地球が誕生したのが約45億4000万年前。
その後、地球はどのような歴史をたどったのでしょうか。
地質学上もっとも古い時代、先カンブリア時代の冥王代と地球の歴史をひも解くために重要な年代測定法についてみてみましょう。
先カンブリア時代とは
先カンブリア時代とは、地質時代の中で最も古い年代です。
ちなみに、地質時代とは生物の進化と絶滅を基準に分けられます。なので、化石の新発見があったり、年代測定法が進歩し新たな知見が得られたりすると年代の数字が変わってしまいます。
現時点では、先カンブリア時代は、地球が誕生した約45億4000万年前から肉眼で見える大きさで硬い殻を持った生物の化石が初めて産出され、生物界の様子がわかる約5億4200万年前までの約40億年間のことを指します。
地球の歴史をひも解く手がかり―年代測定法―
私たちはどのようにしてはるかかなた昔の地球の状態を知ることができるのでしょうか。その助けとなっているのが、化石・岩石・遺物・遺跡といった現在手に入れられるものから、その古さ(絶対年代:具体的数値で出される年代)を測る自然科学的方法である年代測定法です。
年代測定法には、年輪年代法、氷縞粘土編年法(ひょうこうねんどへんねんほう)、放射線炭素法、フィッション‐トラック法、熱ルミネッセンス法などがあります。
年輪年代法
年輪年代法とは、年輪の幅の変化のパターンから年代を決める方法です。20世紀にアリゾナ大学のA.E.ダグラスによって発明・発見されました。
気候の年周期性が明瞭な地域に生息する樹木は1年ごとに年輪を形成しています。この年輪の成長量は気候などの環境要因によって左右されるので、樹木に刻まれた年輪をみるとその気が生育していた時代の環境変動がわかるのです。
つまり、同じ時代・地域に生息していれば、たとえ種類が違っていても同じような年輪パターンを示すのです。この共通の年輪パターンの変化をグラフにしたのが標準年輪曲線になります。
氷縞粘土編年法
氷縞粘土とは、氷河の浸食作用によって氷河に取り込まれた粘土質の細粒が氷河の末端で氷が溶け、流されて堆積した縞状の細粒堆積物のことです。
夏場などの熱い時期には氷河が溶けやすく、より粗い(重い)粒の堆積物を流すことができ、冬場になると氷河の溶ける量が減り、より細かい(軽い)粒の堆積物しか流すことができなくなります。
そのため、氷河の後退した方向に、このような氷縞粘土が地表に現れているところ(露頭:ろとう)を追って、それぞれのところで氷縞の地層の重なっている順序(層序)を比べていくと、氷河が後退した時期やその速度を知ることができます。
この方法を使って年代を推測するのが氷縞粘土編年法です。
放射線炭素年代測定法
放射線炭素年代測定法の発明は、20世紀の発明の中でも最も重要なものの1つに挙げられています。リビー博士が生命体には放射性炭素 (C14)が存在していることを唱えました。
植物は光合成によってC14を含んだ二酸化炭素を取り込み、動物は食物連鎖によってC14を取り込みます。そして、生命の終わりとともに生物圏の炭素のやり取りも終了するわけですが、そのときからC14は放射性崩壊の割合に従って減少します。
そのため、C14を測定することでその生物の死後の経過時間を推測することができるとしました。
これによって、炭素を含む有機物、貝・アンゴライトなどの生存時期の測定が可能となるわけです。つまり、過去数万年から現代にいたるまでの地球そして人類の歴史を解明するためには重要な手法なのです。
フィッション―トラック法
フィッション‐トラック法は放射線炭素年代測定法と同じく放射年代測定の方法の1つです。ただし、こちらはC14ではなく、天然または人工の鉱物に必ず含まれるとされているウラン238を用いています。
ウラン238は、自然に核分裂を起こし、その核分裂片の通過した跡が飛跡として記録されます。この飛跡は非常に安定で、常温で保存することができます。
したがって、鉱物中のウランの原始数と飛跡の数から年代測定ができるのです。
