はじめに
日本人の寿命はどんどん延び、“人生80年時代”から“人生100年時代”へ向かっています。そのため、「第2、第3の人生に備えて、大人も勉強して自己研鑽をしよう」という動きになってきました。
そして、日本政府でも「寿命が延びていく日本において、老後を含めて、健康でイキイキとした人生を国民が送るためにはどういった社会にすべきか」ということを議論し始めていますが、私たち“個人”としてはどうでしょうか。
例えば、一般的に会社員としての定年は60歳〜65歳となっていますが、その時点でリタイアした場合、人生100年時代においては、その後の人生が40年程度残っていることになります。
すると、自ずと、リタイア後に行う仕事や社会貢献が必要となってくるでしょう。となれば、その時に備える気持ちで、スキルや知識を身に付け、これまでの人生で得た情報(スキルや知識)を整理しておく必要があるのかもしれません。
近年、人生の最期に向けた事前準備、いわゆる「終活」に関心が集まってきているのも、「第2、第3の人生をいかに生きるか」と考える人の増加に関係がありそうです。
なかには、“終活”は自分にとって「まだ先のこと」と思いがちの人もいますが、長生きするからこそ、現役時代の棚卸しを兼ねて、早めの「終活」で、“意思表示”をしておく必要が求められているといっても過言ではないでしょう。
そういったこともあってか、近年では親しい人たちになかなか言えない意思表示を文字にして残す「エンディングノートの書き方講座」や終活について学ぶセミナーが各地で開催されるようになりました。
*エンディングノートについては、別の記事で詳しくまとめていますのでこちらをご覧ください。
▷「人生の棚卸しで、より良い人生を!『エンディングノート』の魅力とは?」◁
自分の両親や夫婦、家族間では、なかなか話しづらい話題かもしれませんが、元気なうちにコミュニケーションをとりつつ、自分の意見を話したり、相手の意見を聞き取ったりする時間の大切さを考え、行動を起こしてみてはいかがでしょう。
今回は配偶者の有無や性別で情報をまとめましたのでご覧ください。
1、既婚女性の場合
女性は男性より平均寿命が長く、夫婦間の年齢差などを考えると、妻が長生きする可能性が高いのが実情でしょう。
一家の主人としての夫に頼りきりの妻も、伴侶をなくしたとき、的確な決断をするための情報収集力や判断力、細々とした指示をする能力などが求められるでしょう。
一般的に考える女性の強みは、子育てや地域活動などを通じて培ったものを含め、いざという時の支援を頼める関係づくりに、日頃から努めることが大切になると考えられます。
細かく取り上げると収拾がつきませんが、ポイントとして3つ取り上げます。
(1)同じ境遇で信頼できる人とつながりをもちましょう。
女性は男性に比べると、子育てやご近所付き合い、趣味などを介した交友関係が豊かです。現状を互いに話し、似たような経験があって信頼できる人との繋がりを持つことが、実用的で精神的な面で支えとなるでしょう。
(2)日頃から夫や家族と情報共有をしましょう。
死生観(延命治療、葬儀、お墓など)や交友関係について日頃から話題として触れるようにして、夫の考えを把握しておくといいでしょう。何気ない日常の会話から得る情報は、いざという時の判断や対応をスムーズにします。
(3)財産や家計の管理は“見える化”していきましょう。
財産管理は、一家の主人に任せきりという人が多いかもしれません。財産管理、家計の管理には積極的に携わり、お互いに共有しておくことが大切です。
できれば半期ごとに内容を更新し、家族で共有しておけるとより良いでしょう。
【体験談】
※PTA関係の友人が親切に支えてくれました。(U氏)
余命宣言を受けていたため、落ち着いて準備に臨めました。夫が健康なときに延命治療などについて話していたのが、このとき役立ちました。子供に負担をかけたくないために互助会に入り、墓は永代供養を購入。葬儀の準備については、PTA関係の友人に相談しました。
2、既婚男性の場合
配偶者との死別によるストレスは、女性よりも男性の方が大きいと言われています。妻を亡くした喪失感で、うちにこもりがちになり、抑うつ状態から抜け出せなくなり、最悪の場合になると、妻を追って自殺する男性もいるようです。
多くの男性がこうした状態に陥る原因は、家事を含む生活全般を妻に任せきりにしただけでなく、妻の存在が無意識のうちに日常のペースメーカーとなり、心のよりどころになっていることが大きいことです。
ここでも、ポイントを3つ取り上げていきます。
(1)食生活は健康維持の要です。
体力が低下していくことで、精神力も衰えていきます。もし、料理をすることが得意でないなら、初心者用の料理番組や料理本、料理教室などを利用して、栄養バランスの良い食事を作れるように取り組んでみてはいかがでしょう。
(2)打ち込める趣味を見つける。
「妻と一緒に過ごす時間に慣れていたので、ひとりきりの時間に押しつぶされそうになる」という話は、よく耳にします。趣味や特技は、喪失感や孤独感を埋める手助けをしてくれます。妻とは別の世界で過ごす一歩を踏み出してみてはいかがでしょう。
