はじめに
自分の将来について、漠然とした不安に襲われることはないでしょうか。進学や就職、転職や独立などの節目の時期になると、特に不安を感じることがあるかもしれません。しかし、こうした節目でなくても、ふとした時に感じる不安、「自分は大丈夫なのか…」とぼんやりと考え込んでしまうことも少なくないようです。
こうしたことの背景には、先が見えない…予測できない未来に対する不安があります。それらは、その時にならないとわからないので、ついつい、不安をそのままにしてしまいがちです。そして、感じたことを放置してしまった結果、漠然とした不安に飲み込まれ、ストレスを抱え込んで、我慢を重ねてしまったがために、物事がうまく進まないといった現象を引き起こしていることもあるのです。
そうだとすれば、私たちの目の前で発生している様々な出来事は、「心の現れ」と捉えることができるでしょう。
今回は、より良い結果を引き寄せる前段階で発生する、漠然とした不安の正体とその解消方法について、掘り下げていきたいと思います。
1、漠然とした不安の正体は?
漠然とした不安が生じる原因のひとつとして考えられるのは、不安を思考で捉えきれず、感覚的に感じている点です。「なんとなく不安に感じるけど、何に対して不安に感じているのかわからない」といったことや、「不安に感じているものははっきりしているが、どうしたいいのかわからない」という感じです。
不安という気持ちは、わけがわからないと、ますます増幅してしまう性質をもっていることから、逆に、“わけ(不安の理由)”がわかれば不安に感じている感情は収まるといった部分があるといえるのです。
しかし、不安を抱えている人にとって、不安の中身を“知る”という行為そのものに“恐怖”を感じる人もいます。それは、自分自身と向き合うことになるためです。
たとえば、不安を訴える人に対して、「何が不安ですか?」と尋ねてみます。すると、大体似たような回答が返ってきます。それは、「よくわからないんだけど…とにかく不安なんだ」といった漠然とした言葉です。ここで会話を終わらせてしまっては先に進まないので、漠然としたものの中から、何が(何を)不安に感じているのかについて探しにいくことを行います。
そもそも、不安というのは、何かを恐れている時に湧き上がる感情のひとつとして見ることができますから、自分自身が何に恐れているのかがわかれば、わけのわからない不安は、わけのわかる不安となり、漠然とした不安ではなくなることになります。
そうなれば、どのように取り扱うかも明らかになり、対処可能な不安(問題)となるので、心の整理がついて、気持ちが落ち着くようになるのです。
ここで、数種類の「不安の正体」についてみてみましょう。
1)社会人としての不安
近年、テクノロジーの急激な進化などによって、私たちの生活はより豊かなものに変わったといえるでしょう。しかし、その分、情報は多岐に渡り、色々な物事が複雑になったことで、「先行き不透明で、将来の予測が困難な状態」と感じることも多くなっているようです。
一見、問題点が目に見えているかのような感覚があるかもしれませんが、どんな問題かがわかっても、何を、どのように、手をつけていけばいいのかがわかったわけではないので、不安を解決できず、慢性的な不安定状態からは抜け出せていないこともよくあるものです。
また、テクノロジーの進化によって、ビジネス面では画期的なサービスが提供される中で、これまでであれば考えられないような業界からの参入などもめずらしくありません。その結果、これまでの“業界内で常識とされたルール”等が、突然変化してしまい、まるで転職したかのように会社の環境や状況が大きくかわることもあります。
同時に、働き方の多様化によって、終身雇用や年功序列など、従業員のキャリア保証をしてきた制度もなくなりつつあり、企業の平均寿命も短くなってきた背景から、誰もが転職を経験するのが当たり前の時代に変化してきたといえます。そのため、かつてのように、ただ会社の言いなりに働けばいいのではなく、自分で考えて自分で自分の身を守らなければならなくなっているのです。
こうしたことから、「世の中の変化についていけない」、「自分にできる仕事が、無くなってしまう」、「いつか職を失ってしまう」といった「社会人としての不安」が膨らみやすい状況にあるのです。
2)ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)の不安
仕事は、暮らしを支え、生きがいや喜びをもたらすものですが、一方で、家事や育児、近隣の人との付き合いなどは生活に欠かすことの出来ないものであり、その充実があってこそ、人生の生きがいや喜びは倍増していくといえるでしょう。
しかし、実際には、安定した仕事に就くことができず、経済的にも自立することができないことや、日々の仕事に追われ、心身の疲労から健康を害し、仕事と生活の間で問題を抱える人は少なくありません。
さらに、仕事と私生活のほか、「結婚」や「子供」という要素が加われば、ますます、バランスを取るのが大変になります。加わらなかったとしても、今度は、結婚したい願望があるのに相手がいない、相手がいても結婚に至りきれないといったことがあれば、それはそれで不安に感じることでしょう。
子供にしても同様です。子供がいれば、子供に対する責任が伴い、自分の生活面の負担も大きくなります。そこがうまくいっても、ちゃんと育てられるかなど他にもたくさんの不安要素があるので、どう転んでも、「ワーク・ライフ・バランス」における不安はつきまとうのです。
3)老後の不安
現状から考えると、今の20代〜40代が年金をもらう頃には、今の年金受給者よりもはるかに少ない額となる可能性がありそうです。こうしたことも先行き不透明不安の材料となります。また、年金だけでなく、多くの人が不安に感じていることとして、年齢を重ねることによる体力低下、病気、怪我などの身体的な健康面もあるでしょう。その他、長年連れ添った配偶者との別れも精神的に辛い影響となります。いずれにせよ、心身のバランスを崩して、健康を損なうことのないように注意しておく必要があるでしょう。
平均寿命が伸びている近年において、「老後に金銭面で困らないか」、「ちゃんとした生活を送ることができるのか」、「ずっと健康で過ごすことができるのか」等々、老後の不安も多くある状況なのです。
2、漠然とした不安を取除く方法は?