熱ルミネッセンス法
熱ルミネッセンス法は、石英など鉱物が自然界で受けた放射線量 (PD)と試料採取地点が1年間で受けている放射線量 (AD)を測定し、年代を推定する方法です。
炭素を含んでいない土や砂などの鉱物を原料とした土器・陶器などが作られた年代を直接測定する方法として提唱されました。
詳細は省きますが、土器などに摂氏500度くらいの熱を加えて発する蛍光から年代を推定します。
冥王代
先カンブリア時代は冥王代、始生代(太古代)、原生代に分けられます。
冥王代はいちばん古く、地球誕生から40億年前までの約5億年間を指します。
この時代に地球が形成され、地殻と海ができ、有機化合物の化学進化の結果、最初の生命が誕生したと考えられています。
化石どころか岩石自体もほとんど残っていないため、地質学的証拠がほとんどない時代です。実態が闇に包まれているところから、ギリシャ神話の冥界の神ハーデースにちなんで名づけられました。
では、岩石もほとんどない時代のことをどのように知ることができたのでしょうか。
これは、太陽系内の他の星や隕石の研究によって可能になりました。
なので、地球の情報だけしか得られなかった1970年代までは、この時代における地球の進化はわからなかったのです。
冥王代の地球
この時代の地球には多くの小惑星の衝突があったと考えられています。
NASA率いる国際研究チームは、直径960km以上の小惑星が1~4回衝突したことで地球全体が大きく変化し、さらに直径480km以上の小惑星が3~7回衝突したことで海が沸騰して干上がったと推測しています。
恐竜を絶滅に追い込んだとされる隕石が直径約10kmということを考えると、直径がその48~96倍もの大きさに当たり、いかに冥王代の地球に衝突した小惑星が大きかったのかが推察されます。
その小惑星の衝突で地球の一部はマグマの海と化すいっぽうで、その反対側には青い穏やかな海が広がっていたのです。
この時代に生物が存在していた可能性も示唆されていますが、その証拠は見つかってはいません。
この過酷な環境で、もし生物が存在するとすれば地中深く、もしくは海底地殻深くに生息していたのではないかと考えられています。
生物の遺伝子分析によれば最も古い生物は熱に強い好熱菌や超好熱菌に分類されるので、もしかすると隕石衝突を生き抜けたのかもしれません。
月の誕生―ジャイアント・インパクト説―
この時代の数ある衝突の1つから月が誕生したとするのが「ジャイアント・インパクト説」です。
これは、約45億年前、地球が誕生して1億年くらい経ったときに火星ほどの大きさの原始惑星「ティア」が衝突して、飛び散った破片から月が生まれたのではないかというものです。この衝突エネルギーはとても大きく、衝突後の地球と月は双方とも全体が溶解状態であった可能性が高いとされています。
カリフォルニア大学の地質学者エドワード・ヤング博士の研究グループは、「アポロ12号」「アポロ15号」「アポロ17号」が月から持ち帰ってきた7つの月岩石サンプルをハワイ諸島やアリゾナで発見された火山性岩石と比較、分析したところ、酸素同位体に違いがみられなかったとしています。
これは、その比率から惑星の由来を知るいわゆる指紋のようなもので、火星や木星など他の太陽系の惑星は、ほとんど異なる同位体を持っています。
つまり、地球と月は同じ惑星が由来なのではないかと考えられるのです。
まとめ
太陽系の中で唯一生命が誕生するのに適した環境(ハビタルゾーン)にある地球の歴史の始まりである冥王代とそれを知る手がかりについてまとめてみました。
現代は、地球の生物多様性の劣化を示す「生きている地球指数 (LPI: Living Planet index)」が1970年代と比較して、世界平均で52%低下しているといわれています。その環境悪化の要因が人類による「地球の使い過ぎ」だそうです。
最古の歴史を通して、地球にとっての新参者である私たち人類が長年に渡る蓄積を一瞬にして壊しうる可能性について考えてみてもいいかもしれません。