ひといちばい刺激に敏感なHSC(Highly Sensitive Child)の子育てにおいては、親が大きな忍耐を必要とする場合が少なくありません。
他の子どもが気にならない些細な匂いや音、味覚や肌触りが、HSCのお子さんにとっては我慢ができないほど不快なものであったり、他人の感情や物事に対して深い洞察力を持って本質を見抜いてしまう性質のために、急な変化や新しい環境に慣れることや、目の前の小さな選択にも、ひといちばい時間がかかります。
「どうして他の子がさっさとできることが、この子にはできないの?」
「どうしてこんな些細なことが気になるの?」
「ウチの子、臆病で引っ込み思案で、1人でいることが多くて心配」
などなど、親にとっては自分の都合や社会で求められるペースに合わせて動かない子どもに対して、ついイライラしてしまいがちです。
HSCに限ったことではありませんが、子育てにおいて親がイライラする本当の原因は、親が子どもに自分の子どもの時代を重ね合わせて、その時の癒されていない心の傷が反応することによっておこります。
逆に言うと、子育てというかけがえのない人生の体験を通して、親が自分の「置き去りにされた子ども時代」をもう一度体験して癒すことができれば、親も子どもも「より自由になって、自分らしい人生を生きる」ことが可能になっていくでしょう。
この記事では、親が子育てを通して自分の小さい頃の体験を思い出し、癒されていない心の傷を癒す具体的な方法について、書いています。
親が子育てを通して自分のインナーチャイルドを癒す方法
Step1 自分の子ども時代を思い出す
あなたが子育てをしていてイライラするのは、例えばどんな時でしょう?
子どもがさっさとやるべきことをやらない、ご飯の途中で席をたったり行儀が悪い、部屋を散らかして片づけない、兄弟喧嘩が絶えない、いつまでも起きていて寝てくれない、などが一般的でしょうか。
ここで気づいておきたいのは、いずれも子どもが親の都合に合わせてくれないという理由で、イライラしてしまっているということです。
子どもも1人の人間ですから、本来は子ども自身のペースがあるはずです。
HSCのお子さんなどは、その繊細な性質ゆえに他のお子さんよりも時間がかかったり、人に合わせたペースで動くことが難しいことも多々あるでしょう。
親が自分の都合を脇に置ける忍耐を持って、子どもの気持ちに共感する余裕があったり、子どものペースを待って見守れると良いのですが、実際にはそうもいかず、強く叱りつけたりすることで、つい思い通りに子どもを動かそうとしてしまいます。
実は親自身が子ども時代に「良い子」だった場合ほど、子どもにイライラする傾向は強いようです。
その理由は、自分自身が「自由に天真爛漫に振舞って、駄々をこねたり、好きなことをすることを許される」そんな子ども時代を抑圧してきたことにあります。
「自由な子ども」であることを抑圧する必要があった理由は、親が忙しくてあまり構ってもらえなかった、親が厳しく子どもをコントロールする傾向があったなど、人によって様々でしょう。
何れにしても、無力な子どもの頃は、親の機嫌を損ねたり叱られたりすることは「見捨てられること=自分の命の危機」ぐらいのインパクトがあり、そういったことを避けるために子どもは必死で自分の気持ちを抑えて「良い子」を演じるよう行動を学習し、身につけていくのです。
子どもにイライラする原因は、子どもらしく自由に振舞う子どもを見ると「必死で自分の気持ちを我慢して良い子を演じていた」あなた自身の子ども時代の傷が刺激されてしまうからなのです。
抑圧された子ども時代を、心理学の分野では「インナーチャイルド(内なる傷ついた子ども)」と呼んでいます。
子育てを通して親が自分のインナーチャイルドを癒す最初のステップとしては、「自分の子ども時代に感情にフタをした、具体的な出来事を思い出す」ということが必要になるでしょう。
インナーチャイルドが、苦しい親子関係を作る仕組みについては、こちらの記事も参考にして下さい。
Step2 感情の箱を開けてみる
幼い時に不安や悲しみで心が痛むような出来事や、大きなショックを受けるような出来事を体験するとき、その時に感情を感じ切ることができないと、感情はその場で圧縮され心の深いところに保存されます。
本当は不安で寂しくて泣きたかったのに、それを表に出さないようグッと我慢した。
本当は親に自分の気持ちを聞いて欲しかったのに、それができず自分の気持ちを閉じ込めた。
そのような時、我慢した気持ちや感情は本当に消えてなくなってしまうのではなく、小さな箱の中に無理やり押し込まれてフタをされ、そのまま心の中に存在し続けることになるのです。
その閉じ込められた感情の箱があるために、外からの刺激(子どもの言動)に繰り返し反応が起きて、イライラする自分をコントロールすることができません。
通常1人の人の中に抑圧された感情の箱はいくつもいくつも存在し、大人になっても心の中に残ったままです。
子どもの言動など外からの何らかの刺激によって反応がおきた時に、もしその箱の存在に気づいて、もう一度その感情を体験する(=感じ切る)ことができれば、感情の浄化によってその箱ごと心の中から消えていきます。
箱がなくなってしまったら、もう同じ刺激が入ってきても心が反応することはありません。
子どもが泣いても騒いでも、感情的になることなく冷静にフラットに出来事を受け止めて、対処ができるようになります。
子どもの言動によって強い感情が湧いてきた時が、自分の心の中の感情の箱に気づけるチャンスです。
