生物種全体の82%が絶滅するという大量絶滅が起こったデボン紀末。
その後の時代、石炭紀。
この時代は、デボン紀で多様化した植物が繁栄し、地球の酸素濃度が高かったことでも知られています。
この時代に石炭の原材料となる植物が繁栄し、3億年ほどの時を経てその石炭が18世紀後半からの産業革命を支えることになります。
期せずして後の経済発展の一役を担うことになったこの時代は、どのような時代だったのでしょうか。詳しくみていきましょう。
名前の由来
この時代の地層から大量の石炭が発見されたことから名付けられたこの時代は、古生代の後半、デボン紀の後、ペルム紀の前の地質時代を指します。
今からおおよそ3億5920万年前から2億9900万年までがこの時代にあたります。
名付けたのは、ランダフの主任司祭であり、地質学者・古生物学者でもあるウィリアム・ダニエル・コニベアと地質学者であるウィリアム・フィリップス。
彼らは、共著で石炭紀とそれ以降の地層について広範で正確な証拠とともに考察した『イングランドとウェールズの地質学概要 (the Outlines of the Geology of England and Wales, 1822)』を出版しました。
この地層から石炭が産出されていることから、当時は非常に大きな森林が形成されていたのではないかと推察されています。
石炭の形成に関わっているのが、石炭紀の2つ前の時代であるシルル紀後期に登場したリグニンを持った植物です。
リグニンは植物が立ち上がるために必要となる物質であり、植物が地上高く成長するためには欠かせないものです。
ただ当時はまだそのリグニンを分解できる生物がいなかったため、植物は腐りにくいまま地表へと蓄えられることになりました。
石炭は、植物が完全に腐敗分解する前に地中に埋もれ、そこで長い期間地熱や地圧を受けて変質したことにより生成した物質の総称です。
つまり、植物が成長・繁栄し、なおかつ生物がリグニンを獲得する前の期間、もしくは植物の遺体が酸素の少ない水中に沈むことで生物による分解が進まない場合にだけ石炭の原料が存在するということです。
地球環境
この時代の地球は、年間を通してあまり気候の変動はなく、一年中熱帯気候であったといわれています。
また、この時代は、酸素濃度が高く、30~35%もあったとされています。
そもそも光合成をおこなう生物が誕生したのが約35億年前。
まず、光合成の副産物として、酸素が徐々に海中に放出されるようになります。
海中に放出された酸素は隕石に含まれていた海中の鉄イオンと結合し、酸化鉄となり、鉄鉱石として海底に蓄積されていましたが、そこから約15億年という長い年月の中で、とうとう海中の鉄イオンは消費されてしまいます。
そして、約20億年前、酸素が大気中へと放出し始めます。
その後、大気中の酸素濃度は徐々に増加し、1%(パスツール・ポイント)を超えたのが約6億年前。
ちなみに、酸素濃度が1%を超えるとアルコール発酵は起こらず、炭化水素は二酸化炭素と水に分解されるようになります。
パスツールポイントを超えてから飛躍的に生物の発展が起こるようになりました。
また、大気中の酸素の一部は紫外線の作用によってオゾンへと変わり、約4億年前にオゾン層が形成され、生命にとって陸地は安全な環境へと変貌を遂げました。
石炭紀は巨木たちが大量に二酸化炭素を吸い上げ、酸素を放出していたため、地球の歴史上もっとも酸素濃度が高い時代であったと推察されています。
ちなみに、過剰な酸素は生体にとって有害です。当時の酸素濃度のもとでは、私たち人間は生きてはいけません。
地質
地質的には、中部ヨーロッパを模式地とするバリスカン造山運動の活動期にあたります。
バリスカン造山帯は、ユーラシア大陸とゴンドワナ大陸の間に生じ、西はアパラチア造山帯南部、東は天山造山帯、北はイングランド南部・北ドイツ、南はアフリカ北部に及びます。