(3)同じ境遇の話し相手を見つける。
何気ない会話は癒しの効果があり、声を出すことは健康に繋がるといわれています。しかし、男性の場合、おしゃべりが得意な人は少ないようです。そのような時は、似たような境遇を持つ人と触れ合う機会を進んで持ってみてはいかがでしょう。
もし、何もやる気になれないということであれば、カウンセラーなどの専門家の力を借りるグリーフケア*も有効です。前向きな考え方を得られるかもしれません。
*「グリーフケア」とは、身近な人と死別して悲観に暮れる人が、その悲しみから立ち直れるようそばにいて支援することをいいます。一方的に励ますのではなく、相手に寄り添う姿勢で対応してくれるイメージです。
【体験談】
※簡単な料理本を頼りに自炊に奮闘する日々(I氏)
若い頃から病弱だった妻を10年間の介護の末に看取り、悲しみから回復するのに4年かかりました。いわゆる企業戦士だったので一番苦労したのは炊事。レンジで調理できるメニューが紹介されている本を片手に取り組み始めました。この年になって自立力の大切さを感じています。
3、おひとりさまの場合
「おひとりさま」といっても、未婚の方から、既婚の方で配偶者に先立たれた人、離婚した人など、様々な状況があると思いますが、共通している点を取り上げていきます。
ひとりで生活している人にとって、「寝たきりになったら…」、「事故や病気で、植物状態や脳死状態になった…」と、自分に起こる最悪な事態を想定して手立てを講じる必要性があります。
もし、自分が亡くなった後には、病院の支払いや親族への連絡、葬儀の手配、埋葬、納骨、家財道具の処分、借り住まいの人は解約手続きなどの事柄が待っています。考えただけでも頭を抱えてしまいそうですが、元気なうちに準備を整えておくことが大切になるでしょう。
(1)エンディングノートを作成してみましょう。
終末期に必要なことを把握するために便利なノートです。記録した内容は、今後の生活において活用したり、応用したりすることが可能になります。
作成を進めるうえで、具体的なアドバイスが必要な時は、専門家に相談したり、無料の相談会に参加したりしてもいいでしょう。
(2)必要な知識を身につけましょう。
終活を進めていくと、専門的な言葉が多く登場してきます。なかには、聞いたことがある言葉でも、その言葉の意味を間違えて理解していることもあるようです。
まずは「知っている」という意識を外して、初めて触れるような意識を持って、学んでいくといいかもしれません。または、セミナー等に参加して、大枠を掴んでからひとつひとつの言葉を読み直すことで、理解も効果も得られることでしょう。
(3)自分の意思を実現させてくれる人や団体を探してみましょう。
必要な情報を集めてくると、やるべき項目が多数あることに気がつくと思います。すると、ひとりでは準備することに疲れて、活動を停止してしまう人もいるようです。
こうしたことにならないためにも、期日を決めて計画的に進めることが大切になるのですが、忘れてはならないことは自分の意思に共感し、協力してくれる人や団体との繋がりが重要です。
自分に合ったパートナーを探しながら、進めてみてはいかがでしょう。
【体験談】
※おひとりさまを支えるサービス態勢を求む!(Y氏)
夫を19年前に亡くし、現在79歳のおひとりさまです。終活講座で大枠を掴み、必要事項をリストアップし、市役所で紹介された見守りや葬儀が一体となったサービスの利用を検討するなど、準備を進めていますが想像以上に大変。具体的なアドバイスと補助してくれる態勢が欲しいです。
さいごに
“終活”という言葉から連想されやすいのは、葬儀やお墓、相続などに意識が行きがちです。しかし、「終活=生き方」と捉えると、残されている時間を“いかに生きるか”という意識が働き始めます。すると、“終活”を始めるということは、今後の人生において欠かせないものになるのではないでしょうか。
定年退職を迎えた方々向けに「残された人生をどのように過ごしたいのか」と聞けば、「亡くなる最後の最後まで元気ハツラツで行動し、コロッと旅立ちたい」と話す人もよくいるようですが、実際には「病気(病院)と付き合いながら」上手に生活している人が多いように感じます。
もしかすると、“最後の最後まで元気ハツラツ”という言葉は、自分に起こる全てのものと折り合いをつけて、上手に楽しく生活をしていくことなのかもしれません。
また、病気になったからといって、気を落とすことなく「できることを、楽しんで生きる」という生活スタイルからも、病気と対立した生活ではなく共存した生活にシフトしているようにも感じられます。こうしたことは、周囲の助けや助言があっての考え方かもしれません。
残される家族に精神的・経済的な負担をかけないように準備することも大切ですが、“自分自身がどのような第2、第3の人生を送りたい”のか、しっかり家族や周囲に言葉にして話して伝える“意思表示”をしておくことが大切であり、周囲がそれを求める時代になったのかもしれません。
これを機会に、そのままを話してみませんか?
<参考図書:編:クラブツーリズム、監:終活カウンセラー協会、『終活の教科書』、辰巳出版株式会社、2013年初版>