プロジェクト等を「終わらせる」ということを意識してみてはどうでしょうか?
私は今年一つのプロジェクトを終わらせることを決めました。
ある経営者の方と一緒に経営セミナーを5年間開催してきましたが、パートナーの方の年齢的なこともあり、今年の春にプロジェクトを終了することを決めました。
「終わる」ことを決めるまでは、いつまでも続けたい。という思いと同時に、「いつまで続くのだろう」という不安のようなものもつきまとっていました。
いま振り返ってみると
- 「スタート時に5年間やりましょう」と期限を決めて始める。
- いつの間にか5年が経過して、そろそろ終わりにしよう。
というのでは、5年の過ごし方が大きく違っていたのではないかと思っています。
もしも、当初に終わりを決めて始めていれば、5年という期間の中でセミナーを通じて伝えられることは何か?とある程度は計画的に運営できたかもしれません。
しかし、実際には期限を決めていなかったことで、その場その時の思いに合わせてセミナーの内容を決めていっていました。
「終わり」を意識することによって、「今」とこれからをより大切にするという意識が働くようになります。
「終わる」ことで次が始まる
- 現状からなかなか抜け出せない
- 変わることができない
- もっと現状を変えていきたい
そんな方におススメなのが、
いま手の中にあるものを一度手放し、場合によっては「終わらせて」みるということです。
終わらせることを意識すると、終わりを迎える部分に余裕が生まれます。
すると、その余裕ができた部分を新たなもので埋めようと考え始めます。
終わることによって、新たな始まりを受け入れる準備を始めることが容易になるのです。
一年の始まりに「終わる」ことを考えるのには違和感を感じられるかもしれませんが、「終わり」を意識することによって、今のあなたを超えることへと繋がっていくのではないでしょうか。