今回は、自分自身の“ものの見方”を改め、気持ちを切り替えることで、自然と相手が変化するだけでなく、環境までも変化していくことが実感できるような考え方を展開していきます。日常にある人間関係に当てはめながら考えてみてはいかがでしょうか。
はじめに
世間一般には、人は人、自分は自分と、別々の生き物だと考えられているようです。こうしたことは、文字で理解するよりも、実際に私たちの周囲にある関係に置き換えて考えて見ると捉えやすくなります。
親子関係、夫婦関係、その他の人間関係においても、個々人において別々の身体を持ち、考えを巡らせ、行動していることから、“別々の生き物”と考えられているようです。しかし、こうしたことは外側から眺めたひとつの側面であって、実は自分の心に思ったことを、向かい合った相手(他者)が演じてくれている場合が多くあります。
とても耳にすることが多い「人の振り見て我が振り直せ」という諺は、他者の姿や、やっていることを見て、自分自身を改めようという意味を持っています。
例えば、他の人が持っている癖などで「嫌だな…」と感じる場面に遭遇した時に、“自分は大丈夫だろうか”と確かめるように省みることができれば、自分自身を改める場面として活かすことができます。しかし、「嫌だな…」と感じるだけで終わってしまっては、自分自身を改め、成長するチャンスを逃してしまう勿体無い出来事として捉えることができるでしょう。
また、「木を見て森を見ず」という諺を耳にすることもあるでしょう。私たちはどちらかというと、相手の欠点や短所ばかりに目をつけてしまいがちです。さらにひどくなると、欠点や短所ばかりを拡大解釈し、相手を嫌がり、憎み、攻撃するような行動になってしまうことがあるようです。
そのために、相手の真意や良さ、立派なところを見いだすことが難しい状態になり、「自分が変われば相手が変わる」といった真理をつかむことができずに、相手を変えようとする力を強くかけてしまうようです。
すると、自分自身も苦しみ、踠き、苦しむような“負のスパイラル”に陥り、自分の置かれている環境にまで、悪い影響が出始め、手がつけられなくなります。
手のつけられないような難しいことになると、私たちはそのものを見たくないと感じ、誰かの“せい”にしてしまいがちです。誰かのせいにしてしまえば、悩み苦しむことなく、全てが済んだように勘違いしていますが、巡り巡って問題ごとはまた目の前にやってきます。
問題ごとが大きくならないうちに解決するためにも、私たちの周囲にある人間関係に焦点を置いて、考えてみることにしましょう。
1、親子の関係
親の立場からすると、我が子の幸福を願わない親はいないことでしょう。しかし、深い愛情を注いでいるにも関わらず、親の思い通りにならない場合が非常に多いと嘆いている方々が多いのではないでしょうか。
また、親の思い通りにいかないばかりか、徐々に横道に逸れて非行の道に進んでしまう現象が発生してしまうこともあるようです。考えられることは多く列挙できるかもしれませんが、「親と子は別々の人格なのだから、仕方がない」と諦めてしまっては、非常に勿体無い考え方といえます。
価値観の多様化等による親子関係の歪みは、そもそも親自身がこれまでに感じてきた生き方に、自信を失うことに始まるものが少なくないようです。こうしたことが考えられるのは、親と子には目には見えない強い絆がしっかりと結び合っているからこそ、現象化したと考えられます。
このような視点を持つことに、反発したくなる方もいるかもしれませんが、子供は親から血液を受け継ぎ、肉体を分けて持ち、精神も分け与えられているものですから、子供の癖や行動などをみて、その子が気に入らないといって責めてはいけません。むしろ注意深く、よく“観る”ことが大切になります。
子供は常に、親の心に映った思いや行動を通して周囲と接していくものです。これには、時を同じくして現れる投影や、一定の時間を隔てて投影されたり、遠い距離を置いて投影されたりと様々な形で現れてきます。
だからこそ、まず、子供に向ける視線を自分自身に向けて、これまでの生活を省みて、改め、切り替えることに焦点を当ててみてはいかがでしょうか。
2、夫婦の関係
誰もが家庭に求めるのは、明るくて、互いに何一つ気兼ねもなく、心の中にシコリを残すことなく思ったことや考えたことを遠慮なくアッサリと言える温かい家庭ではないでしょう。そうした家庭の主軸をなすのが、夫婦の関係です。
夫婦が互いに仲良く協力し、自らすすんで相手に合わせることで、夫婦の“和”が創られていきます。反対に、相手にのみ要求を出し続け、求め続けていては自分本位の暮らし方となり、わがまま勝手な振る舞いが増えてしまうと、家庭の主軸である夫婦関係のバランスを崩してしまうことになります。
こうしたアンバランスな状態が続く事で、お互いの心に負担をかけ、次第に生活に乱れが生じ、家庭全体に暗い影が宿り始め、子供や事業に影響を及ぼしてしまう可能性がありますが、気にしすぎて動けなくなってしまってはどうすることもできません。
お互いに、お互いの置かれている立場を十分に理解して、主体性を持って精一杯に行動を起こしていく事で、夫婦の絆はより深まっていくことでしょう。しかし、自分自身は一向に行動せず、「私には関係ない」という気持ちが強ければ強いほど、互いの関係性に深化を臨むことはできません。
夫婦は互いに向かい合った合わせ鏡のような関係であり、夫(妻)の心行いが妻(夫)の心や生活、状態に反映して、それらを通じて、己の姿を客観的に見つめることができます。自分をじっと見つめるのに、相手を叱ったり嫌ったりするのは筋違いです。そうした時こそ、自分をまず省みて反省し、改めるようにすることが大切になるのです。