まずはStep1のプロセスとして、この反応は自分の子ども時代のどんな体験からきているのだろう、ということに思いを巡らせて感情に関係しそうな自分の子ども時代の体験を思い出してみましょう。
そしてStep2として、その時の感情の箱のフタを開けて感じられなかったインナーチャイルド(小さなあなた)の感情をもう一度実際に感じてみるのです。
寂しくて本当は泣きたかったのならちゃんと泣き、親に怒りを感じていたのならその怒りをちゃんと感じるようにします。
このプロセスは根本的な癒しのためには、時と場所を選んでしっかり取り組む必要があるでしょう。
過去の感情を手放すための具体的な方法については、こちらの記事も参考にしてください。
Step3 本当はどうして欲しかったのか、どうしたかったのかを掘り起こす
感情の箱を開けてある程度感情を浄化することができたあと、次にやるべきことは、その時本当は親にどうして欲しかったのか、自分はどうしたかったのかをちゃんと認識する作業です。
できれば文章にして、実際に書き出してみましょう。
「本当は母親に、何も言わずただ気持ちに寄り添って欲しかった」
「辛いね、さみしいねと、自分の言葉にできない気持ちを言葉にして共感して欲しかった」
「もっと甘えたかった、一緒に遊んで欲しかった、もっとスキンシップして欲しかった」
など、自分の当時の本当の欲求に気づくことが大事です。
これを認識すると、また感情が出てくるかもしれませんが、その時はもう一度感情の箱を開け、残っている感情をしっかり感じてあげましょう。
「自分の当時の本当の欲求」が感情と共に箱に閉じ込められたままでは、結局は自分の親と同じことを子どもに繰り返してしまいます。
親のスキンシップを本当は求めていたことに気付けないままでいると、無意識のうちに自分の子どもとのスキンシップに抵抗が出るかもしれません。
もっと甘えたかったのにずっと我慢していたとしたら、自分の子どもが甘えてきた時になぜかイライラするということも起きるでしょう。
癒されていないインナーチャイルドが心の中にある限り、それは親子間で連綿と引き継がれていってしまいます。
それはつまり、自分の親もまた同じようなインナーチャイルドをその親との間に作ってしまっていたということでもあります。
もし親であるあなたが今インナーチャイルドを癒すことができたら、子どもに自分と同じ思いをさせることはないでしょう。
親子間の「トラウマの連鎖」を切るためにも、自分の子ども時代の本当の欲求に気づくことはとても大切です。
Step4 傷が大きい場合は専門家のサポートも選択肢に入れる
小さい時に抑圧した感情をちゃんと感じ切ること、そして当時の自分の「本当の欲求に気づくこと」ができたら、できればその欲求を今の生活で満たせる方法を考えてみましょう。
小さい頃にスキンシップを欲していたのであれば、今のパートナーに満たしてもらう。それができないようであれば、気持ちの良いボディマッサージなどで自分を癒したり、子どもと一緒にあえて思いっきりスキンシップを楽しむということも考えられるかもしれません。
現実的な行動が難しい場合は、イメージの中で大人になったあなたが、「小さなあなた」を抱っこしたり、頭を撫でてあげたり、「寂しかったね」と声がけをする、というのも効果が期待できる方法です。
場合によっては当時の欲求が顕在化されるだけでもインナーチャイルドがある程度癒されて、子どもに対する反応に良い変化が出てくることもあるでしょう。
もし、子どもにイライラする原因となる自分の子ども時代の体験が全く思い出せないというような場合は、専門家のサポートを受けることを選択肢に入れてみてください。
深刻なインナーチャイルド(トラウマになるような深い心の傷)になればなるほど、出来事を思い出すことすら難しいことが多いためです。
信頼できるカウンセラーに相談する、インナーチャイルドを癒すエネルギーワークを受ける、感情に振り回されないよう感情のトレーニングを受けるなど、自分に合う方法をぜひ模索してみてください。
まとめ
- ひといちばい敏感なHSCの子どもの子育ては、時に大きな忍耐を必要とする
- 子育てのイライラの根本原因は、抑圧された子ども時代を過ごした親のインナーチャイルドに起因する
- 親がインナーチャイルドを癒すことができれば、親子間の連鎖を止めることができる
- 自分でインナーチャイルドをいやすステップとしては、心の反応にリンクしている小さい頃の具体的な体験を思い出す→感情を再体験する→当時の本当の欲求を顕在化する→今の生活で欲求を満たす方法を考える、またはイメージの中で「傷ついた小さな子ども」の欲求を満たしてあげる、の順で行うことが効果的
- 自分で行うことが難しいインナーチャイルドについては、専門家のサポートを受ける
現代に生きる私たちは、誰もが何らかのインナーチャイルドを抱えていると言えるでしょう。
冒頭でも書いたように、子育ては、親が子ども時代を再体験し、抑圧した感情や傷ついたインナーチャイルドを癒すことができる貴重な機会です。
子育てでイライラする出来事から自分の心の傷に気づいて癒し、子どもの気持ちに心から共感することができるようになることは、親自身が子ども時代のトラウマから本当に解放され、自由に自分らしく生きることができるようになっていくことです。
心の中に生き続ける「傷ついたままの小さいあなた」の存在気づき、辛かった感情を癒したり、満たされなかった欲求を「大人になったあなた」が満たしてあげることができたら、親子間のインナーチャイルドの連鎖をあなたで止めることが可能です。
親であるあなた自身が癒されることが、子どもの人生にとっての最大のギフトとなるでしょう。