「時間は有限であって、無限ではありません。行動あるのみ!」といわれても、具体的な内容を掴めずに、立ち尽くしてしまった経験はないでしょうか。
今回は、“時間”に焦点をあてますが、なかでも「自己時間をいかに活かすか」ということに注目していきます。漠然としている“時間”について考えを深めて、日常・職場生活に落とし込み、行動の一助になれば幸いです。
はじめに
与えられた時間を有効的かつ効果的に使用するということは、現代人が生きていく上で必要不可欠な課題ともいえるでしょう。
しかし、社会において人々の相互関係や相互作用の形態や、社会において定められている制度や組織などといった社会構造の著しい進歩とともに、そうした中で生活している人々の精神構造も大きく変化してきていることは、考え方や言動の解釈の仕方などに現れてきていると考えられます。
さらに、私たちの身近な “時間”に着目していくと「時は金なり」という言葉が浮かんでくるようです。時間はお金同様に貴重なものだから、決して無駄にしてはならないという意味を持つ諺ですが、日常の中で本当に“時間”を活用できているかと改めて考えてみると、少し不安な気持ちになる人も多いのではないでしょうか。
また、中国の思想家で、哲学者でもある孔子は、「逝く者は斯くの如きか。昼夜を舎かず」と、川のほとりに立っていわれたといわれています。この言葉にも“時間”の大切さが教えられています。
“時間”を大切にする考え方は、先人たちの教訓から学ぶことができます。現代人である私たちにとって、「男女の別もなく公平に与えられている24時間を、いかに有効に活用していくか」という思いが浮かんできますが、これでは抽象的で、どうしても漠然なものになってしまします。
こうした時間に対する漠然的な状態に、時間の“要素”を加えて、有効的かつ効果的な“時間を活用する”方法を考えてみてはいかがでしょうか。
1、はじめに考える“時間”の活用法
時間について考えを巡らせるにしても、漠然なものになりがちです。また、有効活用をしていこうと考えれば考えるほどに、数多くのことが浮かび上がり、混乱してしまいます。
数多くのことが浮かぶことは素晴らしいことなのかもしれませんが、収拾がつかずに行き先を見失ってしまっては活用することはできません。こうした現象は“時間”というものに限らず、全般的な問題を突き詰めていく時にも出てくる悩み事のひとつになっていることでしょう。
色々な選択肢や考え方があると思いますが、まずは「時間を活かすこと」「時間を守ること」の2点に注目して考えていくことにしましょう。
1)時間を活かそう
物質文明の急速な進化によって、私たちは遠距離移動を可能にさせ、膨大な情報量を手にすることができ、どんなに離れている人とも会話ができるようになったことは、とても喜ばしいことのように思います。
しかし、そうした急激な変化についていくことができずに、自分自身の心を苦しめ、精神的に病んでしまう人が増加していることは見逃すことのできない現象のひとつではないでしょうか。
時間というものは、誰にでも1日24時間平等に与えられています。その限られた時間をどのように活かして、活用するのかは大切なことと誰もが理解しているところでしょう。そして、時間の活かし方によって、時間に追い回されるといった精神的苦痛からの脱却にもつながるかもしれません。
「時間が足りない…」「もっと時間が欲しい…」「忙しくてできない…」との声をあげる人々の中には、口癖のように発言している方も見受けられます。しかし、“時間単位”や“分間単位”、“秒間単位”で時間に追われている人たちの立場からすると、便利“すぎる”文明が生み出した“心の叫び”なのかもしれません。
現状の環境や文明、人や組織を一朝一夕に変えることはできませんが、自分自身の心を転換していくことについてはすぐにできるはずです。その点で有効なのが、工夫をして時間を活用していくということです。
講道館柔道の創始者であり、柔道・スポーツ・教育分野の発展や日本のオリンピック初参加に尽力し、「柔道の父」と呼ばれ、また「日本の体育の父」とも呼ばれた嘉納治五郎氏は、「よく時間がない、時間が足りぬとかこつける人があるが、時間というものは、たとえば泉のように、いくらでも出て来るものである。たとえばここに一升枡があるとして、その中に粟を一升入れたら、もう何も入らないかといえば、決してそうでなく、その粟の間に豆粒をいれれば、まだ大分入るわけだ。もう入らないかといえば、その間に粟粒を入れたらまだ相当入る。それに水を入れたらまだまだ入るだろう。そのように時間の活用には、上には上があるもので、それをもっとも有効に利用したものに、もっともっと立派な仕事ができるものだ」と、当時の学生に向けて“時間は工夫して作るもの”ということを教えていたようです。
生きている時代に違いはありますが、私たちも時間の有効活用について考えてみてはいかがでしょうか。少し考えを巡らせてみることで、スキマ時間の活用法を生み出せるかもしれません。
2)時間を守ろう
私たちが生活をしている社会は、集団の生活です。そして、この集団の中で個と個が円滑に交流を深め、進めていくためには、どうしても時間を決めて約束を交わし、それを正確に実行していかなければ、お互いに噛み合わない結果となり、時間を守らない個人は相手に迷惑や損失をかけることになります。