不安を感じている他人といるだけで、「自分も、なんだか不安に感じる」こともよくあります。ネガティブな感情というのは、人から人へと伝播していく傾向がありますので、社会的な不安感が高まることで、自分自身が“なんとなく不安な気持ちになってしまう”のは仕方がないことかもしれません。
しかし、自分自身で漠然とした不安から身を守る方法を知っておくことで、振り回されがちな現象から、身を守ることは可能です。そこで、次は、心の状態が不安定な時やなんとも言えないストレスを感じた時などに活用できる解消法をいくつか紹介していきたいと思います。
1)朝の瞑想
私たちは、今この一瞬に生きているようで、実は過去や未来のことばかりを考えてしまい、「心ここに在らず」の状態になりがちです。特に、過去の失敗や未来の不安といったことほど、考えこんでしまうので、気づけば、不安だらけで1日が終わっていたなんてこともあります。そうなると、自分で不安やストレスを増幅させてしまっていることになります。
朝の瞑想は、不安に囚われた心を解放し、心を“今”に向けた状態を作り出していく方法です。続けることは難しいと言われていますが、もし、やってみて、「気持ちいい」と感じることができたのであれば、少しの時間であってもいいので、続けてみてはいかがでしょう。
2)適度な運動
不安な気持ちで心が満たされてしまうと、身体的にも縮こまりがちです。そんな時は、適度な運動が効果を発揮します。特別な器具を購入しなくても、ジョギングや散歩などの有酸素運動や、筋力トレーニングといったことを取り入れて、身体を動かすことに意識を向けてみてはいかがでしょう。身体が緩むだけでなく、気分転換にもなります。
ただ、適度な運動も習慣化することが難しいので、まずは、身体に負担をかけすぎないような“適度な運動”にとどめて、定期的に身体を動かしたくなる程度から取り組むことがポイントです。
3)他者との交流
楽器を楽しんだり、絵を書いたり、陶芸をしたりと、時間を作った趣味をもつことも有効的です。創造性を刺激するようなことは、不安に感じていることを発散する効果があります。
また、色々な趣味を生活に取り入れることで、他者との交流のきっかけとなり、会話を交わす機会も増えますので、人とのコミュニケーション時間を意図的に増やすことになります。すると、心の状態もプラスに働き始めます。
もし、直接コミュニケーションを取ることが叶わなければ、電話などを活用して、お互いの声を聞くことでも、気持ちが前向きになる効果もあるので試してみてはいかがでしょう。
まとめ
漠然とした不安の正体、不安の解消法を紹介してきましたが、私たちの周りには漠然としたものが多く存在しています。そのひとつひとつに対して不安に感じるのは、やはり、漠然としているからでしょう。
こうした不安を取り除くには、漠然としたものを明確にさせることが、解消への一歩となりますが、まずは、「言語化」することで、物事を客観視し、整理がつき、漠然としたものの核心へと近づくことができます。そして、核心に迫ることができたならば、あとは、その物事を解決する方向に思考を巡らせ、行動するという流れになります。
また、行動する段階で、不安なものを取り扱うことになるので、物事によっては解消することが難しいものも出てくるかもしれません。しかし、焦ることはありません。
ゆっくりと、自分のペースで、そのものを見つめていくことで、具体的な解決方法が見えてきますし、必然的に、適切な行動を取りやすくなるものです。
根拠のない空想や妄想に振り回されないように、建設的で生産的なことにエネルギーを費やせるように、一歩一歩着実な思考を巡らせていきましょう。
そして、最後にお伝えしておきたいことは、「不安やネガティブな感情は、私たちを苦しめるためにあるのではなく、危険から守るために働いてくれる警告信号」であるということです。
もちろん、不安が過剰にあるのは望ましくはありませんが、無くなってしまっても困るものです。ですから、適切なお付き合いをしていけるように心がけていきましょう。
もし、抱え切れないほどの不安に出会ってしまった時には、カウンセラーなどの専門家の手を借りながら、前に進んで行ってみてはいかがでしょう。
不安を感じるのは自然なことで、恐れる必要はありません。不安に気がついたら、立ち止まってみましょう。漠然とした不安でも、口に出すだけで、心が少し軽くなるものです。