3、相手と私の関係
周囲の人との関係をよりよくしていくことは、日常生活を充実させるだけでなく、社会生活においても大切なことと理解されていることでしょう。そして、仕事の効率を向上させ、自分自身の働きがいを感じる大元も、人間関係にあるといえるでしょう。
誰もが人間関係の向上について考え、心の中では「仲良くしたい」と願っていても、現実にはうまくいかずに悩んでいることもあると思います。
様々と考えられる理由はありますが、そのひとつとして「相手が悪いからこうなってしまった」というように、相手のせいにして、人をどうにか変えようと働きかけることばかりに力を注いでいることが考えられます。
物事がうまくいかない理由は確かに存在していることでしょう。しかし、そうした問題に対して、自分ではない誰かのせいにしているうちは、解決策を見つけることは難しいかもしれません。
昔から、文字や言葉を使わなくても、お互いの心と心が通じあう“以心伝心”といわれるように、憎まれるのは、こちらに憎む心が存在していることがあります。また、嫌がられるのは、嫌がる心が自分自身の心の中にあるからこそ、「仲良くしたい」との心があったとしても、うまくいかないと考えられます。
こうしたことは、目にはみることのできない“心の動き”ですから、自分自身の心と向き合わなくては感じることができません。ですから、まずは、うまくいかない理由を、相手に原因があると決めつけずに、自分の“心”にあると受け止め、自分自身の行動を改めていく必要があります。
そして、行動を改めるにも色々と浮かび上がってきそうですが、すぐにできる行動として“相手を尊敬する”ことを意識して、物事を考えてみてはいかがでしょう。尊敬するとは、相手にあるのではなくて、あくまでも自分の気持ちにあります。相手の“善いところ”を見つけるように、観ていくことによって“尊敬の芽”が出てきます。反対に、欠点ばかりを見るようになると、相手を責める心が芽生え、軽蔑するように観るようになります。すると、人間関係の歪みや亀裂が生じてしまいます。
尊敬の第一歩は「あいさつ」です。心を込めて、明るい挨拶を交わし合うことで、いままで通わなかった心が通いあうようになります。
嫌だと思う人、苦手になっている人に対しては、特に意識して接近することが大切になります。もし、それでもダメなら、その人に尽くすことです。嫌だとか、ダメだと思うのは、まだ本当の良さを知らないところからやってくるものですから、尽くすことの足りなさからくると思ってもいいでしょう。
どんなに小さなことでも効果は徐々に現れてきますので、どうすれば喜ばれるかを考え真剣に行動してみてはいかがでしょう。そうしたことを続けることで、今まで見えなかった、素晴らしいところが見出されてきます。そして、自分の見方や考え方に偏りがあったことに気がつくことができます。
相手を尊敬する心は、こうした行動の積み重ねによって、自分のものになりますので、ぜひ挑戦してほしい取り組みのひとつです。
相手と私の関係を見つめ直すことで、色々と気づくことが多くなりますが、注意しておかなければならないこともあります。それは「自分が思いをかければ、相手も思いをかけてくれる」という場合です。
“相手”とは、あくまで、自分の身近にいる人、もしくは何らかの関わりを持っている人をさしていますので、全く無関係のテレビ等に出てくる俳優や女優に対して、こちらが思いをよせればいいかというと、そうではありません。
最初から結びつくものが何もなければ、関係性はありませんので、思い込みのないようにしておかなくてはなりません。
最後に
日々の生活や職場において、私たちは何かしら気に触られることがあると、腹を立てたり、怒ったり、悲しんだりします。しかし、どうしてこのようなことになるのか考えてみると、心のどこかで「自分の望む通りに行動してほしい」と望んでいるからではないでしょうか。
向き合った二人、または多くの人との関係がうまくいかない時、単純に相手が悪い、間違っていると捉えた時に、自分の心を見つめることが大切になります。
相手のことを「善い」と感じることも、「悪い」と感じることも、すべて自分が判断していることですから、「どうしてこのように考えたのか」と自分自身の心と向き合って考えてみるところに解決の糸口が見えてきます。
“親子関係”、“夫婦関係、”相手と私の関係“を取り上げてきましたが、日常には様々な関係を持って私たちは生活をしています。そのひとつひとつの関係において、「自分が望む通りにしてくれない」と不足不満を持つよりも、自分自身の心に意識をおいて考えてみてはいかがでしょうか。
人は皆、合わせ鏡のようになっているので、自分の心の状態が相手に映像のように映し出されていると考えることができます。
例えば、自分がニコニコして話しかけると、相手もニコニコして話をしてくれるものだし、相手が朗らかに話しかけてくると、自分も自然と朗らかになることがあるでしょう。
つまり、親子、夫婦、友人、隣人等々全ての人が、相互に反射し合う鏡のような関係にあるので、相手を変えようと力を使うのではなく、自分自身が変わろうとする方向に、力を注いでみてはいかがでしょう。
こうした取り組みを通して、自分自身が変わった分だけ相手が変わっていくことを実感することがます。さらに、日々問題ごとだと感じていることに対しても、解決していく見通しをつけることに繋がることでしょう。