5分前行動は社会人の基本などと言われていますが、こうした行動は円滑な人間関係を築いていく行動のひとつとして取り上げることができるでしょう。また、“できる人”といわれる方々のなかで、遅刻グセのある人はいないと断言できるのではないでしょうか。
会社勤務の人でも、いつもの出勤時間を過ぎて出社して来る人の仕事ぶりは、どうしても円滑に進まないばかりかトラブルを引き起こしてしまう傾向が強く現れています。反対に、出勤時間を守り、早めの出社をして来る人はひとつひとつの仕事に対して意欲があり、誰がみても気持ちのいいもので、周囲の環境までに影響を及ぼし、結果的に活気溢れる環境を作り上げていくようです。
また、職場内において“仕事ができる”といわれる人は、契約や売上等の実績だけを判断されるものではなく、“人からの信頼”といわれる人望の厚さも評価に入っているようです。
稀に、「人望はあっても成績が伴わない…」といわれる方もいるようですが、人からの信頼がなければ、いつか大きなミスを引き起こす可能性が高いだけでなく、ミスをカバーしてくれる人望もないことから、周囲から見放されてしまうことも少なくないようです。
仕事というのは、約束の積み重ねで成果が決まるものと受け止めてもいいでしょう。仕事の大きい小さいといった違いはあるものの、約束の繰り返しであることに変わりはありません。約束を守ることで信頼が生まれ、繰り返していくところに人間関係が構築されていきます。
つまり、人からの信頼を積み上げることが何よりも大切なことになるということです。そうしたなかでも“時間を守る”ということは、人と人との信頼関係を強くしてくれるものですから、必ず守るとの決意で行動していけると良いでしょう。
2、細分化して考える“時間”の活用法
まず初めに考える「時間の活用法」については、“活かす”ことと“守る”ことを取り上げてきました。この二つを日常生活に落とし込んで、行動していくことはとても重要なことになりますが、さらに細分化して取り組むとしたらどのようなことが考えられるかという切り口で、時間の活用法を3つの要素に分けて考えていくことにしましょう。
1)時間の自己組織化
自己組織化とは、簡単に表現するなら、無秩序な状態において外部からの制御なしに、自らの力で秩序が形成されることといえます。そのため「時間の自己組織化」となると、それはすでに目の前の様々なタスクを活用して秩序を生み出させるようなイメージとなるでしょう。
具体的には、目の前にある日々それぞれの起床、出社、退社、帰宅等の時間をあらかじめ設定し、設定した時間に合わせて行動を起こしていくような方法です。しかしながら、全てのタスクを細かく定めて、こだわり過ぎると、かえって精神的なストレスとなる可能性があるので、最低限を定めて遂行していくようなバランス感が理想的です。
そこで、まず起床時間を設定し、行動を起こすことから始め、1日のスタートに秩序のきっかけを求めると良いでしょう。
これなら日々の生活に張りが出てきて、良い影響も期待できます。
2)時間の心理的要素
先ほど取り上げた起床時間によって、その日のスタートが決定することがあります。しかし、毎回同じ時間に起床することができないこともあるでしょう。そうした時は、できなかった自分を責めることなく、どうしたらできただろうかと考える時間を持ち、次に挑戦できるよう“心”の状態をリセットすることです。
また、時間帯によっては心理的な起伏が、著しく変化することもありますので、日常的に自分自身の心の変化を客観的に分析してみることも大切になります。
その結果、自分の力が発揮できる時間帯に、重要な案件(仕事)をスケジューリングするなどの改善を自分自身で考え、進めてみることができると更に良いでしょう。
3)時間の運営技術
運営技術となると、組織や仕組み等を動かしてその機能を発揮させるための技術のことをいい、特に企業体で使われる言葉になるようですが、個人を運営する技術としての時間に注目していきましょう。
ここでは、「1)時間の自己組織化」にも通じるところがありますが、個人(自分)を運営するという面で、時間の割り振りに意識を向けていくことが大切になります。さらに、より重要なことから優先することが大切になることを忘れずに取り扱っていきましょう。
3、最後に
私たちは、明日のことを考えてくよくよしたりします。また、過ぎ去ってしまった昨日や、過去の出来事に対していつまでも囚われた生活をする人も少なくありません。しかし、私たちは“今”に生きていることを忘れてはいけません。
自分の生命は、今の一瞬に存在します。そして、その生活は、“時間の流れの中に存在している”のです。なかでも将来を見据えて考えを深める方々は、益々伸びようとしているので、時間に対する意識は非常に高いことが伺えます。
個々人において、時間について考えを深め、有効活用していくことはとても大切な要素となります。多くの技術論を提示すれば、限りなく取り上げることができますが、計画通りに進まないのも“時間の特殊性”として捉えることができます。
突然の出会いやふれあいというものは、私たちが行動した時に起こりやすくなるものです。そのような時こそ、出会った人やモノに対する考え方を柔軟に保ち、その処理の仕方を緩やかな“心”で受け止めていくことが重要になります。
つまり、そうした柔軟な心を支えているのが“時間の活かし方”にあるのです。
時間は有限であって、無限ではありません。自分の掲げた目的・目標に向かい、優先順位を明確にすることで区切りをつけ、英断を下していきましょう。