ゴンドワナ大陸とユーラメリカ大陸に挟まれて存在していたライク海は、シルル紀からデボン紀にかけて広がっていましたが、バリスカン造山活動によりその北側と南側にしずみこみ帯が形成され、石炭後期まで堆積物がたまっていました。
そして、石炭紀の終わりには、大陸の衝突によりライク海はなくなってしまったのです。
当時は、他にもシベリア大陸、カザフスタニアという小さな大陸やパンサラッサ海、古テティス海がありました。
古テティス海は、3億9000万年前に出現し、パンゲア大陸を形成する陸塊に周囲の多くを囲まれた内海です。
参照)
ゴンドワナ大陸、シベリア大陸、カザフスタニア、パンサラッサ海:
地球の歴史 オルドビス紀 https://www.ichigojyutu.com/roots/ordovician/
ユーラメリカ大陸:
地球の歴史 デボン紀 https://www.ichigojyutu.com/roots/devonian/
植物
石炭紀は、デボン紀に多様化した植物が繁栄した時代、つまり陸上植物が本格的に進化を始めた時代であるといわれています。
当時は、一年を通して植物が成長できるくらい穏やかな気候であったため、陸上では巨大なシダ類が繁栄していました。
中でもリンボク(レピドデンドロン)は大きいもので直径2m、高さ38mのものが存在したとされています(現生のバラ科樹木にリンボクがありますがそれとは無関係です)。
巨大なシダ類は、標準的なものでも20m〜30mの高さもあり、それらが湿地帯に大森林を形成していたのです。
森は強烈な勢いで空中に、おそらく現代よりも多くの酸素を送り出しました。
これが前述した大気中に高濃度の酸素が存在した原因です。
そして、この植物によってもたらされた地球環境が、陸上で最初の大きな動物である節足動物の発達へと導いたのです。
動物
巨木が作る森林によってもたらされた高濃度の酸素環境のもとで、虫は大きく成長を遂げていきます。
当時の地球は巨大な虫たちであふれていたのです。
羽の差し渡し60cmの巨大昆虫が空を飛び、体長1mのヤスデの仲間(アースロプレウラ)が地面を這い、体長4mを超す両生類が陸を歩いていたと考えられています。
さらに、この時代には、体長15㎝もの大きなゴキブリの存在も確認されています。しかも空を飛んでいたとか。あまり想像したくないですが…。
この時代、陸上脊椎動物はまだ極めて小さかったのですが、機能的には革新的な進化がもたらされていました。
それは、羊膜を持つ卵の発達です。
これによって卵は、胎芽を乾燥させることなく気体を入れ替えられるようになり、水中で保存される必要がなくなりました。
つまり、この羊膜の獲得によって陸上で産卵と孵化が可能になったということです。
この機能を獲得する前まで四足類は、卵を産むために水中に戻っていました。
しかし、羊膜を持つ卵を産んだ爬虫類は、水中から独立した生活を送っていました。
羊膜を持つ動物は一生を陸で過ごすことができ、徐々にその生活がうまくなっていったのです。
爬虫類と哺乳類の祖先である単弓類もこの時代に登場しました。
そして、当時の海の中は、棘皮類の一種であるウミユリ類が多様性を高めました。
いっぽう装甲やトゲを持った魚は衰退し、サメ類やシーラカンス類が繁栄を始めていました。
まとめ
石炭紀についてまとめてみました。
動物は羊膜を手に入れ、その生涯を陸上で過ごすことができる種類が出現し、哺乳類の祖先も現れるなど現存する生物へと続く新たな進化の段階を迎えました。
いっぽう、酸素が豊富なこの時代は、今からは想像できない巨大な生物により彩られ、それがのちに石炭として我々人間の文明発展に寄与することになります。
この時代の生物が石炭になるまでにかかった長い年月の間に、生物もまたそれを使いこなせるほどに進化したというのは、何とも不思議な感じがします。